一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オシロイバナの種子

質問者:   一般   EMU
登録番号2316   登録日:2010-10-04
こんにちは。いつもご指導ありがとうございます。
今日は、オシロイバナについて教えてください。

オシロイバナの花の後に出来る黒い玉は、果実でしょうか種子でしょうか。

普通、種子は果実のどこかに繋がっていると思うのですが、オシロイバナの黒い玉は、○の上に乗っかっているだけのようにポロポロ落ちます。完熟すると自然に離れる仕組みでしょうか。
○と書きましたが、実は、この部分の名称が分かりません。
オシロイバナの花のように見えてる部分が、実は萼と言うことなので、玉が乗っている部分は、苞の上ということになるのでしょうか。

他の植物にも、毛で飛ばす種子は別として、こんなに簡単に外れる種子はあるでしょうか。
また、根は肥大して宿根になるのにも拘らず、あの大量の種子を作るのはなぜでしょう。
しかも、種子の多くは、親元から出来るだけ遠ざかるように、翼などをつけて遠くに飛ばそうとして努力しているのに、オシロイバナは、全くその気が無く、ぽろぽろ親の足元に落ちて、しかも、ほとんど100パーセント、芽を出します。エネルギーの無駄遣いのように思えるのですが・・・。

オシロイバナの黒い玉の中の白い粉のなかに種子が潜んでいるのか、黒い玉自体が種子なのか、それを載せている部分はなんと言うのか、お教えいただけるとありがたいのですが。
EMU さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
オシロイバナはごく普通に栽培されていて珍しいものではありませんが、よく観察すると他の種子とは少し違った点がありますね。

まずお答えから。「オシロイバナの花の後に出来る黒い玉」は果実です。種子はこの堅い殻の中に1個だけあります。完熟した果実の中にある白粉に似たものは胚乳です。今はちょうど時期ですので、「花」をとって見てください。ご指摘のように花弁状に見える美しい部分は基部が筒状に融合した萼で、その下部は緑色の総苞に包まれています。総苞を除くと薄緑色の玉が出てきます。これは「花状」の萼とくびれがありますがつながっており萼の1部です。萼片をていねいに縦に裂いていくとくびれのところで簡単には切れます。5本の雄しべの下部は筒状の萼の内側に接着していて萼の断片と一緒に除かれますが、雌しべの花柱は玉状の中に入って子房につながっています。つまり、子房は萼の基部に包まれていることになります。花弁は子房の基部周囲にあったはずですが退化しています。受粉がすんでしばらくすると美しい花弁状の萼はくびれのところで落ちますが、玉状の組織はそのまま残って種子を包む黒い殻となり種子はその中にできています。果実とは、「その中に種子が入っている構造」のことでふつうは子房壁が肥大して果皮となるものですが、オシロイバナではその外側に萼の一部が厚い殻として残っています。完熟した黒い玉の殻をていねいに剥くと中から薄い果皮に包まれた種子がでてきます。総苞は後々まで残りますのでその上に果実が乗った状態に見えます。もちろん若く果実が成長中は花托を介して植物本体とつながっていますが、果実が成熟すると果実と総苞とのつながり部分で離脱します。


さて、地下部にいも状の大きな根をもちながら種子を大量につくるのはエネルギーの無駄ではないかとお考えのようですね。人間の立場から考えればそのようにも言えますが、オシロイバナの身になってみれば栄養生殖で増えるばかりでは「進歩」がありません。有性生殖は違った遺伝子を取り込む手段として不可欠であり、いろいろな遺伝子の移入があるからこそ栄養体も頑丈になり、またいろいろな環境変化への対応も次第に身につけるようになるのです。つまり種として生き残るためにはとても有利な仕組みをも併せ持っているといえます。次に、果実、種子は母体から離れなければ意味がありません。ほとんどの野生の植物の果実、種子は簡単に母体からはずれるものです。動物などに食べられる果実も、食べられないでいればやがては落果します。ただ、周囲に見られる果樹、作物などは容易に落果しないものが多いのですが、これは人間が意識的に落ちない性質を選んできた(実は落ちる性質をなくした系統を育種で残してきた)ものだからです。種子を遠くに運ぶ工夫をしている植物もありますが、そうでなく自分の周囲にばらまくタイプの植物はたくさんあります。ドングリはその好例とおもいます。自分の周りから少しずつ勢力範囲を拡大する方がオシロイバナにとっては有利だった過去があるのかも知れません。

JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-10-05