質問者:
一般
サクマ
登録番号2301
登録日:2010-09-01
今、生物多様性の地域レベルでの学校教育用のプログラムを検討しています。森林や水田の面積から生成される酸素量や固定される二酸化炭素の量を求めることはできますか?
そこで地域(市町村)にあるデータ(森林面積、耕地面積)から光合成によってどのくらいの量の二酸化炭素が吸収されて酸素に変わるかを簡単に数量化できないか考えています。
たとえば針葉樹、広葉樹、水田、畑の面積が分かっている場合、さまざまな条件がかかわってくるとは思いますが、一つの目安として
それらが空気中の二酸化炭素をどれぐらいの量を吸収し、どれぐらいの量の酸素を供給しているかを求めることはできるのでしょうか?
教えてください。
サクマ様
本コーナーにご質問をお寄せくださり有り難うございました。
実際の森林や田畑について生成される酸素量や固定される二酸化炭素の量を正しく見積もることは、場所による環境その他の要因(品種を含めて)の差がありますので困難を伴います。しかし、教科書などに書かれている数値をもとに目安として計算してみることは大変興味深いことだと思います。なお、場合によっては、収穫した産物や残骸のその後の処理に伴う酸素や二酸化炭素の出入りについても考慮する必要がありますね。
この質問には、東京大学の寺島一郎先生(大学院理学研究科・生物科学専攻)が具体的な数値(文献も)を示し、詳しい回答文をご用意くださいましたのでご参考にしてください。
(寺島先生からの回答)
無機物から有機物をつくることを一次生産といいます。地球上のほとんどの一次生産を担うのは植物です。いろいろな「光合成」や「物質生産」関係の教科書に、純一次生産量が載っています。純一次生産は、
純一次生産 = 総一次生産 ― 呼吸
で表されるもので、見かけ(あるいは正味)の光合成量に相当するものです。
見かけ(正味)の光合成 = 真の光合成 ― 呼吸
純一次生産は、植物の成長、枯死脱落(落葉、落枝、落根)、被食(昆虫、草食獣などによって食べられること)の和で表すことができます。通常は植物体の1平米あたり1年間の、植物体乾燥重量、エネルギー量、炭素量で表されます。乾燥重量の1/2.2で炭素量を求めることができます。植物が固定する炭素量(モル数)は、発生する酸素量とほぼ等しいとしてよいでしょう。たとえば、少し古い本ですが、宮地重遠、村田吉男 編 「光合成と物質生産」理工学社 1980 の 村田吉男 氏の章には、これらのデータが満載です。以下に、かいつまんで紹介します。
純生産 植物体乾燥重量 kg/m2/year(一年間、1平方メートル当たりのキログラム数)
熱帯多雨林(タイ) 2.9
照葉樹林(大隅半島) 2.2
スギ人工林(九州) 1.5〜2.9
コジイ二次林(熊本) 1.9〜2.3
ヒノキ人工林(熊本) 1.5
ブナ林(新潟) 1.5
シラビソ林(富士山) 1.4
オギ(茨城) 2.0
セイタカアワダチソウ(茨城) 1.8
イネ (鴻巣) 2.4
コムギ(オランダ) 1.9
サツマイモ(鹿児島) 2.1
もちろん年間平均ではなく、生育のさかんな時期の純生産は大きく、g/m2/day(一日、1平方メートル当たりのグラム数)であらわすと、
ヒマワリ(東京) 68
トウモロコシ(福岡) 55
イネ(筑波) 36
などとなります。ただ、これらのデータは植物の生産についてのもので、実際には、植物体の枯死脱落部分は土壌の微生物によって分解され二酸化炭素となります。植物の純生産が大きく、その多くが植物の成長自体に使われるときにも、枯死脱落は起こるので、土壌微生物による酸素吸収、二酸化炭素発生は無視できません。ましてや、植物の成長が頭打ちになり、純生産のほとんどが枯死脱落となるような場合には、これらが微生物分解される際に放出される二酸化炭素と植物体の呼吸による二酸化炭素発生を足すと、真の光合成による二酸化炭素固定と近い値になります。鬱蒼とした森林生態系全体の二酸化炭素収支はほぼ釣り合うことにも注意して下さい。スギ林などでも立派な林になるほど、正味の二酸化炭素固定は少なくなります。
地球環境変化が植物生産に及ぼす影響については、盛んに研究されていますが、内嶋善兵衛著 <新>地球温暖化とその影響 裳華房 (2005)などがすぐれた教科書です。
寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科生物科学専攻)
本コーナーにご質問をお寄せくださり有り難うございました。
実際の森林や田畑について生成される酸素量や固定される二酸化炭素の量を正しく見積もることは、場所による環境その他の要因(品種を含めて)の差がありますので困難を伴います。しかし、教科書などに書かれている数値をもとに目安として計算してみることは大変興味深いことだと思います。なお、場合によっては、収穫した産物や残骸のその後の処理に伴う酸素や二酸化炭素の出入りについても考慮する必要がありますね。
この質問には、東京大学の寺島一郎先生(大学院理学研究科・生物科学専攻)が具体的な数値(文献も)を示し、詳しい回答文をご用意くださいましたのでご参考にしてください。
(寺島先生からの回答)
無機物から有機物をつくることを一次生産といいます。地球上のほとんどの一次生産を担うのは植物です。いろいろな「光合成」や「物質生産」関係の教科書に、純一次生産量が載っています。純一次生産は、
純一次生産 = 総一次生産 ― 呼吸
で表されるもので、見かけ(あるいは正味)の光合成量に相当するものです。
見かけ(正味)の光合成 = 真の光合成 ― 呼吸
純一次生産は、植物の成長、枯死脱落(落葉、落枝、落根)、被食(昆虫、草食獣などによって食べられること)の和で表すことができます。通常は植物体の1平米あたり1年間の、植物体乾燥重量、エネルギー量、炭素量で表されます。乾燥重量の1/2.2で炭素量を求めることができます。植物が固定する炭素量(モル数)は、発生する酸素量とほぼ等しいとしてよいでしょう。たとえば、少し古い本ですが、宮地重遠、村田吉男 編 「光合成と物質生産」理工学社 1980 の 村田吉男 氏の章には、これらのデータが満載です。以下に、かいつまんで紹介します。
純生産 植物体乾燥重量 kg/m2/year(一年間、1平方メートル当たりのキログラム数)
熱帯多雨林(タイ) 2.9
照葉樹林(大隅半島) 2.2
スギ人工林(九州) 1.5〜2.9
コジイ二次林(熊本) 1.9〜2.3
ヒノキ人工林(熊本) 1.5
ブナ林(新潟) 1.5
シラビソ林(富士山) 1.4
オギ(茨城) 2.0
セイタカアワダチソウ(茨城) 1.8
イネ (鴻巣) 2.4
コムギ(オランダ) 1.9
サツマイモ(鹿児島) 2.1
もちろん年間平均ではなく、生育のさかんな時期の純生産は大きく、g/m2/day(一日、1平方メートル当たりのグラム数)であらわすと、
ヒマワリ(東京) 68
トウモロコシ(福岡) 55
イネ(筑波) 36
などとなります。ただ、これらのデータは植物の生産についてのもので、実際には、植物体の枯死脱落部分は土壌の微生物によって分解され二酸化炭素となります。植物の純生産が大きく、その多くが植物の成長自体に使われるときにも、枯死脱落は起こるので、土壌微生物による酸素吸収、二酸化炭素発生は無視できません。ましてや、植物の成長が頭打ちになり、純生産のほとんどが枯死脱落となるような場合には、これらが微生物分解される際に放出される二酸化炭素と植物体の呼吸による二酸化炭素発生を足すと、真の光合成による二酸化炭素固定と近い値になります。鬱蒼とした森林生態系全体の二酸化炭素収支はほぼ釣り合うことにも注意して下さい。スギ林などでも立派な林になるほど、正味の二酸化炭素固定は少なくなります。
地球環境変化が植物生産に及ぼす影響については、盛んに研究されていますが、内嶋善兵衛著 <新>地球温暖化とその影響 裳華房 (2005)などがすぐれた教科書です。
寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-09-06
佐藤 公行
回答日:2010-09-06