植物Q&A

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銀杏の枝からぶら下がってくるもの

質問者:   自営業   fazenda
登録番号2354   登録日:2010-11-29
先日熊野古道の高原神社付近にあります大銀杏を訪問しました
その際枝下から地面に向かって、枝の一部が垂れ下がっている部分を観察しました
銀杏の中で樹齢が古いものの中に、枝下から地面へ向かって垂れ下がっている部分が時々目につきます。
此は一体何なのでしょうか?
ご教授願います
fazenda 様

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。担当の柴岡ともうします。田辺から熊野本宮に向かうバスの車窓からも、また熊野古道、中辺路の十丈王子から少し歩いたところからも眺めることのできる福定の大銀杏についてのご質問ですね。頂いたご質問の回答を、植物の形についてのご研究をなさっておられる東京大学の塚谷裕一先生にお願い致しましたところ、以下のようなご回答をお寄せ下さいました。塚谷先生のご回答の中にもありますように、まだ結論には至って無いそうですが、古い時代の植物の特性を残した特殊な形であるとの考えには、心惹かれますね。福定の大銀杏や「乳」をご覧になっておられない方がおられましたら、福定の大銀杏・検索で見て下さい。


塚谷先生のご回答

イチョウの「乳」のことですね。これは英語でもChichiといいます。乳房に見立てての名前です。古くなると出る木がありますね。ただ、雄の木でも雌の木でも出ます。出ない、あるいは出にくい個体もあります。乳が発達する古木は、古来から信仰の対象になることが多く、日本各地に垂乳根のイチョウであるとか、乳イチョウであるとかいう名称で呼ばれ、母乳がよく出るようにという願掛けなどに信仰を集めてきました。東大の構内にも多数のイチョウが植えられているので、その多くで乳の発達が観察できます。

その乳の正体ですが、まだ意見が分かれているのが正直なところです。イチョウのような裸子植物は、古い時代の植物の特性を未だ残していることがあって、そのことから、ヒカゲノカズラなどが持っている特殊な器官、担根体ではないかという意見もあります。担根体とは、根でも枝葉でもない構造で、ヒカゲノカズラのような小葉シダ類がもつ特異な器官です。この担根体は、場合に応じて先端が根に変じたり、枝葉に変じたりするのが特徴です。バラやカエデのような被子植物には、こういった器官はなく、そのため根の先からは根のみが、枝の先端からは枝のみがでるのが基本で、根から枝、あるいは枝から根が出る場合には、その先端ではなく途中からできるのが原則です。ところが担根体は融通が利き、その先端を枝にしたり根にしたりすることができるのです。イチョウの乳は、よく見ると根を生やすこともあれば、枝に変化することもあります。そのため、担根体の名残なのではないかという説が生まれた次第です。ですが最初に述べたとおり、まだ結論には至っていません。

なお乳のことを気根であると書いているものもありますが、あくまで根の一部である気根にしては上記のように奇妙で、枝にもなることができる構造ですので、間違いであろうと思われます。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2010-12-07