一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成

質問者:   中学生   あつし
登録番号2428   登録日:2011-05-04
僕の通っている中学校では「卒業研究」というものがあり、僕は今植物の光合成について調べています。そこで、植物が光合成をするときに吸収する二酸化炭素量を実験で計測して、地球温暖化の防止に効果があるか計算してみたいと思っています。予想として、植物の力だけでは温暖化を止めることはできないと考えています。そして研究では、人間ひとりひとりの努力が必要である、というふうに結論づけようと思っています。
僕は、「気体検知管」を用いて、葉をビニール袋でくるみ、片方は黒くしておくことで光合成量・呼吸量を計測できると考えています。
一般によく、水草などを使ってメスシリンダーに酸素をためる、といった方法がありますが、今回僕の研究では、「野菜」に焦点を当てていて(食の安全や農業離れに効果があると思うからです)、実験でも野菜を用いたいと思っています。夏に実験する予定なので、トマトやナス、キュウリなどから適切なものを選びたいと考えています。
今後、予備実験を通して先ほどの方法で成功するか検証するつもりなのですが、

●僕が考えた方法で二酸化炭素量を測定することは可能でしょうか?植わったままの植物で測定するのは難しいでしょうか?
●実験方法について、何かよいやり方はないでしょうか?
●実際に測定する時は、どのくらいのサンプル数が必要でしょうか?

中学生が実際に実行できる方法でお願いいたします。
あつし君

このコーナーに質問をくださりありがとう。
たいへん意欲的な取りくみだと思いますが、以下の(A)-(D)について今少し考えてみてから実験を進められることをおすすめします。

(A)全体の考えについて:
「植物が光合成をするときに吸収する二酸化炭素量を実験で計測して、地球温暖化の防止に効果があるか計算してみたい」と書かれてありますね。二酸化炭素は温室効果ガスの一つですので、植物が吸収する量から大気中の二酸化炭素量の減少量を見積もり、その値から大気の温度を低下させる度合いを見積もることになりますね。ただ、二酸化炭素の減少量から気温低下の度合いを見積もることは簡単ではないので、この研究では植物が大気中の二酸化炭素を減少させるかどうかで、“温暖化防止に効果があるかどうか”を方向として判定することになるのでしょうか。

(1) ところで、植物は光合成で二酸化炭素を吸収しますが、同時に、呼吸に
よって二酸化炭素を放出します(特に、光が弱い時や夜などには呼吸による二酸化炭素の放出が顕著になります)。したがって、先ず、ある植物について昼夜をつうじた一日、さらには四季をつうじた一年間で、呼吸による放出を差し引いた二酸化炭素の吸収量を計測することになりますが、君の実験計画ではそのようなことは考慮に入っていますか。

(2) 次に、地球温暖化の防止に効果があるか確かめるのが目的ですから、地球
上に生きるすべての植物(海洋に生きている藻類やシアノバクテリアと呼ばれる細菌などをも含めて)が年間に吸収する二酸化炭素の量を見積もる必要がありますね。代表として選んだ一つの植物(君の場合には、野菜を予定しているとか)についての計測値だけから、地球全体について計算することには困難(大きな推測)をともないますが、君の実験設計ではこの点はどのようになっていますか。

(3) さらに、樹木の落葉や植物などの死がいなどは計算の上でどのように考慮
されるのでしょうか。また、動物などの餌となって食べられ、また、カビや細菌によって利用されると、最終的には分解産物は二酸化炭素となって大気中に放出されますので、温暖化防止に役立つかどうかを地球規模で考える時には、これらの点についても考慮が必要ですね。

(B)予想について:
「植物の力だけでは温暖化を止めることはできないと考えている」と予想され、「人間ひとりひとりの努力が必要である、というふうに結論づけようと思っています」との予見をもっておられるようですね。ここで「人間ひとりひとりの努力」とは“化石燃料をなるべく使わないようにすること”などをさしているのでしょうか。“人間ひとりひとりが努力すること”は地球人にとって道徳的に良いことだと思いますが、実験をする立場としては、結論については予見をもたず、この場合には“植物が大気の二酸素炭素の吸収にどの程度役立ち、それが地球温暖化の防止にどの程度に効果をもつかについて、実験計測の結果をもとにして見積もることに集中されるのが良いのではないでしょうか(結論が先にあると、実験の結果を見る目がかたよってくる心配がありますので)。

(C)実験の方法について:
「葉をビニール袋でくるみ、片方は黒くしておくことで光合成量・呼吸量を計測できる」とありますが、この測定では(A)の(1)で指摘した、(a)光合成と呼吸による二酸化炭素の吸収・放出量の別々の見積り、(b)年間をとおした全体としての(差し引きの)二酸化炭素の出入りの見積もりがどのようにして行われるのでしょうか。更に、具体的には以下のような疑問もわきます。

(1) 実験の目標は自然状態で植物が二酸化炭素の吸収をとおして地球温暖化防
止に寄与しているかどうかを知ることにあるので、その見積もりの基礎となる実験は自然条件に近いことが必要であると思います。その点から考えると、(a)ビニールの袋でくるむこと、(b)ビニールの片方を黒く塗っておくことに関して、袋の大きさによっては温度や通気の点で問題になることが考えられ、また、光合成の速さをきめる光の強さへの影響も心配になります。

(2) 植わったままの植物で測定することは自然に近いという点では優れている
と思います。この場合、例えば“鉢植え”や“水耕栽培”でやってみるのは如何でしょうか。ただ、土壌などの影響もありますので、植物をとり除いてから土壌などについても二酸化炭素の出入りがないか測定しておくと良いと思います。

(3) 測定に必要なサンプルの数に関しては、同じ条件でやった実験がどの程度
に同じ結果を与えるかによって判断することになり、一概には言えません。

(4) 酸素や二酸化炭素の量を見積もるために「気体検知管」を使われるとのこ
と、(a)検出の限界、(b)酸素や二酸化炭素が測定できる濃さの範囲、(c)これらの濃さを正確に反映するかどうかの程度(定量性)などについて良く調べてから装置を選んでください。別のやりかたとしては、気体の体積や圧力として測定する方法や、電極を使った高感度の方法もあります。目的にあった、可能な方法について比較検討してみてください。

(D)見とおし:
この壮大な実験については、今少し実現方法について検討してみてから始めることをおすすめします。同じような試みをしている人(例えば、学者)も多くいると思いますので、そんな人がやっている方法についても調べて見てください。

ご成功を祈ります。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2011-05-10