質問者:
教員
TAZOE
登録番号2432
登録日:2011-05-09
高等学校の地理の授業で林業を学習します。取り扱う内容は、①熱帯林 ②温帯林 ③冷帯林に分けて分布地域や特色、利用樹種、林業都市などです。しかし、その中で常々気になっていたことがあります。自分なりに図鑑やインターネットを利用して調べてみたのですが、なかなか適格な答えをつかめずにいます。そこで、理科の教員に尋ねたところこちらのホームページで質問をしてみてはとのアドバイスを受け、今回このように質問させていただくことにしました。質問内容は次の通りです。みんなのひろば
硬木・軟木と気候との関係について
質問1:熱帯林の樹種は、硬木でありパルプには適さないということですが、なぜ熱帯地域の木は硬木になるのでしょうか。
質問2:冷帯林の樹種は、軟木でありパルプ材としての利用が多いということですが、なぜ冷帯地域の樹種は軟木になるのでしょうか。
気候との関係があることは十分予測されますが、はっきりとした理由をぜひ教えていただきたいと思っています。理科の教員、地理の教員の間でそれぞれ見解が異なるので、どうか正確な回答をお願い致します。
TAZOE さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は生態学がご専門の寺島一郎先生に伺い以下のようなご説明をいただきました。
硬木、軟木というと、硬木は物理的に「硬い木」であり、軟木は「柔らかい木」と思いがちですが、硬木とは、単子葉植物以外の被子植物(広葉樹)の材を、軟木とは針葉樹の材を指して言います。硬木はふつう落葉樹ですが、熱帯地域では常緑の場合もあります。ですから、硬木にはとても柔らかい(軽い)木もありますし、軟木でも硬木より硬い木もあります。これらのことを前提として寺島先生の回答をお読みください。
【寺島先生のお答え】
TAZOEさま
木材の強さや硬さの測定法にはいろいろとありますが、たとえば、日本工業企画(JIS)で定められている硬さ試験では、直径10 mmの鋼球を材に0.5 mm/minの速度で圧入し、表面から0.32 mm圧入した時の力をもって硬さとします。一定の速度で先端が球状の鉄の棒を押し込む測定器を用います。もちろん、圧入の場所、たとえば、心材か辺材か、切り口の方向(板目、柾目、木口か)などによってもデータは異なります。
こうして求めた硬さは、材の比重と大変よい相関があります。この関係に、針葉樹と広葉樹との間にはほとんど差を認めることはできません。では比重の差はどのようにして生じるのでしょうか、乾燥した材の真比重(空気および水分を除いた木材実質の比重)の差は樹種によってほとんどなく、1.50 だそうです。木材実質の主体である細胞壁主要成分のセルロース、ヘミセルロース、リグニンの比重はそれぞれ、1.55〜1.59、1.50、1.30〜1.40で、その混合比は樹種によってあまり変化しません。ということは、材の比重(乾燥した材の体積あたりの重さ)は、材の細胞の大きさや細胞壁の厚さなどによって決まり、これが硬さも決めます。
木材の比重は、バルサの0.1から、鉄木(リグナムバイタ、学名は Guaiacum officinale) の1.35程度まであります。これらはどちらも広葉樹です。広葉樹の材の比重は0.1 〜1.35まで幅広い違いがあるのに対して、針葉樹の材の比重は0.3〜0.6程度の範囲におさまるようです。
高橋徹・中山義男 木材科学講座 3 物理 (海青社)
日本の広葉樹では、キリ(0.30)などが軽いものの代表、木刀にするビワ(0.9)、詰んだ材をつくる極相種であるカシ類(0.8〜0.95)、くしや印鑑などをつくるツゲ(0.75)などが重いものの代表です。針葉樹ではスギ(0.34)やヒノキ(0.41)が軽く、高級材であるイチイ(0.54)、碁盤をつくるカヤ(0.51)が重いものの代表でしょう。外国のものでは、高級家具につかう黒檀や紫檀が重い広葉樹の代表です。
源正木管工作所 http://www1.odn.ne.jp/~cak22970/
こうしてデータを眺めてみると、針葉樹は総じてやや軽く軟らかいようですが、広葉樹の重さや硬さは実に多様です。広葉樹の中にはパルプに適したものも沢山あり、日本がパルプ用のチップとして輸入しているのは、針葉樹よりも広葉樹の方が5倍も多いようです。日本の製紙会社もオーストラリアやブラジルに林を持っていて、ユーカリの数種類などを植栽していて、チップにして日本に送っています。もっとも、日本製紙協会のHPには、パルプ材には、「他には使いみちの少ない木材」を使うと、身もふたもないことが書いてありますが・・・。
日本製紙連合会 http://www.jpa.gr.jp
さて、ご質問への回答です。
> 質問1:熱帯林の樹種は、硬木でありパルプには適さないということですが、なぜ熱帯地域の木は硬木になるのでしょうか。
> 質問2:冷帯林の樹種は、軟木でありパルプ材としての利用が多いということですが、なぜ冷帯地域の樹種は軟木になるのでしょうか。
残念ながら、こうすっぱりと整理は出来ません。
熱帯林は主に広葉樹から成立しています。もちろん重い木も多いですが、たとえば軽い木の代表バルサもアマゾンから南メキシコに分布していますので、熱帯の樹木です。森林のギャップや、明るい場所に生える、成長の早い樹木の材が軽い傾向があります。長生きもしないので、安普請にできています。逆に、ゆっくりと成長するものには、重い丈夫が材を持つものが多いし、これらは病虫害にも強いはずです。日本の照葉樹林帯でも、同じことが言えます。先駆植物は成長は早いですが、軽い材を持っています。寿命も短い。一方、カシ類などの極相種はゆっくり成長し、重くて硬い材を持ち、長生きます。
