質問者:
中学生
KAMIRA
登録番号2381
登録日:2011-01-16
学校の生物の課題で、植物の越冬戦略について調べるように言われました。みんなのひろば
植物の越冬戦略について
私は降雪地帯の植物の冬芽の耐寒について調べようと思い、冬芽を冷凍庫に入れて取り出し、氷結しているかどうかを見る実験をしようと思いました。
この場合、対照実験として温帯または熱帯植物も冷凍するべきでしょうか?
そうだとすれば、降雪地帯の植物と温帯/熱帯の植物として適当なのはどんな植物でしょうか?
また、実験方法は上記のもので適当でしょうか?
質問が多くて申し訳ございません。
KAMIRA さん
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。越冬芽のことは、植物の凍結耐性に詳しい東北大学生命科学研究科の山崎誠和先生に回答をお願いしました。山崎先生は、岩手大学の上村松生先生にも相談して下さって、以下のような回答を書いて下さいました。読んでいただくと分かると思いますが、越冬芽の凍結に関する実験を家でやろうとしてもちょっと無理なようですね。多分学校の理科室を使っても、簡単には出来ないと思います。先生は、中学生が出来そうな実験を提案して下さいましたので、検討してみて下さい。この回答をもって学校の先生に相談するのもいいかと思います。
実験方法を一つ一つ考えてみたいと思います。計画されている実験では野外などで自生している冬芽を採集し、屋内の冷凍庫に移し、しばらく後に何かの方 法で冬芽の中に氷の結晶ができているかどうかを観察すると言うものだと理解しました。
まず、始めに 野外から越冬芽を採集する場合ですが、この点に関しては、発砲スチロールなどの容器に保冷剤を入れて、その中に回収するなどの採集方法が あるかと思います。しかし、少し難しいと思うのは、採集した冬芽を冷凍庫に入れ、観察するところだと思います。冷凍庫(-17℃前後)に入れるということですが、もし採集の段階で冬芽の中の水が凍結し ていない場合、室温もしくは保冷箱の温度差が大きく、急速な冷却が起こります。この場合、自然界より遥かに早い速度で冷却が起こり、植物 の“細胞内”の水が凍結する可能性が考えられます。“細胞内”と言う表現は少し難しいのですが、自然界で起こる程度の速さの凍結速度です と通常は“細胞外”の水が初めに凍結します。“細胞外”の水が凍結すると“細胞内”にある水が外に追い出されます。細胞内の水の多くが無くなるので、あまり低くない凍結温度だと細胞内は凍らない状態です(凍るべき水が少なくなるからです)。しかし、急速に冷却されると細胞 内の水が凍ってしまいます。細胞内の水が氷ると細胞は完全に死にますので、氷が融けても生き返ることはありません。例えば、野外で採集した冬芽をゆっくりと温度を下げることのできる装置に移し、2〜5℃前後の温度 から氷点下までゆっくりと温度を下げると言う、かなり特殊な設備の必要な実験が適切かと思います。この場合でも過冷却と言う現象がありま すので、必ずしも氷ができるとは限らないのが実際です。
次に観察方法 ですが、こちらも技術的な難しさがあります。観察するためには何かしらの方法で冬芽の中身を開かないといけないと考えられますが、大変小さなものですので同じ冷凍庫の中で温度を上げずに観察する必要があります。例えば、カミソリを氷点下に十分な時間冷やして切り取るなどの 工夫も必要です。中には先ほど述べた水が過冷却を保っている場合もあり、刺激を与えることで凍結が開始してしまうこともあるかと思いま す。凍結が起こっているかどうかについても実体顕微鏡を使わずに肉眼で観察して、判断するのには熟練の技が必要です。
ここまで考えて自宅や学校で実験をするのは中々難しいですよね?自宅や学校でできる実験を少し考える必要があるのですが、どのようにしましょうか?まず、野外で実際に氷点下の冬芽がどのようになっているのかを 観察すると言うのは一つのアイデアです。この場合ですと気温が氷点下になる前後を比較することになるかと思います。冬芽を切るのにチャレンジしてみても良いかもしれません。それから、これも気温が氷点下になった場合ですが、採集した冬芽を冷凍庫ではなく冷蔵庫や室温にもどし、数日から一週間程度置き、中身を観察してみると言うのも一つの方法かと思います。この方法だと凍結中は観察できないのですが、凍結に よって死んでいる器官が変色するので、どの場所で凍結や凍結による傷害が発生したのかの指標になるかと思います。この場合ですと先ほどと 同様氷点下になる前のものとを同じ方法で比較することが考えられます。冷凍庫の利用を考えると、ポイントは前述の通り温度の下がり方(この場合ですと冬芽の温度)を工夫する必要があります。この点についての明確なアイデアは無いのですが、温度差を少なくするために冷凍庫の温度設定を少し上げてみる、冬芽をタオルか何かで包んで冬芽の温度が下がる時間を遅くして、その後、温度を戻して組織が変色している場所 を観察してみる、と言う方法は考えられます。この場合ですと凍結していないものだけでなく、直接冷凍庫に入れたものとを比較することで冬 芽の中で凍っていた場所を推察することができるかと思います。それから、材料についてですが(これも難しいのですが)実験方法が決まれば観察や入手の容易さで決めてはいかがでしょうか?観察の容易さでは、大きな材料、入手の容易では、お住まいの地域に多く自生もしくは植えられているもの(もちろん採集の際には関係者から適切な許可を頂いて下さい。)が良いと思います。過去にはレンゲツツジやサンシュユの冬 芽などについて研究された例があります。まずは、じっくりと材料を観察することから始めてみるのが大切ですね。
