一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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日本サクラソウの受粉について

質問者:   教員   キーロン
登録番号2416   登録日:2011-04-04
日本サクラソウは雌しべが長いものと短いものがあり、同じ種類では自家受粉できないといいます。これは花の仕組み上、できないようになっているという意味でしょうか。例えば花粉を採取してわざと同じ花の雌しべにつけたら受粉するのでしょうか。もし可能であれば、こつを教えてください。さまざま資料を探しましたが、見つけることができなかったのでぜひ教えてください。
キーロン様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
サクラソウの人工授粉のノウハウについては、実際に栽培されている方でないと分かりませんが、サクラソウの栽培については、web上で検索していただければいくつかサイトがみつかります。ここでは、ご参考のためにサクラソウの受粉/受精それ自体について説明しておきます。まず、名前ですが、日本サクラソウというのは正しい和名ではありません。ただ、「サクラソウ」です。学名はPrimula sieboldii E. Morren です。つまり、シーボルトが採取して、Morrenが命名しました。Morrenは19世紀のベルギーの植物学者でやはり日本に来ており、いくつかの植物の命名者になっています。
サクラソウの花は異形花柱花といって、雌しべと雄しべの長さが違います。ただ二種類あって、ご質問にもあるように雌しべが長く雄しべが短い「長花柱花」と反対に雌しべが短く雄しべが長い「短花柱花」があります。前者は花を上からみると、ピンの頭のようにみえるのでピンタイプ (pin type)と呼び、後者は花冠から雄しべが出ていて、なんとなく糸くずがはみ出しているように見えるので、スラムタイプ(thrum type)と呼んでいます。両者の花は他にも違いがあって、ピンタイプの雌しべの柱頭の突起は長く、スラムタイプの柱頭では突起は短い。、また、前者の花粉は後者の花粉に比べてやや小型です。サクラソウはいわゆる一種の自家不和合で、同じ花の花粉による受精(自家受精)は避けるようにできているのです。自家不和合については過去の質問への回答(登録番号0577, 1175, 2309, 2415)を読んで下さい。サクラソウは虫媒花ですから、ハチのような昆虫によって送粉が行われます。サクラソウではピンタイプの花の花粉がスラムタイプの花の柱頭についた時、あるいはスラムタイプの花の花粉がピンタイプの花の花粉についた時に受精がおきるということです。サクラソウの花には、実はもう一つのタイプがあって。雌しべと雄しべの長さが等しいものです。このような花を等花柱花といいます。数はとても少ない様ですが、ある調査では15%の花が等花柱花だったという報告があります。等花柱花は自家受粉して種子を作ることができます。異形花柱花では絶対に自家受粉(受精)は起きないかというと、必ずしもそうではなくて、若干種子が出来る場合もあるようです。しかし、此の目的で実験した報告はあるかどうか分かりません。実際に試してみられるのは面白いでしょうね。ピンタイプにしろスラムタイプにしろ、昆虫が訪れないようにして、同じ花で受粉させてやって種子ができれば、自家受粉も可能であるということで、サクラソウは完全は自家不和合では無いことになります。サクラソウはなぜこんな複雑な受粉様式をととっているのかというと、異形花柱花は自家受粉をさけることで遺伝子の入れ替えのチャンスを多くしていることと、等花柱花は、もし昆虫が来なかったりすると異形花柱花には種子が出来ないことになりますから、繁殖上で不利になります。そこで、自家受粉で種子生産を押さえておこうという繁殖戦略だと考えればよいでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-04-18
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