一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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水ポテンシャルについて

質問者:   大学生   サクラ
登録番号2268   登録日:2010-07-26
樹木の生理について学んでいますが、分からないことがあります。

葉の水ポテンシャルと木部の水ポテンシャルでは何が違うのですか?
測定時には、なぜそれぞれ測定する必要があるのですか?
サクラ さま

植物による水の吸収は、根の根毛などの若い細胞が主として水を吸収し、これが根の導管にまで移動し、根、茎の導管を通り、葉の葉脈を経て葉の個々の細胞に移動し、次いで、気孔を経る蒸散作用によって空気中に水蒸気として放出されます。水が植物体内を移動できるのは、それぞれの段階、すなわち、(1)土壌―根毛の細胞、(2)根の細胞―根、茎の道管、(3)茎の道管、葉柄、葉の道管―葉の細胞、(4)気孔―大気の間に、水-ポテンシャルがあり、この水ポテンシャルがそれぞれの段階で、水の移動の原動力となっています。(1)〜(4)の水ポテンシャルのうち、最も水ポテンシャルの低い段階が律速となって全体の水の移動量が支配され、例えば、雨が降らないため土壌の水分が低くなると、(1)の土壌―根毛の間の水ポテンシャルがゼロになり植物は水を吸収できなくなり、他の段階の移動量もゼロに近くなります。一方、夜になって葉が光合成をしなくなると昼間に比べて気孔が閉じた状態になり、細胞の水が大気に放出できなくなるため(4)の水ポテンシャルがゼロ近くになり、その結果、植物全体の水の移動速度が夜間に低くなります。
 
植物の中を水が移動する各段階で、(1)、(4)は最も環境によって影響を受けやすく、植物は水ストレスになっても枯れないようにいろいろなシステムによって調節しています。水ストレスのシグナルによって葉の気孔を閉じるようにする、といったように生物的なシグナルによって水の損失を抑える、水ポテンシャルを低くする、といった機構で調節しています。一方、導管では、主に物理的な機構によって水ポテンシャルを生み出しています。そのためこれを調節することは困難であり、どんな環境条件になってもほぼ一定の水ポテンシャルを保っていると考えられています。道管は0.6 mm以下の細いパイプで、これによって生ずる水の凝集力、表面張力が導管の水ポテンシャルとなっています(これらについての詳細は本質問コーナーの質問登録番号0656, 登録番号1073への回答をご覧下さい。)
 
ご質問の木部の水ポテンシャルは主として根の導管―幹の導管―葉の細胞の間の、そして葉の水ポテンシャルは主に葉の導管―葉の細胞―気孔―大気の間の水ポテンシャルを指していると考えられます。これらを測定することによって、研究しようとしている樹木で水の吸収、移動に、木部、葉のうち、どちらの寄与が大きいか、などを明らかにすることができるでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-08-04
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