質問者:
会社員
T.K.
登録番号2236
登録日:2010-06-30
初めて質問させていただきます。みんなのひろば
発芽前後のインゲンマメ及びトウモロコシの種子について
小学校の理科の第5学年では,「植物は種子の中の養分を基にして発芽すること」を学習しますが,それを確かめる実験として,発芽前後のインゲンマメの種子と子葉あるいはトウモロコシの種子などにヨウ素液をつけ,ヨウ素でんぷん反応を調べます。
そして,発芽前にはヨウ素でんぷん反応が見られるのに対して,発芽後にはヨウ素でんぷん反応がほとんど見られないことから類推して,種子が発芽するときには種子の中の養分(でんぷん)が使われていると結論付けます。しかしながら,もしも種子の中のでんぷんが分解されて糖になったときに,すぐに胚に移動していかず,種子に蓄えられるのであれば,ヨウ素でんぷん反応を調べただけでは糖については調べられないため,上記の結論を導くことはできないのではないかという疑問が浮かびました。
そこで,以下の2点についてご質問させていただきたく存じます
。
①種子の中に貯蔵されていたでんぷんが糖に分解されたとき,分解された糖はすぐに胚に移動して,発芽のための養分として使われるのでしょうか。あるいは,糖もしばらくは種子の中に貯蔵されるのでしょうか。
②発芽後のしわしわになったインゲンマメの子葉あるいはトウモロコシの種子は,どのような物質からできている(どのような物質が残っている)のでしょうか。
発芽前の種子と併せて具体的な測定データ等がございましたら,それとともにご教授いただきたく存じます。何とぞよろしくお願いいたします。
T.K.さん
ご質問をお寄せ下さりありがとうございます。種子の発芽は小学生の理科学習にとっては重要なテーマであるようですね。この質問には基礎生物学研究所の林 誠博士が回答文をご用意下さいました。ご参考になさって下さい。
(林 誠博士からの回答)
少し古い本ですが、J.D. BewleyおよびM. Black著のPhysiology and Biochemistry of Seeds -in relation to germination (1978)Springer-Verlag社に種子の生理学的生化学的特徴が詳しく書かれているので、参考になると思います。
(1)発芽を始める前の乾燥種子には、炭水化物や脂質、タンパク質がたくさん含まれています。たとえば、トウモロコシの種子には、炭水化物約75%、脂質約5%、タンパク質約11%が含まれています。インゲンとよく似た組成をもつエンドウでは、炭水化物約52%、脂質約6%、タンパク質約25%となっています。これら物質の大部分は、初期生長に必要な貯蔵物質であるデンプンや貯蔵脂肪、貯蔵タンパク質で占められています。デンプンの蓄積部位は、トウモロコシのような胚乳種子とインゲンのような無胚乳種子とでは大きく異なります。トウモロコシの場合、デンプンは主に胚乳に蓄積しています。胚乳は胚とは全く由来の異なる細胞からなる組織です。胚乳のデンプンは発芽後急速に分解されて糖になり、胚に吸収されて茎頂や根端などが成長するために必要な養分として使われます。一方、インゲンの場合には、胚の一部である子葉が主なデンプンの蓄積部位です。胚乳は存在しません。子葉のデンプンは糖に分解された後、同じ胚の中の茎頂や根端分裂組織などへ転流されて生長のための養分として使われます。
上述の本の中に、エンドウ子葉のデンプンおよび糖含量を測定したデータがあります。乾燥種子の中に入っている子葉には、デンプンがたくさん蓄えられています。子葉のデンプンは、発芽・生長する過程で急速に消失していきます。一方、糖含量はもともと低く、成長とともにさらに減少します。つまり、エンドウの子葉に蓄積するデンプンは糖に分解され、すばやく転流されて成長のために使われると考えられます。
(2)トウモロコシの種子内部の大部分は胚乳が占めています。胚乳は貯蔵物質を蓄積することに特化した組織です。上述の本の中には、さまざまな貯蔵物質が分解していく様子が説明されています。胚が生長しても、胚乳は種子の中に留まったまま、デンプンなどの貯蔵物質を失っていき、最後には細胞壁成分などの自己分解できない物質が残ると考えられます。一方、無胚乳種子であるインゲンの場合、種子内部の大部分は子葉で占められています。インゲンは地上子葉性なので、胚の生長とともに子葉が地上に出てきます。ただし、インゲンの子葉は、あまり生長や緑化しないまま、貯蔵物質を失い、萎縮・脱落していきます。無胚乳種子でもエンドウのように地下子葉性の場合では、子葉が地下に留まったままで貯蔵物質を失い、萎縮していきます。これらの子葉も、最後には細胞壁成分などの分解できない物質が残ると考えられます。
