一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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2,4-Dなどの除草作用について

質問者:   高校生   小林
登録番号2395   登録日:2011-02-19
はじめての質問です。よろしくお願いします。

先日、生物の授業で「2,4-Dなどの除草剤は、作物(イネ科植物)の成長にはほとんど影響のない濃度でも雑草(双子葉)の成長を阻害するから除草できる」と習いました。
ところが、私の化学Ⅰ・Ⅱの新研究という参考書には「2,4-Dは(中略)雑草に異常成長を起こさせて枯死させる」とあります。
先生に訊いてみたところ、先生が参考にした&quot絵とき 植物ホルモン入門&quotという本を持ってきてくださり、それには確かに2,4-Dは成長を阻害する、とありました。

2,4-Dは雑草の成長を抑制するのでしょうか?異常成長させるのでしょうか?
小林 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
中高生向きの教科書や参考書の記載や説明表現の難しさを感じるご質問です。どちらの説明も「間違い」ではなく、どちらの説明にも補足説明が必要だったようです。除草剤には、働き方によっていくつかの型がありますが、2,4-Dはオーキシン型の作用をもつ合成化合物で、初めての合成オーキシンともよばれていました。天然のオーキシンはインドール-3-酢酸(IAA)ですが、どちらもある濃度以上になると成長抑制作用を示します。特に、根の成長は茎の成長よりもオーキシンに敏感で、茎の成長を促進する濃度でも、根の成長を抑制することが分かっています。根成長の抑制と言いましたが、実際は濃度によって結果がちがい、単に伸長が抑制されることから、伸長が抑制されるばかりでなくコイル状に巻いたり、根の先端部分がふくれたりする異常な形状になることまであります。成長が「抑制」されることは「正常」ではありませんので「異常」とも言えますね。2,4-Dは安価に入手できるのでその生理作用が詳しく研究されたなかで、双子葉植物は単子葉植物よりもオーキシンに敏感(より低濃度で生理作用がみられる)ということも分かってきたのです。それらの研究の結果、2,4-Dは初めての除草剤として開発された経緯があります。除草剤として水田に使用される濃度の2,4-Dは、単子葉植物の根の成長には大きな異常をもたらしませんが、双子葉植物の根の成長を抑制(異常な形状もふくめ)する結果、求める除草効果が得られるのです。ですから、先生の説明は正しく、かつては、オーキシン型除草剤はイネ科植物には影響なく、双子葉植物を枯死させる「選択的除草剤」とすら言われたものです。水田の双子葉雑草は、2,4-Dの作用で異常成長をおこして枯死したのです。畑作物に用いるのはかなり難しく、作物の種類によって濃度を厳密に調整する必要があります。参考書の記載は、伸長の抑制、異常形態の形成などをまとめて「異常成長」と記載しただけだと思われます。
ちなみに、2,4-Dなどのオーキシンは高濃度では地上部の成長現象にも悪影響があります。たとえば落葉を促進する作用もあり、合成粗製品がベトナム戦争時に米軍の「枯葉作戦」で大量に散布されたりしました。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-03-04