一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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野菜のでん粉分解酵素

質問者:   会社員   ミハラ
登録番号2351   登録日:2010-11-24
でん粉と野菜を一緒に加熱すると、でん粉が糊化中に分解されて粘度が安定しないことがあります。
酵素を失活させるため先に野菜を加熱処理するようにしていますが、似たような部位(土に埋まった部分)でも生姜、大根、たまねぎ、人参では酵素の反応の強さに差があるようです。
植物各々の貯蔵糖の種類や量、貯蔵されている部位に、酵素の量や活性の強さが依存するのでしょうか?
それとも酵素の性質自体が異なるのでしょうか?
でん粉分解酵素を含まない植物、部位はありますか?
ミハラ 様

本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございました。追加のご質問をも含めて#2351のQ/Aとさせて頂きます。
この質問には澱粉(でん粉)の分解についてお詳しい新潟大学の三ツ井敏明先生が回答文をご用意くださいました。ご参考にしてください。



(三ツ井先生からの回答)
澱粉は陸上植物の組織に広く普遍的に豊富に存在する貯蔵物質です。この澱粉を分解する酵素は、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、α-グルコシダーゼやイソアミラーゼなどがあります。さらに、それぞれの酵素には多形が見られます。すなわち、基本的な酵素反応は同じであるが、少しずつ性質が異なるアイソフォームと呼ばれる仲間が多数存在しています。例えば、イネα-アミラーゼには少なくとも20種以上のアイソフォームが存在しています。高温に強いα-アミラーゼアイソフォームもあれば弱いものもあります。これらの澱粉分解酵素の種類や存在量はそれぞれの植物よって、また各々の器官・組織(部位)や成長時期によって異なっています。例えば、穀類の登熟期の胚乳組織(澱粉蓄積組織)においては微弱な澱粉分解酵素活性が検出される程度ですが、完熟乾燥種子を発芽させると胚乳に接触している胚盤上皮細胞や糊粉層細胞において大量の澱粉分解酵素が作られ胚乳に分泌されます。それぞれの部位や時期によってアイソフォームの存在比の違いも見られます。

澱粉分解酵素を含まない植物、部位はあるか?澱粉分解酵素活性が検出されない植物組織はあると思いますが、そのような組織でも何かの刺激やストレスによって澱粉分解酵素を作り出す能力は有していると考えられます。

なお、具体的な質問への回答は以下のとおりです。
(Q-1)植物α-アミラーゼは、どの植物、どの組織でもほぼ同じ性質をもつと考えてもよいのか。
回答は「いいえ」です。α-アミラーゼアイソフォームの種類や存在量はそれぞれの植物よって、また各々の器官・組織(部位)や成長時期によって異なっています。さらに、それぞれのアイソフォームの性質も明らかに違います。例えば、イネα-アミラーゼアイソフォームI-1は70℃で15分処理しても失活しないが、アイソフォームII-3は37℃でも失活します。
(Q-2)酵素を持つ部位をすりおろしたりすると酵素が活性を持った状態ででてくるのか。
回答は「はい」です。葉や根をそのまま水につけても酵素は出てこない場合がほとんどですが、すりおろしたりすると活性を持った酵素が容易に組織細胞の外に出ます。
(Q-3)糖を貯蔵している(液胞が溜まった)果実、たまねぎの鱗茎にはαアミ
ラーゼが存在するのか。
果実は澱粉を蓄積し、それを分解するアミラーゼ活性を有することが知られています。タマネギ鱗片葉においてもアミラーゼ活性が検出されます。
(Q-4)澱粉を貯蔵しない(糖または油を貯蔵する)植物にはαアミラーゼが存在するのか。
α-アミラーゼは植物のどの部位にもあると考えてよいと思います。ただ、食品の品質にほとんど影響を与えないほど極めて微弱な活性しか無い場合もあります。

三ツ井 敏明(新潟大学農学部応用生物化学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2010-12-17
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