岩崎 誠和(東北大学生命科学研究科岩崎誠和)
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。越冬芽のことは、植物の凍結耐性に詳しい東北大学生命科学研究科の山崎誠和先生に回答をお願いしました。山崎先生は、岩手大学の上村松生先生にも相談して下さって、以下のような回答を書いて下さいました。読んでいただくと分かると思いますが、越冬芽の凍結に関する実験を家でやろうとしてもちょっと無理なようですね。多分学校の理科室を使っても、簡単には出来ないと思います。先生は、中学生が出来そうな実験を提案して下さいましたので、検討してみて下さい。この回答をもって学校の先生に相談するのもいいかと思います。
実験方法を一つ一つ考えてみたいと思います。計画されている実験では野外などで自生している冬芽を採集し、屋内の冷凍庫に移し、しばらく後に何かの方 法で冬芽の中に氷の結晶ができているかどうかを観察すると言うものだと理解しました。
まず、始めに 野外から越冬芽を採集する場合ですが、この点に関しては、発砲スチロールなどの容器に保冷剤を入れて、その中に回収するなどの採集方法が あるかと思います。しかし、少し難しいと思うのは、採集した冬芽を冷凍庫に入れ、観察するところだと思います。冷凍庫(-17℃前後)に入れるということですが、もし採集の段階で冬芽の中の水が凍結し ていない場合、室温もしくは保冷箱の温度差が大きく、急速な冷却が起こります。この場合、自然界より遥かに早い速度で冷却が起こり、植物 の“細胞内”の水が凍結する可能性が考えられます。“細胞内”と言う表現は少し難しいのですが、自然界で起こる程度の速さの凍結速度です と通常は“細胞外”の水が初めに凍結します。“細胞外”の水が凍結すると“細胞内”にある水が外に追い出されます。細胞内の水の多くが無くなるので、あまり低くない凍結温度だと細胞内は凍らない状態です(凍るべき水が少なくなるからです)。しかし、急速に冷却されると細胞 内の水が凍ってしまいます。細胞内の水が氷ると細胞は完全に死にますので、氷が融けても生き返ることはありません。例えば、野外で採集した冬芽をゆっくりと温度を下げることのできる装置に移し、2〜5℃前後の温度 から氷点下までゆっくりと温度を下げると言う、かなり特殊な設備の必要な実験が適切かと思います。この場合でも過冷却と言う現象がありま すので、必ずしも氷ができるとは限らないのが実際です。
次に観察方法 ですが、こちらも技術的な難しさがあります。観察するためには何かしらの方法で冬芽の中身を開かないといけないと考えられますが、大変小さなものですので同じ冷凍庫の中で温度を上げずに観察する必要があります。例えば、カミソリを氷点下に十分な時間冷やして切り取るなどの 工夫も必要です。中には先ほど述べた水が過冷却を保っている場合もあり、刺激を与えることで凍結が開始してしまうこともあるかと思いま す。凍結が起こっているかどうかについても実体顕微鏡を使わずに肉眼で観察して、判断するのには熟練の技が必要です。
ここまで考えて自宅や学校で実験をするのは中々難しいですよね?自宅や学校でできる実験を少し考える必要があるのですが、どのようにしましょうか?まず、野外で実際に氷点下の冬芽がどのようになっているのかを 観察すると言うのは一つのアイデアです。この場合ですと気温が氷点下になる前後を比較することになるかと思います。冬芽を切るのにチャレンジしてみても良いかもしれません。それから、これも気温が氷点下になった場合ですが、採集した冬芽を冷凍庫ではなく冷蔵庫や室温にもどし、数日から一週間程度置き、中身を観察してみると言うのも一つの方法かと思います。この方法だと凍結中は観察できないのですが、凍結に よって死んでいる器官が変色するので、どの場所で凍結や凍結による傷害が発生したのかの指標になるかと思います。この場合ですと先ほどと 同様氷点下になる前のものとを同じ方法で比較することが考えられます。冷凍庫の利用を考えると、ポイントは前述の通り温度の下がり方(この場合ですと冬芽の温度)を工夫する必要があります。この点についての明確なアイデアは無いのですが、温度差を少なくするために冷凍庫の温度設定を少し上げてみる、冬芽をタオルか何かで包んで冬芽の温度が下がる時間を遅くして、その後、温度を戻して組織が変色している場所 を観察してみる、と言う方法は考えられます。この場合ですと凍結していないものだけでなく、直接冷凍庫に入れたものとを比較することで冬 芽の中で凍っていた場所を推察することができるかと思います。それから、材料についてですが(これも難しいのですが)実験方法が決まれば観察や入手の容易さで決めてはいかがでしょうか?観察の容易さでは、大きな材料、入手の容易では、お住まいの地域に多く自生もしくは植えられているもの(もちろん採集の際には関係者から適切な許可を頂いて下さい。)が良いと思います。過去にはレンゲツツジやサンシュユの冬 芽などについて研究された例があります。まずは、じっくりと材料を観察することから始めてみるのが大切ですね。
岩崎 誠和(東北大学生命科学研究科岩崎誠和)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-03-04
勝見 允行
回答日:2011-03-04