一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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小金井公園のサクラソトオリヒメ衣通姫の花の色の変化の理由

質問者:   一般   飯田 洋
登録番号2418   登録日:2011-04-12
小金井公園の大きな衣通姫が満開をやや過ぎました。見事な咲きぶりです。このサクラの花の色は満開時には真っ白で、満開を過ぎるころから赤味を帯びてきて、最後には美しく濃い赤で終わります。4月12日現在の今日は、遠くから見ると全体としてはピンクです。この色変りは毎年同じように起きます。理由は何なのでしょうか。小金井公園には花が咲いて暫くすると下段に位置する一枝だけの花に白地の花に赤い筋がはいるヒトエヤバイ一重野梅があります。これとメカニズムは似ているのでしょうか。遺伝子によるものであることと赤味がアントシアニンであることは確実でしょう。 この衣通姫は当初から「衣通姫?」と考えてきました。小金井公園の1500本のサクラの内、ソメイヨシノ以外の多くのサクラは「混ざりっ子」のように思われます。この衣通姫もそのなのでしょうか。それとも、衣通姫そのものが、ヤマザクラのように数多い系統を持つ野生の品種なのでしょうか。このサクラの色変りは写真愛好家の絶好の標的にもなってきております。私は勿論、皆さんに理由を伝えたいのです。宜しくお願い致します。 飯田 洋
飯田 洋様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。今年はのサクラの開花は例年並みでしたが、昨年よりは遅かったですね。東日本大震災とそれに伴う原発の事故は春に浮かれる気持ちを遠ざけてしまいましたが、満開の美しいサクラを見ると、やはり心が多少とも晴れやかになりますね。小金井公園は今年も観桜客で賑わったことと思います。小金井桜もきれいだったことでしょう。私自身は小金井桜が大好きです。さて衣通姫のことですが、これは1957年に竹中要氏によってソメイヨシノの中から選抜された品種です。だから、野生種ではありません。ソメイヨシノの形態的特徴を備えています。竹中氏(1903-1966)は植物細胞遺伝学者で、ソメイヨシノがオオシマザクラとエドヒガンの雑種であることを交雑実験で推定した人です。ところで、花の色に関する質問は本コーナーでも沢山あります。色素の化学、色変わりの仕組みなどについていろいろな植物の例で説明がなされていますので、是非それらを読んで下さい。「花の色」で検索されるといでしょう。しかし、残念ながらサクラについてはありません。色変わりは大きく分けて、色素を含む細胞/液胞のpHの変化によるもの(登録番号0779他)と、色素が始めになく後で合成されてくる場合があります。前者ではアジサイ等が詳しく調べられています(登録番号1334)。白い花が時間とともに色がついてくるのは、合成によるものです。花が白いのは白い色素がある訳でなく、色素がないからです(登録番号1678)。花の色素の合成は様々な環境要因によって影響を受けます。温度、光などです。サクラの花の色素はご指摘のようにアントシアニンです(登録番号0227)。アントシアニンの合成には紫外線が必要か、助長される場合のあることが分かっています(登録番号1601、2097等)。衣通姫の場合も、おそらく光が十分に当たってくるとアントシアニンの合成が始まるのでしょう。小金井公園にある一重野梅の斑入りの花のことですが、斑入りの現象は全く別のメカニズムで起きます(登録番号0235、2060)。衣通姫の場合は関係ありません。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-04-18