質問者:
会社員
あきざる
登録番号2309
登録日:2010-09-20
はじめて質問いたします。よろしくお願いいたします。みんなのひろば
サクラ属の交雑の割合について
ソメイヨシノの種子について調べていくうちに、サクラの仲間の交雑の割合について疑問が湧きました。いろいろ書物を当たったのですが、明確に書かれたものを見つけられませんでした。
もしご回答いただけるようでしたら、教えていただきたいと思います。
全国のソメイヨシノはすべて同じ遺伝子をもつものと考えられ、自家不和合性の性質から別の種のサクラの花粉で種子をつくるこができ、発芽して成長する。しかしこの新しい個体は、もうソメイヨシノとはいえない。ここまでは、質問を検索して探した「ソメイヨシノの不稔性」の回答で理解しました。
疑問です。サクラの仲間には自家不和合性があるため、自然の状態では自然交配種が存在するようですが、それはどの程度の確率で起こっているものなのでしょうか。きちんとした数字はないのかもしれませんが、もし高確率で起こるとすると、たとえば、純粋なヤマザクラやエドヒガンなどがなくなってしまうのではないかしらと思ったのです。
また、他家受粉をする性質は、あくまでも自家受粉をくり返して弱い子孫を残す確率を減らす目的と考えてよいのでしょうか。その結果、ほかの種の花粉で受精し、種子をつくることがある。という理解で良いでしょうか。
さらに、サクラ以外でも、自家不和合性の植物は多くあるようですが(別の質問「自家不和合」より)、やはりサクラと同じように、ほかの種との自然交雑が起こっているのでしょうか?
いくつも質問が入ってしまいました。どうぞよろしくお願いいたします。
あきざる さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
自家不和合性の仕組みはやや複雑で理解するのが難しい問題です。最近の研究ではアブラナ、ナス科、サクラ属などの自家不和合性の仕組みかかなり分かってきました。まず、ご質問をよんで、あきざるさんは自家受粉、他家受粉の「自家」「他家」を誤解されているようです。自家受粉は同一個体の花の間の受粉、他家受粉とは、同じ種(しゅ)の中の他の個体との間の受粉を意味します。同じ種の中には品種、変種も含まれます。同じ種の中の別の個体との交配ですから特定の種がなくなる恐れはありません。サクラ属の自家不和合性はS遺伝子座にある花粉と雌しべの対立遺伝子が同じ型のときにおこり(不和合)、違った型のときはおこらない(和合)となるものです。同じ種であっても遺伝子の型は同じでなく、たくさんの違いがあります。DNA鑑定で人の個体判別が出来るのも、ヒトという種であってもその遺伝子の中身は違うのが普通だからです。それと同じでヤマザクラ、オオシマザクラなどという種の中にはS遺伝子座の中身は何種類かの型で区別できる違いがあります。そのため、野生の種であっても同じS対立遺伝子型同士では自家不和合性を示しますが、異なった遺伝子型では受粉が成立します。ソメイヨシノはすべてがクローンですのでそのような遺伝子型の違いがないために自家不和合性がはっきりと現れているだけです。
サクラ属では自然交配で交雑種が出来ます。現在あるたくさんのサクラの品種は日本にある10種程度の在来種間の交雑によってできたものです。ソメイヨシノもそのようにして出来たと信じられています。このような交雑種が出来る頻度は樹種の分布状態、交雑種の環境適応性などによって大きく影響を受けるはずですので一概に言えません。DNA型を利用して交雑が起きたかどうかは種子の遺伝子型を調べると分かります。近年はソメイヨシノの人為的移植によって「遺伝子汚染」だと言って話題となっている例もあるようです。確かに、人為的に植栽範囲を拡大したソメイヨシノの遺伝子が植栽地にある野生種に入り込む、逆に野生種の遺伝子が植栽したソメイヨシノの種子に入り込むことが知られています。しかし、これらが交雑種として確立するためには種子稔性の程度や環境との適応性が大きく響きますので、その頻度は決して高いものとは言えません。「遺伝子汚染」という言葉はたいへん人為的なもので自然界では当たり前のことです。
自家不和合性はご指摘のように種の繁栄をもたらした、獲得されてきた性質と考えられています。自然環境の中ではどの種でも自然交雑はランダムに起きますが、交雑世代の種子稔性、種子生産数や環境適応性などによって生き残れるかどうかが決まり、生き残ったものの中でも変異種、亜種にとどまるか新種になるかは交雑親の遺伝子組成の近似性によるものです。植物はその繰り返しで進化してきたものです。もちろん自家和合性(自殖性)がいつも不利と言うものではなく、自然界には自殖性の植物もたくさんあります。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
自家不和合性の仕組みはやや複雑で理解するのが難しい問題です。最近の研究ではアブラナ、ナス科、サクラ属などの自家不和合性の仕組みかかなり分かってきました。まず、ご質問をよんで、あきざるさんは自家受粉、他家受粉の「自家」「他家」を誤解されているようです。自家受粉は同一個体の花の間の受粉、他家受粉とは、同じ種(しゅ)の中の他の個体との間の受粉を意味します。同じ種の中には品種、変種も含まれます。同じ種の中の別の個体との交配ですから特定の種がなくなる恐れはありません。サクラ属の自家不和合性はS遺伝子座にある花粉と雌しべの対立遺伝子が同じ型のときにおこり(不和合)、違った型のときはおこらない(和合)となるものです。同じ種であっても遺伝子の型は同じでなく、たくさんの違いがあります。DNA鑑定で人の個体判別が出来るのも、ヒトという種であってもその遺伝子の中身は違うのが普通だからです。それと同じでヤマザクラ、オオシマザクラなどという種の中にはS遺伝子座の中身は何種類かの型で区別できる違いがあります。そのため、野生の種であっても同じS対立遺伝子型同士では自家不和合性を示しますが、異なった遺伝子型では受粉が成立します。ソメイヨシノはすべてがクローンですのでそのような遺伝子型の違いがないために自家不和合性がはっきりと現れているだけです。
サクラ属では自然交配で交雑種が出来ます。現在あるたくさんのサクラの品種は日本にある10種程度の在来種間の交雑によってできたものです。ソメイヨシノもそのようにして出来たと信じられています。このような交雑種が出来る頻度は樹種の分布状態、交雑種の環境適応性などによって大きく影響を受けるはずですので一概に言えません。DNA型を利用して交雑が起きたかどうかは種子の遺伝子型を調べると分かります。近年はソメイヨシノの人為的移植によって「遺伝子汚染」だと言って話題となっている例もあるようです。確かに、人為的に植栽範囲を拡大したソメイヨシノの遺伝子が植栽地にある野生種に入り込む、逆に野生種の遺伝子が植栽したソメイヨシノの種子に入り込むことが知られています。しかし、これらが交雑種として確立するためには種子稔性の程度や環境との適応性が大きく響きますので、その頻度は決して高いものとは言えません。「遺伝子汚染」という言葉はたいへん人為的なもので自然界では当たり前のことです。
自家不和合性はご指摘のように種の繁栄をもたらした、獲得されてきた性質と考えられています。自然環境の中ではどの種でも自然交雑はランダムに起きますが、交雑世代の種子稔性、種子生産数や環境適応性などによって生き残れるかどうかが決まり、生き残ったものの中でも変異種、亜種にとどまるか新種になるかは交雑親の遺伝子組成の近似性によるものです。植物はその繰り返しで進化してきたものです。もちろん自家和合性(自殖性)がいつも不利と言うものではなく、自然界には自殖性の植物もたくさんあります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-09-22
今関 英雅
回答日:2010-09-22