質問者:
会社員
木村
登録番号0023
登録日:2004-02-10
キリンがアカシアの木を食べると、アカシアは揮発性の化学物質を発散し、近くのアカシアはそれを警戒信号として感知し、自分の葉に渋いタンニンを送りこんで防御対策をとります。キリンはそのことを知っているので、警戒信号を感知していない、木に移動していくそうです。みんなのひろば
アカシアの警戒信号について
この揮発性の化学物質(警戒信号)はどこからでて、どこで感知するのでしょうか?
いろんな文献を調べてみたのですが、どこにも記入されていないようです。
まだ、不明なのでしょうか?
ご回答、よろしくお願いいたします。
木村さま
ご質問有り難うございます。
お尋ねの件について、植物が草(植)食性の昆虫や動物の被害を受けると、様々な化学物質を放出することは広く知られています。残念ながら、お尋ねのアカシアについてどのような化学物質が関わっているかは私は知りませんが(早急に専門家に尋ねてみます)、近年このような傷刺激で重要な働きをしているとされているのがジャスモン酸(あるいはメチルジャスモン酸)と呼ばれる低分子の植物ホルモンの一種です。ジャスモン酸は、細胞内で脂肪酸の一種リノレン酸から合成されることが知られています。恐らくは、食害を受けた組織近傍の細胞で傷刺激に応じて合成された揮発性化合物が、周囲の組織あるいは植物に新たな応答を引き起こすと考えるのが妥当だと思います。ジャスモン酸については、植物細胞がどのようにしてその刺激を感知できるのかは全くわかっていません。近年、ジャスモン酸に応答する多様な遺伝子群の作用が詳細に研究され始めていますので、そう遠くない将来に感知機構についても新た
な事実がわかるものと思います。
尚、ここでは比較的一般的な傷刺激関連物質としてジャスモン酸を取り上げましたが、傷により生成される揮発性物質として、植物ホルモンとして有名なエチレンなどもありますし、その他にもサリチル酸メチルなど多様な揮発性物質が知られています。それらの物質が特定の場所(組織)で合成されて、特定の場所でのみ作用するというよりは、植物体のどこででも(全てではありませんが)合成され、様々な場所で感知できるということのように思えます。
詳細がわかりましたら、改めてご回答させていただきます。
三村 徹郎(広報委員、奈良女子大学)
木村さま
先日のご質問について、京都大学生態学研究センターの高林純示先生から以下のようなご回答をいただきました。高林先生は、植物-植食者-捕食者三者相互作用ネットワークに関する研究をしておられます。
三村 徹郎
木村様
三村先生の回答を読んで、さらに補足的なお話しです。
わたしもキリンの話は良く知りませんf(^_^) 。内容的には植物間コミュニケーションですが、探したのですが出典がわかりませんでした。「動物たちの自然健康法」 (シンディ・エンジェル、紀伊國屋書店)にどうものっているようですが・・。
これまでのいくつかの研究から、様々な植物間(害虫被害株と健全株)で匂いを介したコミュニケーションがあるのではないか、と言われています。これらはtalking plant hypothesisと言われています(が、実際は健全株が匂いを受容するので、listening plantが正しいんじゃないの?という話もあります)。それらの場合、匂いは被害株から出る場合と、全身(といっても被害葉以外の葉だろうと思いますが)から出る場合の両方があるだろうと考えています(ですが、全身反応に関しての詳細な研究は無いようです)。
匂いの成分ですが、現象として記載されていてもどんな警戒信号なのか?についてハッキリしている例は少ないです。ジャスモン酸メチルを放出する植物(この化合物を放出する植物はおそれく例外的だと思います)は、隣の植物(同種でなく異種でも構いません)の抵抗性を高めます。これ以外にもみどりの香り(お茶の香りの主成分です)、揮発性テルペン(香水の原料です)、サリチル酸メチル(サロンパスの成分)なども、同じような働きをするという報告があります。
なお、言い訳ですが、植物間のコミュニケーションは、現象として比較的最近「ほんとうだ」と言われるようになったので(むかしからそういう話はありましたが、化学的な根拠に乏しい場合が多かった)、いまはそのパターンを検出する段階です。というわけで話はどうも、ようだ、だろう、とおもわれる、というような玉虫色の表現になってしまいます。
どこで感知しうるか、も重要な問題で(今それに取り組んでいるところで・・ムズカシイ)、ようするに植物に鼻はあるのか、あるとすれば一体どこ?という質問です。気孔とかは、ぱっと思いつきますが、まだ実証データは無いようです。これがわかれば大変面白いと思います。可能性としては、細胞膜に匂い受容体があるのだろうということです。植物の匂い受容体はエチレンがわかっているだけです。動物の匂い受容と、その機構が同じなのか、違うのかなど、興味はつきません。
