一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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尿の硝酸塩化

質問者:   一般   呼吸発電
登録番号2396   登録日:2011-02-20
開発途上国の一部で、尿と便を別々に集め、それぞれを肥料にする取り組みが行われています。
現在、尿を肥料にする際には水で希釈しています。

1、尿素を硝酸塩に変えることで、肥料として使いやすくなると思います。
  尿を好気的な条件下で保存し、硝化菌の作用で硝酸塩にする事は可能でしょうか。
2、可能性がある場合、温度や期間など検討すべき条件について、御教授頂けないでしょうか。

植物性理学から外れる内容で申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。
呼吸発電さん

質問をお寄せ下さりありがとうございました。ご質問には名古屋大学の小俣達男先生が下記の回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。


(小俣先生からの回答)
1. については「可能」だと思います。下水処理場では実際に硝化作用によってアンモニア等を硝酸イオンに変換し、続いて脱窒作用によって硝酸イオンを窒素ガスに変換して除去しているそうです。これらの反応はそれぞれ異なる微生物集団を利用しているわけですが、前半だけに留めておけば、硝酸イオンが得られるはずです。

2. については、市町村の下水処理場に問い合わせるのがベストだと思います。ちなみにヒトの場合、成人一人一日あたり30gの尿素を排出していると言われています。尿素の窒素含量は重量で約50%なので、一人一日あたりの窒素排出量は15gで、これを有効利用することは大切なことです。実際屎尿から尿素を回収する場合のエネルギーコストとハーバー・ボッシュ法で大気中のN2から新規合成する場合のエネルギーコストを比較し、前者が十分検討に値する方法であると主張している論文もあります(文献1)。また、最近話題の微細藻類の大量培養による燃料生産やCO2削減の計画においても、培養に必要な窒素肥料のコストを下げるために汚水処理場から出る窒素を利用することを提言している論文もあります(文献2)。

文献1:Mauer et al. (2003) Nutrients in urine: energetic aspects of removal and recovery. Water Science and Technology, 48:37-46.

文献2:Clarens et al. (2010) Environmental life cycle comparison of algae to other bioenergy feedstocks. Environmental Science and Technology 44, 1813-1819.

日本の江戸時代には3,000万人の人口を維持する農業生産があったわけですが、工業的な窒素固定反応がなかった時代にこれだけの生産をあげるためには糞尿の利用が重要でした。窒素の循環的利用という観点から見ると昔の方が「賢かった」かもしれません。(寄生虫の蔓延という問題はありましたが)

小俣 達男(名古屋大学大学院・生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2011-03-04
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