一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根によるイオン(肥料塩)の吸収について。

質問者:   自営業   A・S
登録番号2256   登録日:2010-07-15
植物の根によるイオン(肥料塩)の吸収について、ご教授ください。
植物生理学の書物を見ていて、根による水の吸収は、根が半透膜に覆われているため、水ポテンシャルの高い(低濃度の溶質)ほうからポテンシャルの低い(高濃度の溶質)側に移動する浸透圧が関与していることは理解できました。
また、師管中の物質の移動は、圧流説に基づき濃度勾配に従って移動することもわかりました。
しかし、「植物の根は半透膜で覆われているため、このようにはいきません。根の細胞内に蓄積されたイオンは、細胞の外より高くなり、濃度の高い方から低いほうへ移動するという単純な拡散ではなく、濃度勾配に逆らって、イオンを移動させる積極的な吸収であり、エネルギーを消費する。」と書かれていますが、そのエネルギーはどのように働くのでしょうか?
また、初期の受動的吸収は何となく理解できるのですが、「初期の急激な取り込みに続いて、ゆっくりとした一定速度の取り込みは、温度や酸素分圧に影響を受ける生理的なもので、能動的輸送と呼ばれ、エネルギーを消費する。」などと書かれているのですが、具体的なエネルギーの働きが書かれている本に巡り会えません。
液体中での酸素の拡散速度は、気体中と比べて10000倍遅いことを考えると、酸素分圧に影響されることまでは理解できるのですが、植物の根が掃除機のようにエネルギーを消費して、イオンを吸引しているのでしょうか?
質問が長くなりまして申し訳ございません。
ご教授のほど、よろしくお願い申し上げます。
A・S 様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問によると、なにか植物生理学の書物を読んでおられるようですが、細胞の物質透過についての基礎的な理解が不足のように思います。読まれた書物がどれかは分かりませんが、適切な教科書を読めば、明快な理解が得られるでしょう。一冊上げるとすれば、テイツ/ザイガー植物生理学教科書(培風館)です。植物のおける水分、ミネラルの吸収・移動、光合成産物の転流などについて、分子細胞学的観点からも分かりやすく詳しく説明されています。ここで詳しい解説をするよりはこれらの参考書を呼んでいただくことを薦めます。また、本質問コーナーでの過去の回答にも関連の内容のものがありますので、ぜひ読んで下さい。(登録番号0492,登録番号0531,登録番号1155,登録番号1302,登録番号1820,登録番号2222)。ここでは簡単にご質問に答えます。
細胞膜の水分子を含めた物質の透過(出入り)にはいくつかの様式があり、基本的には動物細胞も植物細胞も変わりありません。三つのタイプがあります。一つは単純な拡散による移動、細胞膜は親脂性(疎水性)なので、低分子の疎水性物質などの透過が可能です。二つ目は促進拡散で水溶性物質の受動的な透過機構のの一つです。それぞれの分子に特異的な輸送タンパク質やチャネルタンパク質我存在します。これら二つはエネルギーを必要としないので、受動的輸送と呼ばれています。三つ目は能動的輸送と呼ばれるもので、ATPエネルギーの消費を伴い、細胞内外の電気化学ポテンシャルの勾配に逆らって輸送する様式です。やはり、特定の膜タンパク質が関与しています。水分子は分子が小さいため、単純拡散で細胞膜を透過できますが、実際には大量の水分子が出入りします。これはアクアポリンという輸送タンパク質からできている水チャネルを通して行われます。
物質の細胞膜透過の機構については上記植物生理学教科書のほかに、細胞生物学の教科書なら多分どれでも分かりやすく解説されていると思いますが、二冊書名を挙げておきます。
エッセンシャル細胞生物学(アルバーツ他著)南江堂;カープ分子細胞生物学(カープ著) 東京化学同人 
なお、質問の中に「根が半透膜に覆われている」という記述がありますが、これは全くのあやまりです。多分細胞膜には半透性の性質があるということを指しているのだと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2010-07-16