一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ホウレンソウ入りのジュースに含まれるシュウ酸とカルシウムについて

質問者:   会社員   diana
登録番号2267   登録日:2010-07-26
ホウレンソウにはあまり摂取しない方が良いとされる、硝酸態窒素とシュウ酸が含まれていると言います。硝酸態窒素はそれなりに生合成メカニズムなどの研究情報があるのですが、シュウ酸に関してはあまり研究情報がないように感じましたので、こちらで質問させていただきました。

まずホウレンソウなどのシュウ酸についての質問ですが、そもそも何のためにシュウ酸が生成されるのでしょうか?こちらでの過去の質問回答で、「根の環境のpHを下げるために必要なのが水素イオン、これを有機酸であるシュウ酸が放出している」とありましたが、そもそもなぜ有機酸としてシュウ酸が生成されてしまうのでしょうか?

次にシュウ酸とミネラルについてですが、ホウレンソウには遊離型シュウ酸、シュウ酸カルシウム、シュウ酸カリウムが含まれていると聞きました。ということは、ホウレンソウ入りのジュースに含まれるCaやKは、シュウ酸由来のものも含まれるということでしょうか?ちなみにアクとよばれるものは、シュウ酸カリウムで、シュウ酸カルシウムではないのですか?(ある文献にはそう書かれていました。)
体に良いとされる野菜にも、良くない成分があるということで、最近とても気になってしまいます。可能な範囲でご教授いただければ幸いです。
Diana さま

ホウレンソウに含まれるシユウ酸については、本質問コーナーの質問登録番号0236, 登録番号1119, 登録番号1205に対する回答で詳しく、いろんな面からの解析が示されています。他の植物でのシユウ酸についても登録番号0432, 登録番号1268への回答に解説されていますので、参照して下さい。

植物でシュウ酸(COOH-COOH)は、グリオキシル酸(CHO-COOH)と酸素から、グリオキシル酸オキシダーゼにより酸化され、生合成されます。グリオキシル酸はグリコール酸(CH2OH-COOH)から生成しますが、グリコール酸は光合成によるCO2固定の過程で、同時に進行する光呼吸で生じ、従って、グリコール酸、グリオキシル酸は光呼吸をもっている全ての植物で、常に葉の細胞で生成している有機酸です。光呼吸過程は、トウモロコシのようなC4植物以外の、すべての植物(C3植物)がもっています。光呼吸の詳細については、質問登録番号1895への回答をご覧ください。C3植物で、光呼吸過程でグリコール酸から生じたグリオキシル酸の大部分はグリシンとなり、グリオキシ酸回路を経て代謝されます。この回路が円滑に機能しないでグリオキシル酸が代謝されないと、上の経路でシュウ酸ができると考えられています。

上のようにして合成されたシュウ酸がどんなカチオンと塩を形成するかは、植物細胞内のカチオン組成によって決まるといってよいでしょう。カリウム、カルシウムも共に植物の生育にとって絶対に必要ですから、ホウレンソウの細胞には必ずこれらのイオンが多少とも含まれています。従ってシュウ酸は遊離の形、カリウム塩、カルシウム塩として細胞内に存在していますが、カルシウム塩は特に溶解度が低いため、時に細胞内で結晶の形になっていることもあり、いわゆる、えぐ味を与える原因になります。

ホウレンソウに限らずシュウ酸は多くの植物に多少とも含まれていますが、これが植物(野菜)に含まれている量で、通常に摂取する量で毒性をもっているとは考えられません。野菜を摂取することは健康のために勧められていますが、ガンにならないための食事としてWorld Cancer Research Fundは2007年、“毎日、多くの種類の野菜、果物を全体として400 gを5 回に分けて摂取すること”を勧告しています。これは世界の食事習慣とガンとの多くの疫学データを調査した上での勧告です。できるだけ多くの種類の野菜、果物を毎日、摂取することが大切のようです。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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