一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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サイトカイニンの気孔開閉への影響

質問者:   教員   池本ゆり子
登録番号2378   登録日:2011-01-06
高校の生物教科書では、気孔を開口するホルモンとしてサイトカイニン、また、閉口させる植物ホルモンとしてアブシシン酸と教えています。
 こちらのホームページを見せていただいて、アブシシン酸の働きについてはある程度のメカニズムが明らかになっていることがよくわかりました。しかし、サイトカイニンについての記述は見当たらなかったのですが、では、サイトカニンが気孔を開くメカニズムはまだ未解明なのでしょうか。それとも、最近の研究ではサイトカイニンの影響は否定されているのでしょうか。
 
池本ゆり子 様

 みんなの広場をご利用頂き、ありがとうございます。気孔の開閉を調節する最も重要な植物ホルモンはアブシジン酸です。みんなの広場の「解説、トピックス」に書いてありますように、水が欠乏すると植物はアブシジン酸を作ります。アブシジン酸を受容した孔辺細胞は、活性酸素や一酸化窒素(N0)を作り、また、細胞内のカルシウムイオンの濃度を上げます。これらは孔辺細胞の中での細胞内情報伝達物質として働き、最終的にはイオンチャネルの調節と介して細胞内浸透圧を低下させて孔辺細胞の張りが無くなり、気孔が閉じます。


 多くの植物においてサイトカイニンは気孔を開く作用があります。一般的に、十分な栄養分と水があり、植物がすくすく育つような環境では、植物の中のサイトカイニンの量が増えます。そのような状況は気孔が開く状況ですので、気孔開閉の調節においてサイトカイニンが重要な役割を果たしている可能性があります。さて、ご質問のサイトカイニンが気孔を開くメカニズムについてお答えします。ソラマメを用いた実験では、サイトカイニンは活性酸素の一種である過酸化水素や、NOの量を低下させるという報告があります。過酸化水素やNOは気孔開閉の重要なメッセンジャーですので、メカニズムの少なくとも一部は過酸化水素やNO濃度の低下ということになります。ただし、自然界での気孔の開閉の調節に、サイトカイニンの量の変化がどれくらい重要な役割を果たしているのかは、今後明らかにしなければならない問題です。

 今回は回答が遅くなり、申し訳ありませんでした。またご利用下さい。


柿本辰男(植物生理学会広報委員長/大阪大学大学院理学研究科)
 
回答日:2011-01-20