一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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吸収スペクトルの表し方

質問者:   教員   一高校教師
登録番号2368   登録日:2010-12-19
いつも興味深く拝見させていただいております。私は高校で生物を教えています。高校の教科書では、光合成色素の吸収スペクトルをグラフで表す場合、縦軸を「吸収率(相対値)としながら実際には吸光度で表していると思われます。吸光度で表すとクロロフィルの緑色の吸収はほとんどないように見えますが、実際に吸収率(%)で表したものを見ると随分と緑色も吸収していると思います。吸収率で見た方が実際の物質の光の透過・吸収などが分かりやすいと思いますが、吸光度で吸収スペクトルを表す利点は何ですか?よろしくおねがいいたします。
一高校教師 さま

クロロフィールを初めとして植物に含まれる色素がどの波長の光を、どれだけ吸収するかを表すために、横軸に波長をとり、それぞれの特定の波長での光の吸収を縦軸に吸光度(A)として表しています(色素の吸収スペクトル)。このスペクトルを示す時、縦軸にそれぞれの波長の光の吸収率(%)ではなく、なぜ吸光度(A)にするかについてのご質問ですが、これは、色素の濃度と各波長での吸光度(A)とは比例関係を示しますが、色素の濃度と各波長での光の吸収率(%)とは比例しないためです。

葉から80%エタノールでクロロフィールを抽出したとき、そのエタノール溶液の、ある波長での吸光度(A)はクロロフィールの濃度に比例しますが、しかし、同じ波長での光の吸収率(%)には比例しません。ある波長の光が溶媒の80%エタノールのみを透過する測定光の強度をI0とし(可視光の波長範囲では、エタノールによる吸収はゼロ)、クロロフィールを含む80%エタノール溶液で測定光が吸収されてIとなった時、A (Absorbance)で示される吸光度は、A = log10 (I0/I)で表すことができ、Aは色素の濃度に比例します(ランバート-ベアーの法則)。これはすべての色素や細胞成分、また、一般に比色定量を分光器によって行うときの基礎となる法則です。


この様に、分光器で測定するクロロフィールなど色素の濃度と吸光度(A)とはどの波長でも比例関係にありますが、各波長の光の吸収率(%, I/I0 x 100)と色素の濃度とは比例しません。吸光度(A)と吸収率(%)との関係から、ご質問にありますように、吸光度(A)で示したクロロフィールの吸収スペクトルを見ると500~600 nm範囲(緑色)の波長の光を余り吸収しているようにはみえませんが、これを吸収率で示すと、緑色の光もクロロフィールがかなり吸収しているように見えます。しかし、これは実際を反映しているのではなく、波長500-600 nmの光のクロロフィールによる吸収は、吸光度(A)から求めた低い値が正しい値です。また、例えば、クロロフィールaの429 nmと550 nmでの吸光度(A)の割合は、クロロフィール濃度が変わっても変化しません。しかし、これを吸収率(%)で比較すると、クロロフィール濃度によって変化し,一定の値にはなりません。従って、吸収率(%)で測定すると、クロロフィール濃度によって、429 nmと550 nmでの吸収率(%)の割合が変動するため、一定の値にはなりません。

                         
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2011-01-14
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