植物間の会話は根っこを通しても行うという報告もあります。根っこからどんな成分が出て会話に利用されているのかはまだわかっていません。
ご質問有り難うございます。
お尋ねの件について、植物が草(植)食性の昆虫や動物の被害を受けると、様々な化学物質を放出することは広く知られています。残念ながら、お尋ねのアカシアについてどのような化学物質が関わっているかは私は知りませんが(早急に専門家に尋ねてみます)、近年このような傷刺激で重要な働きをしているとされているのがジャスモン酸(あるいはメチルジャスモン酸)と呼ばれる低分子の植物ホルモンの一種です。ジャスモン酸は、細胞内で脂肪酸の一種リノレン酸から合成されることが知られています。恐らくは、食害を受けた組織近傍の細胞で傷刺激に応じて合成された揮発性化合物が、周囲の組織あるいは植物に新たな応答を引き起こすと考えるのが妥当だと思います。ジャスモン酸については、植物細胞がどのようにしてその刺激を感知できるのかは全くわかっていません。近年、ジャスモン酸に応答する多様な遺伝子群の作用が詳細に研究され始めていますので、そう遠くない将来に感知機構についても新た
な事実がわかるものと思います。
尚、ここでは比較的一般的な傷刺激関連物質としてジャスモン酸を取り上げましたが、傷により生成される揮発性物質として、植物ホルモンとして有名なエチレンなどもありますし、その他にもサリチル酸メチルなど多様な揮発性物質が知られています。それらの物質が特定の場所(組織)で合成されて、特定の場所でのみ作用するというよりは、植物体のどこででも(全てではありませんが)合成され、様々な場所で感知できるということのように思えます。
詳細がわかりましたら、改めてご回答させていただきます。
三村 徹郎(広報委員、奈良女子大学)
木村さま
先日のご質問について、京都大学生態学研究センターの高林純示先生から以下のようなご回答をいただきました。高林先生は、植物-植食者-捕食者三者相互作用ネットワークに関する研究をしておられます。
三村 徹郎
木村様
三村先生の回答を読んで、さらに補足的なお話しです。
わたしもキリンの話は良く知りませんf(^_^) 。内容的には植物間コミュニケーションですが、探したのですが出典がわかりませんでした。「動物たちの自然健康法」 (シンディ・エンジェル、紀伊國屋書店)にどうものっているようですが・・。
これまでのいくつかの研究から、様々な植物間(害虫被害株と健全株)で匂いを介したコミュニケーションがあるのではないか、と言われています。これらはtalking plant hypothesisと言われています(が、実際は健全株が匂いを受容するので、listening plantが正しいんじゃないの?という話もあります)。それらの場合、匂いは被害株から出る場合と、全身(といっても被害葉以外の葉だろうと思いますが)から出る場合の両方があるだろうと考えています(ですが、全身反応に関しての詳細な研究は無いようです)。
匂いの成分ですが、現象として記載されていてもどんな警戒信号なのか?についてハッキリしている例は少ないです。ジャスモン酸メチルを放出する植物(この化合物を放出する植物はおそれく例外的だと思います)は、隣の植物(同種でなく異種でも構いません)の抵抗性を高めます。これ以外にもみどりの香り(お茶の香りの主成分です)、揮発性テルペン(香水の原料です)、サリチル酸メチル(サロンパスの成分)なども、同じような働きをするという報告があります。
なお、言い訳ですが、植物間のコミュニケーションは、現象として比較的最近「ほんとうだ」と言われるようになったので(むかしからそういう話はありましたが、化学的な根拠に乏しい場合が多かった)、いまはそのパターンを検出する段階です。というわけで話はどうも、ようだ、だろう、とおもわれる、というような玉虫色の表現になってしまいます。
どこで感知しうるか、も重要な問題で(今それに取り組んでいるところで・・ムズカシイ)、ようするに植物に鼻はあるのか、あるとすれば一体どこ?という質問です。気孔とかは、ぱっと思いつきますが、まだ実証データは無いようです。これがわかれば大変面白いと思います。可能性としては、細胞膜に匂い受容体があるのだろうということです。植物の匂い受容体はエチレンがわかっているだけです。動物の匂い受容と、その機構が同じなのか、違うのかなど、興味はつきません。
植物間の会話は根っこを通しても行うという報告もあります。根っこからどんな成分が出て会話に利用されているのかはまだわかっていません。
回答日:2006-08-10