一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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カルスの脱分化について

質問者:   高校生   ぴーたーