質問者:
自営業
コシバッチ
登録番号2305
登録日:2010-09-12
私は東京都内で日本ミツバチを飼っております。今の時期は開花する花もあまりない状態でミツバチたちも花粉集めに苦慮しているようです。花粉の量
先日、千葉のトマト農家さんを訪ねました。
「この暑さが続いて花に花粉があまりつかない」とおっしゃっていたのが気になりました。
養蜂をやっている仲間などにも確認しましたが、どうもやっぱりいつもの年に比べて花粉が少ない、という声がいくつか見受けられました。
時期的に開花している花が限られてくるのもあるでしょうが、ついている花自体の花粉が少ない、というのは暑さと因果関係があるのでしょうか?
あるとすればどんな理由で花粉が少なくなるのでしょうか?
恐れ入りますがご教示ください。
コシバッチ さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
作物の花粉形成と温度との関係を研究されている東北大学の東谷篤志先生に伺いました。ミツバチが訪れるさまざまな花の花粉形成についての研究は多くありませんが、作物の花粉形成は収量にすぐに影響しますので多くの研究がなされています。花粉形成は植物の生殖活動にとって不可欠の過程であり、その出来方には共通の仕組みがある筈ですので、東谷先生の解説はお役に立つと思います。
【東谷先生の回答】
トマトの高温障害の研究に関しては、日本では、1965年東京大学農学部の岩堀先生が園芸学会雑誌(34巻11, 33-41)に報告されています。その論文では、花粉母細胞が減数分裂期の頃に、2日間、40℃の高温にそれぞれ3時間さらされると、その後の花粉形成が不全となり、正常な花粉ができなくなることを示しています。ですから、今年のような高温続きでは、確かに、「花に花粉があまりつかない」という農家の方の現場の声がまさにと思います。
一般に花粉の形成過程は温度の影響を最も受けやすいといえます。イネなど熱帯性の作物では、高温に比較的強く、逆に低温に弱く、東北地方におけるイネの低温障害(冷害)が有名です。イネの冷害は、穂ばらみ期(花粉母細胞の減数分裂期直後の辺り)に低温にさらされると、その後の花粉形成が不全となり、正常な花粉ができず、いわゆる雄性不稔の結果、イネが稔らなくなります。この原因として、花粉母細胞を取り囲む細胞でタペート細胞という葯壁の細胞が、低温により肥大することが知られています。タペート細胞は、花粉に栄養を供給するとともに花粉の外側をつくる上で大切な役割をしますのでタペート細胞が正常でないと正常な花粉が形成されません。 しかし、かなりの高温条件が長期に続くと、やはりイネにも影響が生じます。高温に弱い時期は、開花直前の時期が1つで、葯の裂開に異常が生じ、なかの花粉が飛散しにくくなり、その結果受粉が妨げられます。もう1つは、穂ばらみ期が高温に対しても弱いことが知られており、トマトと同様に花粉の形成に異常が生じます。
その他、コムギやオオムギなど、春から初夏にかけて開花する作物は、高温に弱く、同じく花粉母細胞の減数分裂期前後の時期の高温により、花粉の形成に不全が生じることが知られています。最近、私たちは、オオムギの高温障害で、タペート細胞が早期に細胞分裂を停止し、早期に崩壊すること、その結果、花粉への栄養供給などが不全になること、さらに、この高温障害の過程で、植物ホルモンの1つであるオーキシンの量が高温で低下することを明らかにしてきました。そして、オーキシンを外から添加することで、オオムギやシロイヌナズナの高温障害による花粉形成の不全が改善することを示してきました。
このように、少しづつですが、高温による花粉形成の不全の原因が明らかになってきています。
東谷 篤志(東北大学大学院生命科学研究科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
作物の花粉形成と温度との関係を研究されている東北大学の東谷篤志先生に伺いました。ミツバチが訪れるさまざまな花の花粉形成についての研究は多くありませんが、作物の花粉形成は収量にすぐに影響しますので多くの研究がなされています。花粉形成は植物の生殖活動にとって不可欠の過程であり、その出来方には共通の仕組みがある筈ですので、東谷先生の解説はお役に立つと思います。
【東谷先生の回答】
トマトの高温障害の研究に関しては、日本では、1965年東京大学農学部の岩堀先生が園芸学会雑誌(34巻11, 33-41)に報告されています。その論文では、花粉母細胞が減数分裂期の頃に、2日間、40℃の高温にそれぞれ3時間さらされると、その後の花粉形成が不全となり、正常な花粉ができなくなることを示しています。ですから、今年のような高温続きでは、確かに、「花に花粉があまりつかない」という農家の方の現場の声がまさにと思います。
一般に花粉の形成過程は温度の影響を最も受けやすいといえます。イネなど熱帯性の作物では、高温に比較的強く、逆に低温に弱く、東北地方におけるイネの低温障害(冷害)が有名です。イネの冷害は、穂ばらみ期(花粉母細胞の減数分裂期直後の辺り)に低温にさらされると、その後の花粉形成が不全となり、正常な花粉ができず、いわゆる雄性不稔の結果、イネが稔らなくなります。この原因として、花粉母細胞を取り囲む細胞でタペート細胞という葯壁の細胞が、低温により肥大することが知られています。タペート細胞は、花粉に栄養を供給するとともに花粉の外側をつくる上で大切な役割をしますのでタペート細胞が正常でないと正常な花粉が形成されません。 しかし、かなりの高温条件が長期に続くと、やはりイネにも影響が生じます。高温に弱い時期は、開花直前の時期が1つで、葯の裂開に異常が生じ、なかの花粉が飛散しにくくなり、その結果受粉が妨げられます。もう1つは、穂ばらみ期が高温に対しても弱いことが知られており、トマトと同様に花粉の形成に異常が生じます。
その他、コムギやオオムギなど、春から初夏にかけて開花する作物は、高温に弱く、同じく花粉母細胞の減数分裂期前後の時期の高温により、花粉の形成に不全が生じることが知られています。最近、私たちは、オオムギの高温障害で、タペート細胞が早期に細胞分裂を停止し、早期に崩壊すること、その結果、花粉への栄養供給などが不全になること、さらに、この高温障害の過程で、植物ホルモンの1つであるオーキシンの量が高温で低下することを明らかにしてきました。そして、オーキシンを外から添加することで、オオムギやシロイヌナズナの高温障害による花粉形成の不全が改善することを示してきました。
このように、少しづつですが、高温による花粉形成の不全の原因が明らかになってきています。
東谷 篤志(東北大学大学院生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-09-15
今関 英雅
回答日:2010-09-15