質問者:
教員
シアノン
登録番号2355
登録日:2010-12-02
高校の教員をしております。授業の中で、「シアノバクテリアが作った酸素が海中の鉄イオンを沈殿させた後に海中から大気中に出るようになり、大気中に酸素が蓄積した」と教えたのですが、その当時のシアノバクテリアは化石として残っているだけでなく、現生のものとしても残っているのでしょうか?また残っていなかったとしたら、海産シアノバクテリアで最もそれに近い種類は何でしょうか?よろしくお願いいたします。
シアノバクテリア
シアノン 様
本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。
この質問には神戸大学内海域環境教育研究センターの村上明男先生から回答文をいただきましたので、ご参考にして下さい。なお、この機会に、地球上の光合成全体に占めるシアノバクテリアの光合成の大きさや、シアノバクテリアの生態系における役割などについても村上先生の見解を伺いました。
(村上先生からの回答)
ご質問の中にも書かれていますが、酸素発生型光合成の能力をもつシアノバクテリアは、地球の生命の歴史の中で初期(20-30億年前)に誕生し、地球の環境を大きく変えることで現在に至る生命の進化に影響と与えたと考えられています。2点のご質問について以下のように回答させて頂きます。
一般的に言って生物が化石として残る確率はかなり低く、さらに硬い骨や殻をもたない生物は化石として残りにくく、ましてや顕微鏡レベルで識別する必要があるシアノバクテリアのようなものの微化石を発見するのは大変困難です。それでも、20-30億年前に形成された岩石(ストロマトライト)からシアノバクテリアの化石が発見されたとの報告があります。主な根拠は細胞の形やサイズが現生のシアノバクテリアと類似していることのようですが、シアノバクテリア固有の光合成色素などの他の証拠が揃っている訳ではありません。一方、化石ストロマトライトと構造が酷似している現生のストロマトライトに生育する微生物の遺伝子解析から、様々な(10種程度の)シアノバクテリアが検出されています。現生のストロマトライトに太古のシアノバクテリアの子孫が生き残っているかもしれませんが、化石シアノバクテリアの遺伝子解析は無理なので確かなことは今のところ分かりません。
現在の地球全体の光合成生産量(一次生産量)の中での森林や農耕地などの陸上植物の寄与分については様々な観測の積み重ねがあり、詳細なデータが揃ってきています。一方、地球表面の7割を占める海洋に生きる光合成生物(主に植物プランクトン)の寄与分については地球全体の約半分との見積もりも報告されていますが、人工衛星によるクロロフィル量の観測などにも限界があるため今後修正される可能性もあります。なお、この方法ではシアノバクテリアと他の光合成微生物(藻類)を区別することは困難なので、シアノバクテリアの寄与分については十分には分かっていませんし、それほど大きな寄与は無いものとこれまでは思われていました。ところが最近になって、外洋域の水深100-200mの有光層限界領域に1マイクロメートル以下の微小サイズの特殊なシアノバクテリア(ピコシアノバクテリアとも呼ばれる)が豊富に生育していることが明らかになり、海洋そして地球レベルでの光合成生産においてシアノバクテリアの寄与分がこれまで想像されていた以上に大きいことが明らかにされつつあります。現在海洋のシアノバクテリアに関する様々な研究が活発に行われていますので、いずれ信頼できる一次生産量や生態系での役割(食物網や物質循環)が明らかになってくるものと期待されます。
村上明男(神戸大学自然科学系先端融合研究環・内海域環境教育研究センター)
本コーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございます。
この質問には神戸大学内海域環境教育研究センターの村上明男先生から回答文をいただきましたので、ご参考にして下さい。なお、この機会に、地球上の光合成全体に占めるシアノバクテリアの光合成の大きさや、シアノバクテリアの生態系における役割などについても村上先生の見解を伺いました。
(村上先生からの回答)
ご質問の中にも書かれていますが、酸素発生型光合成の能力をもつシアノバクテリアは、地球の生命の歴史の中で初期(20-30億年前)に誕生し、地球の環境を大きく変えることで現在に至る生命の進化に影響と与えたと考えられています。2点のご質問について以下のように回答させて頂きます。
一般的に言って生物が化石として残る確率はかなり低く、さらに硬い骨や殻をもたない生物は化石として残りにくく、ましてや顕微鏡レベルで識別する必要があるシアノバクテリアのようなものの微化石を発見するのは大変困難です。それでも、20-30億年前に形成された岩石(ストロマトライト)からシアノバクテリアの化石が発見されたとの報告があります。主な根拠は細胞の形やサイズが現生のシアノバクテリアと類似していることのようですが、シアノバクテリア固有の光合成色素などの他の証拠が揃っている訳ではありません。一方、化石ストロマトライトと構造が酷似している現生のストロマトライトに生育する微生物の遺伝子解析から、様々な(10種程度の)シアノバクテリアが検出されています。現生のストロマトライトに太古のシアノバクテリアの子孫が生き残っているかもしれませんが、化石シアノバクテリアの遺伝子解析は無理なので確かなことは今のところ分かりません。
現在の地球全体の光合成生産量(一次生産量)の中での森林や農耕地などの陸上植物の寄与分については様々な観測の積み重ねがあり、詳細なデータが揃ってきています。一方、地球表面の7割を占める海洋に生きる光合成生物(主に植物プランクトン)の寄与分については地球全体の約半分との見積もりも報告されていますが、人工衛星によるクロロフィル量の観測などにも限界があるため今後修正される可能性もあります。なお、この方法ではシアノバクテリアと他の光合成微生物(藻類)を区別することは困難なので、シアノバクテリアの寄与分については十分には分かっていませんし、それほど大きな寄与は無いものとこれまでは思われていました。ところが最近になって、外洋域の水深100-200mの有光層限界領域に1マイクロメートル以下の微小サイズの特殊なシアノバクテリア(ピコシアノバクテリアとも呼ばれる)が豊富に生育していることが明らかになり、海洋そして地球レベルでの光合成生産においてシアノバクテリアの寄与分がこれまで想像されていた以上に大きいことが明らかにされつつあります。現在海洋のシアノバクテリアに関する様々な研究が活発に行われていますので、いずれ信頼できる一次生産量や生態系での役割(食物網や物質循環)が明らかになってくるものと期待されます。
村上明男(神戸大学自然科学系先端融合研究環・内海域環境教育研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2010-12-13
佐藤公行
回答日:2010-12-13