ただし、地上子葉性無胚乳種子を持つ植物の中には、インゲンとは異なり、地上に出た子葉が生長・緑化するものが多く存在します。たとえば、キュウリやヒマワリ、ダイコンなどです。これらの植物は、生長に必要な養分をはじめは子葉の貯蔵物質から、次に緑化した子葉の光合成から、最後に本葉の光合成から得ていきます。本葉の光合成が十分機能するようになると、子葉はやがて老化(セネッセンス)して、脱落します。キュウリやヒマワリ、ダイコンなどは、緑化子葉が光合成によってデンプンを新たに合成しはじめるので、ご質問のような生長過程におけるデンプン分解のようすを調べる実験には向きません。
林 誠(自然科学研究機構基礎生物学研究所・高次細胞機構研究部門)
ご質問をお寄せ下さりありがとうございます。種子の発芽は小学生の理科学習にとっては重要なテーマであるようですね。この質問には基礎生物学研究所の林 誠博士が回答文をご用意下さいました。ご参考になさって下さい。
(林 誠博士からの回答)
少し古い本ですが、J.D. BewleyおよびM. Black著のPhysiology and Biochemistry of Seeds -in relation to germination (1978)Springer-Verlag社に種子の生理学的生化学的特徴が詳しく書かれているので、参考になると思います。
(1)発芽を始める前の乾燥種子には、炭水化物や脂質、タンパク質がたくさん含まれています。たとえば、トウモロコシの種子には、炭水化物約75%、脂質約5%、タンパク質約11%が含まれています。インゲンとよく似た組成をもつエンドウでは、炭水化物約52%、脂質約6%、タンパク質約25%となっています。これら物質の大部分は、初期生長に必要な貯蔵物質であるデンプンや貯蔵脂肪、貯蔵タンパク質で占められています。デンプンの蓄積部位は、トウモロコシのような胚乳種子とインゲンのような無胚乳種子とでは大きく異なります。トウモロコシの場合、デンプンは主に胚乳に蓄積しています。胚乳は胚とは全く由来の異なる細胞からなる組織です。胚乳のデンプンは発芽後急速に分解されて糖になり、胚に吸収されて茎頂や根端などが成長するために必要な養分として使われます。一方、インゲンの場合には、胚の一部である子葉が主なデンプンの蓄積部位です。胚乳は存在しません。子葉のデンプンは糖に分解された後、同じ胚の中の茎頂や根端分裂組織などへ転流されて生長のための養分として使われます。
上述の本の中に、エンドウ子葉のデンプンおよび糖含量を測定したデータがあります。乾燥種子の中に入っている子葉には、デンプンがたくさん蓄えられています。子葉のデンプンは、発芽・生長する過程で急速に消失していきます。一方、糖含量はもともと低く、成長とともにさらに減少します。つまり、エンドウの子葉に蓄積するデンプンは糖に分解され、すばやく転流されて成長のために使われると考えられます。
(2)トウモロコシの種子内部の大部分は胚乳が占めています。胚乳は貯蔵物質を蓄積することに特化した組織です。上述の本の中には、さまざまな貯蔵物質が分解していく様子が説明されています。胚が生長しても、胚乳は種子の中に留まったまま、デンプンなどの貯蔵物質を失っていき、最後には細胞壁成分などの自己分解できない物質が残ると考えられます。一方、無胚乳種子であるインゲンの場合、種子内部の大部分は子葉で占められています。インゲンは地上子葉性なので、胚の生長とともに子葉が地上に出てきます。ただし、インゲンの子葉は、あまり生長や緑化しないまま、貯蔵物質を失い、萎縮・脱落していきます。無胚乳種子でもエンドウのように地下子葉性の場合では、子葉が地下に留まったままで貯蔵物質を失い、萎縮していきます。これらの子葉も、最後には細胞壁成分などの分解できない物質が残ると考えられます。
ただし、地上子葉性無胚乳種子を持つ植物の中には、インゲンとは異なり、地上に出た子葉が生長・緑化するものが多く存在します。たとえば、キュウリやヒマワリ、ダイコンなどです。これらの植物は、生長に必要な養分をはじめは子葉の貯蔵物質から、次に緑化した子葉の光合成から、最後に本葉の光合成から得ていきます。本葉の光合成が十分機能するようになると、子葉はやがて老化(セネッセンス)して、脱落します。キュウリやヒマワリ、ダイコンなどは、緑化子葉が光合成によってデンプンを新たに合成しはじめるので、ご質問のような生長過程におけるデンプン分解のようすを調べる実験には向きません。
林 誠(自然科学研究機構基礎生物学研究所・高次細胞機構研究部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-07-05
佐藤 公行
回答日:2010-07-05