一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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維管束痕と葉の葉脈との関係について教えてください

質問者:   会社員   ゆう
登録番号2372   登録日:2010-12-25
冬芽の観察をしていて疑問に思ったことです。
冬芽とセットで葉痕の観察がよく行われます。葉痕には、維管束痕があり、これが人の顔に見えたりして親しまれています。植物の種類によって、数が異なり、葉痕のなかに1本の線のように見えたり、3つの点に見えたり、輪のように多数並んでいたりします。これは、葉が付いていたときに、維管束につながっていたから維管束痕と呼んでいるわけですが、葉柄、葉身へとどのようにつながっていたのでしょうか。一般的な葉の葉身には主脈が中心を通っていますが、維管束痕が輪状に並んでいる葉の場合は、主脈の中でも輪状に並んでいるのでしょうか。また、1本の維管束痕しかない葉の場合は、主脈の中でも1本で、側脈では枝分かれしていくのでしょうか。
維管束痕と、葉脈との関係がどうなっているか、教えていただけたらと思います。よろしくお願いします。
ゆう 様

 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。野外の植物を詳しく観察なさっておられるゆうさんの質問に、実験室の中での時間が長かった私がきちんとした回答を用意することが出来るかどうか心配ですが、頑張ってみます。


 木生シダのマルハチのように、円の中に八の字を逆さまにしたように維管束が並んでいる葉痕の模様が、そのまま、その植物の名前になっている場合があるように、葉痕は分類形質としても用いられています。葉痕には維管束の配置が明瞭に残されていますので、頂いたご質問は葉柄基部から葉身へ維管束がどのように走っているかと云う質問だと受け取りました。


 何種類かの教科書を調べて見ましたが、葉痕の模様については、少し記載がありましたが、葉柄中の維管束についての記載は見つかりませんでした。そこで、自分で調べてみることにしました。まず、一番身近なものとして、神棚のサカキを調べました。葉痕の模様から、サカキの葉柄基部では、維管束は浅い U の字状に並んでいることが分かりました。

 葉柄を上部へと切り進んで行くと、U の字はどんどん浅くなり、葉身近くでは浅いV の字形になりました。なおも葉身期部へと切り進んで行きました。この浅い V の字形の両端が葉の側脈に分かれて行くようでした。テイカカヅラやサザンカも調べました。勿論、少しずつ違いますが、基本的には同じようでした。カナメモチでは葉柄の基部では維管束は円形に並んでいましたが、上に行くに従って、凹字型になり、だんだんと凹字の厚みが減り、もっと上部ではサカキと同じようになりました。イロハカエデは少し違っており、葉柄の基部は広がっているので、葉痕は直線状ですが、少し上部では円形になり、上に行くに従って、ちいさなU の字をサークル状にウメの花のようにつなげ形になり、葉身と接する部位では U の字は直線状に並んでいました。一つ一つの U の字が葉のそれぞれの裂片に入って行くものと思われます。


 葉柄の中の維管束は、良く切れる鋏(私は木鋏を使いました)とルーペがあれば観察できるので、気になる葉痕に出会ったら、ご自分で調べてみられたらどうでしょう。維管束は蒸散の盛んな葉の場合、赤インクを吸い上げさせると、もっと観察しやすくなると思います。

 最後にこんな方法でも葉柄の中の維管束が葉身のどの部分とつながっているのかを探ることが出来ることを示すため、私が高校生時代にやった実験をご紹介します。ヒマワリは茎の先端が東から西へと運動することで知られていますが、運動するのは茎の先端だけでなく、葉も運動します。朝は西側の葉は立ち上がり、東側の葉は垂れ下がっていますが、夕方には逆に東側の葉が立ち上がり、西側の葉が垂れ下がります。葉が立ち上がるのは葉柄の下側が伸びるからで、垂れ下がるのは上側が伸びるからです。葉柄は上側が平らな三角柱のような形をしており、太い維管束が上側に2本、下側に1本、三角柱の稜に沿って走っています。葉柄が伸びるためには、葉柄を延ばす植物ホルモンのオーキシンが葉身から供給されなければなりません。葉の中央の部分を切除し、この部分からのオーキシンの供給を絶ちますと、葉柄は垂れ下がりますし、葉の両側の部分を切除し、この部分からのオーキシンの供給を絶ちますと、葉は立ち上がります。こんな実験からも葉柄の中の維管束が葉のどの部分とつながっているのかを推測することが出来ます。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡弘郎
回答日:2011-01-07