一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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海水をつかう

質問者:   小学生   うーたん
登録番号2327   登録日:2010-10-19
こんにちは。
おじいちゃんが来年の春に畑を耕す時、海水をまいてみようかな・・・と言っていました。塩は植物の生長の邪魔をするんだよ、言いましたが、発芽して生長した植物には害になっても、土の中に混ぜるのなら影響はないのですか?
塩の成分を含んだ土に種をまいても、発芽はするのですか?(母代筆)
うーたん さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
これまで海砂を含めていろいろな試験をしてきましたね。海岸に生える植物はどんなふうに栄養分をとっているのかなどもお分かりになったようです。


さて、今度は一歩進んで海水を使ったらどうなるかを思いつかれたのですね。海水には食塩(塩化ナトリウム)がおよそ3.5 %含まれています。この濃度は陸上植物が耐えることのできる限界の約3倍にあたります。ですから、発芽実験で淡水のかわりに海水をそのまま使うと種子は発芽できません。それでは、海水をまいた土ではどうかを考えてみましょう。畑にまいた海水は土にしみこんで、溶けていた食塩の多くは土の粒子に吸着します。たくさんの海水をまけば、たくさんの食塩が吸着し、吸着した土の層もあつくなります。水はどんどんしみこみますから土粒子の間には空気がはいります。また、土の粒子には水も吸着されていますから、土の中は湿度もたかくなっています。このような土に種子をまくと種子が水を吸うときに土に吸着していた食塩も一緒に吸収されてしまいます。ここで、まいた食塩の量が少なければ、種子に吸収される食塩の濃度も低いので発芽できるかも知れません。うんと薄い海水をまいたときにはあまり問題なくほとんどの種子は発芽すると思います。ところが今の農業用作物の多くは塩濃度が高くなると成長できないものです。発芽した後の幼植物も、まもなく死んでしまうもの、死にはしないがまったく成長できないもの(これもやがては死んでしまうでしょう)、成長がとても遅いものなどと、まいた海水の量と作物の種類によっていろいろな状態になると思います。食塩は濃度の効果と食塩の成分であるナトリウムイオンが有害な作用をすることの2つの効果を示します。


日本ではあまり感じませんが、世界的に見ると農業に不可欠な水(淡水)が不足している地域がおおくあり、何とか海水を農業用水に出来ないかという問題をかかえています。また、地中から塩類が表面に上昇してきて土壌が塩性化して農業に適さなくなる地域が増えています。そこで、高濃度の食塩にも耐える作物(塩耐性作物)の開発研究が盛んに行われています。海水の塩濃度にも耐える作物ができたら海の上にいかだを並べてキャベツを栽培するなんてことができるかもしれない夢はあります。実際に、海水の中で生育している植物もあります。ご存じのマングローブ(ヒルギの仲間です)、アカザ科のアツケシソウ、ハマアカザなどは海水の中で生育していますので、その耐塩性の仕組みを明らかにして応用すれば強い塩耐性のある作物が育種できるはずだと研究がつづけられています。

JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2010-10-21
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