一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クロロフィルaの吸収スペクトルについて

質問者:   教員   ミラクル
登録番号2270   登録日:2010-07-29
ペーパークロマトグラフィーの実験と併せて、ホウレンソウのアセトン抽出液を用いて、以下の要領でクロロフィルaを抽出し、分光光度計を用いて吸収スペクトルを求めたところ、660nm付近の吸収極大は得られるのですが、440nm付近の吸収極大を得ることができませんでした(480nm位から徐々に吸光度は上がるのですがが、440nm以下での下降がみられません)。どのような理由が考えられるのかご教示いただけると幸いです。

①ホウレンソウの葉のアセトン抽出液に石油エーテルおよび純水を加え攪拌する。
②上層の分画をとり、メタノールを加え攪拌し、上層の石油エーテルの方の吸光度を測定した。
ミラクル さま

色素の抽出に用いられた有機溶媒の組成が少し詳しく示されていないため、また、抽出と遠心分離で残渣を分離された段階がはっきりしないため、正確にお答えするのがむつかしいご質問です。抽出液の吸収スペクトルでクロロフィールの長波長側のピークがはっきり観測できるのに、短波長側の450 nm付近のピークがはっきり観測できないとのことですが、最も考えられることはカロテノイドの吸収がこの付近で重なるためと思われます。

標準的なクロロフィールの定量は、アセトン:水(4:1, v/v(容積比))によって葉を細かくなるまですりつぶし、遠心分離によって残渣を除き、上澄みについて645, 663 nmでの吸光度から測定します(Arnon法)。ほとんどの植物で、この方法でクロロフィールa, bを完全に抽出でき、それぞれの含量を求めることができ、世界的な標準法となっています。

アセトン抽出液(この時100%アセトンでしょうか? アセトンとホウレンソウとの割合は?)を石油エーテルで抽出されていますが、この時ホウレンソウの抽出残渣が入っていたのでしょうか?もしそうであれば、アセトンによって抽出されなかったカロテノイドが石油エーテルによって残渣から抽出された可能性があります。カロテノイドはクロロフィールに比べ、葉から抽出するためには、より極性の低い溶媒が必要です。従って、この段階でカロテノイドが石油エーテルによって葉から抽出され、石油エーテル層に移った可能性があります。そのために石油エーテル層を用いて測定した吸収スペクトルに、カロテノイドの吸収スペクトルが重なり、450 nm付近のクロロフィールの吸収ピークが見えにくくなったと思われます。カロテノイドは650 nm付近にはまったく吸収がありませんので、クロロフィールのこの波長領域でのスペクトルや定量には影響しません。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-08-04
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