一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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オオカナダモの光合成

質問者:   自営業   よし
登録番号2306   登録日:2010-09-14
オオカナダモ等の水草は、水中の二酸化炭素を吸収して光合成の原料にするときいたことがありますが、水中では二酸化炭素は様々な形態(溶存二酸化炭素、重炭酸イオン、炭酸イオン・・・でしょうか?)で存在していると理解しています。では、実際にどの形態の無機炭素を光合成に利用しているのでしょうか?

また、陸生植物においても土壌水に含まれる無機炭素類(溶存CO2、重炭酸イオン、炭酸イオン)を根から吸収し、光合成の炭素源として利用することはできるのでしょうか?
よし 様

本コーナーに質問をお寄せ下さり有り難うございました。
ご質問には光合成の炭素代謝について研究しておられる京都大学の福澤秀哉先生がお答え下さいましたので、ご参考にして下さい。


(福澤先生からの回答)
無機炭素の中で、光合成によって固定される分子は、二酸化炭素(CO2)です。光合成でCO2を固定する酵素は、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)という酵素です。この酵素は従来、「炭酸固定酵素」と呼ばれていましたが、実際には、炭酸や重炭酸イオンとは反応せず、CO2と反応するので「CO2固定酵素」と呼ぶ方が正確です。水に溶解したCO2は、分子の状態で存在するだけでなく、水と反応して重炭酸イオンや炭酸イオンに変化し、平衡状態で存在します。pHがアルカリ性になればなるほど、CO2の割合は減ります。逆に酸性になると、CO2分子の割合が多くなります。水中の無機炭素は植物体内の葉緑体に取り込まれ、重炭酸イオンは葉緑体にある炭酸脱水酵素によってCO2に変換され、このCO2がカルボキシラーゼによって固定されます。炭酸脱水酵素を失ったシアノバクテリアは、大気レベルのCO2濃度(390 ppm)では生育できず、CO2濃度を10,000 ppmに上げないと、光合成によって生育できません。

陸生植物では、大気中に含まれるCO2が気孔を通して葉内の葉緑体に取り込まれ固定されますが、根から吸収された水分に溶解した無機炭素も区別なく利用されますが、その割合は低いと思われます。

ちなみに、トウモロコシ・サトウキビといったC4型植物とサボテンなどのCAM型植物では、CO2をいきなり固定する代わりに、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)が重炭酸イオンHCO3-を固定します(PEPCはCO2と反応しません)。固定された炭素は、オキザロ酢酸から有機酸(リンゴ酸など)に変換され、この有機酸の分解によりCO2が生成し、これをRubiscoが再度固定します。(C4回路、CAM経路)

福澤 秀哉(京都大学大学院生命科学研究科遺伝子特性学分野)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-09-15
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