一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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コブシの学名の違い

質問者:   一般   群落
登録番号2414   登録日:2011-03-26
コブシの学名は辞書によって

○ Magnolia kobus DC.
○ Magnolia praecocissima Koidz.

と違いがありました。通称「Ylist」と呼ばれている学名検索のページでは
コブシは、

○Magnolia kobus DC. を標準
○Magnolia praecocissima Koidz. を synonyum(異名)
としています。

Q1)分類学では「標準」と「異名」ではどのような違いがあるのでしょうか?
Q2)何を根拠として「標準」としているのでしょうか?
Q3)それをInternation Plant Name Index(IPNI) の中で知ることは
  できるのでしょうか?IPNIの中では、それぞれが並列のリストに
  掲載されていました。
Q4)例えば、研究がすすんで、異名が標準になることはあるのでしょうか?
Q5)命名者の名前が例えば、ハマギクの場合、
  Nipponantheum nipponicum (Franch. ex Maxim.) Kitam. (1978)では
  ( )の2人と、最後の名前との違いは、先に登録して標準とされていた学 名に対し、研究がすすんで、別の人が、同じ名前で異名から標準になったことを意味しているのでしょうか?

素人なので、とてもおかしな質問をしていると思うのですが、宜しくお願い申し上げます。
群落
群落様

質問コーナーへ用こそ.歓迎いたします。お待たせしました。回答が遅くなって済みませんでした。回答は植物系統分類の専門かである東京大学名誉教、現兵庫県立人と自然の博物館長の岩槻邦男先生にしていただきました。


いただきましたご質問,丁寧に対応しようといたしますと,ずいぶんたくさんの情報を提供する必要がありますが,メールでの返答ですので,簡単に要点のみお答えいたします。さらにご質問がありましたらご連絡ください。

○ コブシの学名
生物の種とは何かは、科学の現状の実力では定義できません。生物学が生き物につてのすべてを解明した時に,種とは何かを定義することができるでしょう。それまで、生物の種多様性は,仮に定義した種を基本的な単位として認識し,その仮説をもとに種とは何かという生物学の最終的な課題の一つに取り組みます。
和名でコブシと呼んでいる植物については,研究者の認識もほぼ定まっています。しかし,その植物は学名でいえばどれに当たるのか,研究者によって意見が異なっています。学名で正名(標準名)とされているのは,そう呼んでいる研究者の見解(仮説の選定)で選ばれますので,多くの場合ひとつに定まりますが,研究者によって見解(仮説の立て方)が異なるときは異なった学名が並列されてしまいます。ヒトがHomo sapienseである場合など,異論がない例です。
synonym(異名)とは、これまでにつくられた当該種の学名のうち,正名以外のものすべてです。種の認識の差によって異名となったりならなかったりする場合も,命名規約上の取り扱いの差によって異名となる場合もあります。
研究が進んで,その種についての科学的な結論が出た時には,学名(正名)はひとつに決まるはずです。しかし,たとえば、イチョウの学名はGinkgo bilobaということで異論はありませんが,だからといって生物学がイチョウについてすべてを知っているわけではないことも想い出していただきたいと思います。すべてを知っているわけでもないイチョウについて,学名(和名も)も唯一に確定しているように見えるのは,むしろ僥倖かもしれないと理解していただきたいです。

○ author nameの表記法
植物の命名規約では,学名(のepithet種小名)を最初につけた人の名前と,現に使っている学名の2命名の組み合わせを最初に提唱した人の名前の双方を併記することになっています。
ハマギクの学名は最初マクシモウィッツによって名付けられました。後に,北村四郎先生が,これはNipponantherum属に属させるべきだと提唱され,その見解が広く用いられていますので,国際植物命名規約という約束に従って,お示しいただいているような表記になっています。

岩槻 邦男(東京大学名誉教、現兵庫県立人と自然の博物館長)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-05-02
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