質問者:
公務員
sato
登録番号2359
登録日:2010-12-07
お茶の栽培では,新芽の緑色を濃緑にするため,収穫前に寒冷紗により被覆を行います。しかし,新芽が緑色になる度合いは、天気により異なり,被覆期間が曇りだと,その度合いは小さく,濃緑になりません。単純に考えると,被覆により光を遮ることで濃緑になるのだから,曇りの場合はさらに濃緑になるような気がしますが,そうではありません。みんなのひろば
お茶におけるクロロフィル生成
新芽が濃緑になるのは、クロロフィルが増加するためですが,クロロフィルが増加するための条件には,どのようなものがあるのでしょうか?温度,湿度,光量,光の波長などで、最適な条件があるのでしょうか?
よろしくお願いします。
Sato さん
このコーナーに質問をありがとうございます。
茶の生産技術に関係したお仕事をなさっておられるとのこと、この問題に関しては多くの経験が蓄積されているものと想像します。この質問には、クロロフィルの代謝について研究しておられる北海道大学の田中歩先生(北海道大学)が回答文をご用意くださいました。ご参考にしてください。なお、施肥の工夫で葉の色を変えることもあるではないでしょうか。
(田中先生からの回答)
葉の見た目の色は、クロロフィルだけでなく、カロテノイドやアントシアニンなどの色素によっても、大きく異なります。これらの色素の蓄積は、光などの環境によって大きな影響を受けますが、ここではクロロフィルに焦点を当てて考えてみましょう。
新芽が緑色になる時のクロロフィルの量は、二つの要因で決まります。一つは、どれだけ早く緑になるか、すなわちクロロフィルの合成速度です。もう一つは、最終的に蓄積するクロロフィル量です。発育の早い段階の新芽の場合、クロロフィル量は前者によって決まりますが、完全に展開した成熟葉では、後者によって決定されます。観察された新芽がどの段階かは正確にわかりませんが、おそらく後者のほうが重要と考えます。
クロロフィルの合成には、20℃-35℃が良いとの報告がありますが、これは植物種によって異なります。湿度に関しては、あまり報告が無いので、詳しいことはわかりませんが、水が十分供給されている条件では、常識的な湿度範囲では大きな違いはないと思います。光の波長はクロロフィルの量に影響を与えるようです。大麦や豆、トウモロコシなどの報告によると、同じ光量では、青い光より赤い光のほうがクロロフィルを多く蓄積するようです。残念ながらお茶の例はわかりませんが大きな違いはないと思います。光強度はクロロフィルの蓄積に大きな影響を与えます。光強度が極度に低い場合は、クロロフィルの合成活性は低く、蓄積する量も少なくなります。これは、光が十分でないため、光合成が十分できないことが原因でしょう。光強度を上げていくと、次第にクロロフィル量が増加して行きます。野外で見られる常識的な低照度では、クロロフィルを多く蓄積します。これは、光エネルギーを沢山集め、光合成活性を高く維持するためと考えられています。さらに光強度が増し、いわゆる強光条件になると、クロロフィルの減少が始まります。これは、過剰な光エネルギーを捕捉して、光傷害が引き起こされるのを回避するためと考えています。
さて、ご質問の件ですが、光強度が高い時に寒冷紗をかけると、クロロフィルの蓄積に適度な光強度となり、クロロフィル含量が増加したと考えられます。光強度がそれほど高くないとき、たとえば曇りが続くような環境では、クロロフィル蓄積に関しては、最適であり、それ以上光強度を下げても、クロロフィルの蓄積誘導効果がなくなったためと考えられます。どちらにせよ、クロロフィルの蓄積には適度な光強度が大切です。
田中 歩(北海道大学低温科学研究所)
このコーナーに質問をありがとうございます。
茶の生産技術に関係したお仕事をなさっておられるとのこと、この問題に関しては多くの経験が蓄積されているものと想像します。この質問には、クロロフィルの代謝について研究しておられる北海道大学の田中歩先生(北海道大学)が回答文をご用意くださいました。ご参考にしてください。なお、施肥の工夫で葉の色を変えることもあるではないでしょうか。
(田中先生からの回答)
葉の見た目の色は、クロロフィルだけでなく、カロテノイドやアントシアニンなどの色素によっても、大きく異なります。これらの色素の蓄積は、光などの環境によって大きな影響を受けますが、ここではクロロフィルに焦点を当てて考えてみましょう。
新芽が緑色になる時のクロロフィルの量は、二つの要因で決まります。一つは、どれだけ早く緑になるか、すなわちクロロフィルの合成速度です。もう一つは、最終的に蓄積するクロロフィル量です。発育の早い段階の新芽の場合、クロロフィル量は前者によって決まりますが、完全に展開した成熟葉では、後者によって決定されます。観察された新芽がどの段階かは正確にわかりませんが、おそらく後者のほうが重要と考えます。
クロロフィルの合成には、20℃-35℃が良いとの報告がありますが、これは植物種によって異なります。湿度に関しては、あまり報告が無いので、詳しいことはわかりませんが、水が十分供給されている条件では、常識的な湿度範囲では大きな違いはないと思います。光の波長はクロロフィルの量に影響を与えるようです。大麦や豆、トウモロコシなどの報告によると、同じ光量では、青い光より赤い光のほうがクロロフィルを多く蓄積するようです。残念ながらお茶の例はわかりませんが大きな違いはないと思います。光強度はクロロフィルの蓄積に大きな影響を与えます。光強度が極度に低い場合は、クロロフィルの合成活性は低く、蓄積する量も少なくなります。これは、光が十分でないため、光合成が十分できないことが原因でしょう。光強度を上げていくと、次第にクロロフィル量が増加して行きます。野外で見られる常識的な低照度では、クロロフィルを多く蓄積します。これは、光エネルギーを沢山集め、光合成活性を高く維持するためと考えられています。さらに光強度が増し、いわゆる強光条件になると、クロロフィルの減少が始まります。これは、過剰な光エネルギーを捕捉して、光傷害が引き起こされるのを回避するためと考えています。
さて、ご質問の件ですが、光強度が高い時に寒冷紗をかけると、クロロフィルの蓄積に適度な光強度となり、クロロフィル含量が増加したと考えられます。光強度がそれほど高くないとき、たとえば曇りが続くような環境では、クロロフィル蓄積に関しては、最適であり、それ以上光強度を下げても、クロロフィルの蓄積誘導効果がなくなったためと考えられます。どちらにせよ、クロロフィルの蓄積には適度な光強度が大切です。
田中 歩(北海道大学低温科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2010-12-10
佐藤公行
回答日:2010-12-10