一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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エチレンによる矮化した植物のジベレリン生合成について

質問者:   会社員   コスモ
登録番号2367   登録日:2010-12-17
エチレンは生長抑制剤の1つとして数えられているようですが、これはジベレリン生合成阻害剤と比較した場合どのようなメカニズムで矮化・抑制するのでしょうか。
生長に関わることから単なる細胞の形の変化だけではなく、最終的には何らかのかたちでジベレリン生合成を制御する機構にまで関わっているのではないかと思うのですがよくわかりません。教えて下さい。
宜しくお願い致します。
コスモ さま


ご質問ありがとうございます。良いところに疑問を抱かれていますね。コスモ様が考えておられるように、ある植物ホルモンによる処理が、そのホルモンや別のホルモンの合成や分解に大きく影響する例がいくつか知られつつありますが、まだまだこれからの分野のようです。前回のご質問の時にも回答を依頼した理化学研究所の神谷先生に回答をお願いしました。様々な観点から答えて下さっていますので、興味深く読んで頂けるかと思います。




-------神谷先生より


コスモ さま


植物ホルモンは相互に複雑に影響を及ぼしますが、それらは植物の種類や生育条件により異なりますので、条件を正確に理解することが重要です。一般的にエチレンは植物の長生長を抑制します。これは植物の細胞膜の下にある表層微小管の配向に対してエチレンは横方向の微小管を縦方向に並ばせる働きがあります。エチレン処理により縦方向に「たが」がかかったような状態になるので縦方向の伸長が抑制されます。これとは逆に浮きイネはエチレンによって伸長が促進されます。名古屋大学の芦苅教授らによって最近転写因子Snorkelが単離されました。これらの転写因子はジベレリンの生合成を制御するので、浮きイネは水没によりエチレンが増加すると、その刺激により内生のジベレリンが増加して節間が長くなります。以上の事実は同じエチレンでも伸長生長に対して植物の種類と生長条件によっては全く正反対に作用することを示しています。ここら辺りが植物ホルモン研究の奥深いところです。オーキシンはエチレンの生合成を誘導することがよく知られています。

一方、オーキシンはエンドウの節間伸長に際してジベレリンの生合成を高めることにより節間伸長を誘導することがオーストラリアのグループにより報告されています。色々な植物のゲノム配列が明らかになり、今後は各種ホルモンの相互作用が生育条件や器官の違いにより遺伝子レベルで正確に理解されるようになると思います。なお、さらに植物ホルモンに関して興味がある場合は講談社から大学学部生むきに出版されている教科書「新しい植物ホルモンの科学 第二版」をご覧下さい。そのなかには最近植物ホルモンの仲間に加わった枝分かれを制御するストリゴラクトンや開花にかかわるフロリゲンなどもわかりやすく記載されています。



神谷勇治(理化学研究所)
JSPP広報委員長
柿本辰男
回答日:2011-01-07