冷温帯の針葉樹は軟らかいものも多いですが、たとえば厳しい環境でゆっくり育つスギは、好適な環境で早く成長したスギに比べて、年輪の詰まった重い材をもっています(屋久杉の年輪の詰まったものなど)。高山や冷温帯の極に近い地域など、寒さの厳しい場所で育つ針葉樹にも、年輪が詰まって重いものがあります。
寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問は生態学がご専門の寺島一郎先生に伺い以下のようなご説明をいただきました。
硬木、軟木というと、硬木は物理的に「硬い木」であり、軟木は「柔らかい木」と思いがちですが、硬木とは、単子葉植物以外の被子植物(広葉樹)の材を、軟木とは針葉樹の材を指して言います。硬木はふつう落葉樹ですが、熱帯地域では常緑の場合もあります。ですから、硬木にはとても柔らかい(軽い)木もありますし、軟木でも硬木より硬い木もあります。これらのことを前提として寺島先生の回答をお読みください。
【寺島先生のお答え】
TAZOEさま
木材の強さや硬さの測定法にはいろいろとありますが、たとえば、日本工業企画(JIS)で定められている硬さ試験では、直径10 mmの鋼球を材に0.5 mm/minの速度で圧入し、表面から0.32 mm圧入した時の力をもって硬さとします。一定の速度で先端が球状の鉄の棒を押し込む測定器を用います。もちろん、圧入の場所、たとえば、心材か辺材か、切り口の方向(板目、柾目、木口か)などによってもデータは異なります。
こうして求めた硬さは、材の比重と大変よい相関があります。この関係に、針葉樹と広葉樹との間にはほとんど差を認めることはできません。では比重の差はどのようにして生じるのでしょうか、乾燥した材の真比重(空気および水分を除いた木材実質の比重)の差は樹種によってほとんどなく、1.50 だそうです。木材実質の主体である細胞壁主要成分のセルロース、ヘミセルロース、リグニンの比重はそれぞれ、1.55〜1.59、1.50、1.30〜1.40で、その混合比は樹種によってあまり変化しません。ということは、材の比重(乾燥した材の体積あたりの重さ)は、材の細胞の大きさや細胞壁の厚さなどによって決まり、これが硬さも決めます。
木材の比重は、バルサの0.1から、鉄木(リグナムバイタ、学名は Guaiacum officinale) の1.35程度まであります。これらはどちらも広葉樹です。広葉樹の材の比重は0.1 〜1.35まで幅広い違いがあるのに対して、針葉樹の材の比重は0.3〜0.6程度の範囲におさまるようです。
高橋徹・中山義男 木材科学講座 3 物理 (海青社)
日本の広葉樹では、キリ(0.30)などが軽いものの代表、木刀にするビワ(0.9)、詰んだ材をつくる極相種であるカシ類(0.8〜0.95)、くしや印鑑などをつくるツゲ(0.75)などが重いものの代表です。針葉樹ではスギ(0.34)やヒノキ(0.41)が軽く、高級材であるイチイ(0.54)、碁盤をつくるカヤ(0.51)が重いものの代表でしょう。外国のものでは、高級家具につかう黒檀や紫檀が重い広葉樹の代表です。
源正木管工作所 http://www1.odn.ne.jp/~cak22970/
こうしてデータを眺めてみると、針葉樹は総じてやや軽く軟らかいようですが、広葉樹の重さや硬さは実に多様です。広葉樹の中にはパルプに適したものも沢山あり、日本がパルプ用のチップとして輸入しているのは、針葉樹よりも広葉樹の方が5倍も多いようです。日本の製紙会社もオーストラリアやブラジルに林を持っていて、ユーカリの数種類などを植栽していて、チップにして日本に送っています。もっとも、日本製紙協会のHPには、パルプ材には、「他には使いみちの少ない木材」を使うと、身もふたもないことが書いてありますが・・・。
日本製紙連合会 http://www.jpa.gr.jp
さて、ご質問への回答です。
> 質問1:熱帯林の樹種は、硬木でありパルプには適さないということですが、なぜ熱帯地域の木は硬木になるのでしょうか。
> 質問2:冷帯林の樹種は、軟木でありパルプ材としての利用が多いということですが、なぜ冷帯地域の樹種は軟木になるのでしょうか。
残念ながら、こうすっぱりと整理は出来ません。
熱帯林は主に広葉樹から成立しています。もちろん重い木も多いですが、たとえば軽い木の代表バルサもアマゾンから南メキシコに分布していますので、熱帯の樹木です。森林のギャップや、明るい場所に生える、成長の早い樹木の材が軽い傾向があります。長生きもしないので、安普請にできています。逆に、ゆっくりと成長するものには、重い丈夫が材を持つものが多いし、これらは病虫害にも強いはずです。日本の照葉樹林帯でも、同じことが言えます。先駆植物は成長は早いですが、軽い材を持っています。寿命も短い。一方、カシ類などの極相種はゆっくり成長し、重くて硬い材を持ち、長生きます。
冷温帯の針葉樹は軟らかいものも多いですが、たとえば厳しい環境でゆっくり育つスギは、好適な環境で早く成長したスギに比べて、年輪の詰まった重い材をもっています(屋久杉の年輪の詰まったものなど)。高山や冷温帯の極に近い地域など、寒さの厳しい場所で育つ針葉樹にも、年輪が詰まって重いものがあります。
寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-05-23
今関 英雅
回答日:2011-05-23