一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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花粉核のはたらき

質問者:   教員   ヌマチチブ
登録番号2330   登録日:2010-10-20
「被子植物において、伸長している花粉管内での花粉管核の働きは何か」という質問を生徒から受けました。自分なりに調べてみたのですが、答えに辿り着きません。回答よろしくお願いします。
ヌマチチブさま、

「みんなのひろば」をご利用頂き、ありがとうございます。花粉管の中には花粉管核と2つの精細胞があります。精細胞は花粉管の中にある入れ子の細胞ですので、精細胞の核が働いてRNAとタンパク質を作っても、精細胞の中に留まると思われます。そこで、花粉管が新しいタンパク質を必要とするなら、もう一つの核が必要だと思われます。このあたり、現在どこまで分かっているのかを、花粉管と受精の研究の第一人者である東山先生にお答え頂きました。
 



東山哲也先生の回答)

花粉管細胞(栄養細胞)の核である花粉管核(栄養核)は、形が不定形で、内在する染色体もゆるんだ構造をしています。このため、古典的な核の観察法では、観察しにくいという特徴があります。培地上で発芽した花粉管では何とか観察されるものの、雌蕊の中での観察は一段と難しくなります。そのため、古くは「花粉管核は花粉管伸長中に退化する」といった記載や説明がありました。機能について記載されていないのも、そうした研究の背景があるためと推察いたします。

現在でも、積極的に花粉管核を失わせてその機能を調べるといった解析は行われていません。しかしながら、花粉管で起こる花粉管核からの新たな転写・翻訳が、花粉管の十分な長さの伸長や正常な誘導(ガイダンス)に必須であるという報告がいくつかあります。花粉管が雌蕊を伸長している間に新たに発現する遺伝子群も報告されています。花粉管核は花粉管が胚嚢に到達するまでずっと存在し続けていることも、現在では広く示されております。おそらくは、精細胞を胚嚢まで運ぶために必須な花粉管細胞において、その伸長や伸長方向制御にとって必要不可欠な役割を担っているものと推察されます。

たとえば花粉管が助細胞に誘引されるために必要な誘引物質受容体など、花粉管伸長の遅い段階で必要になると予想される分子群が同定され、その発現のタイミングが明らかになってくると、花粉管核の機能がより明確になってくると思います。


東山哲也(名古屋大学・大学院理学研究科)
日本植物生理学会広報委員長
柿本辰男
回答日:2010-10-21
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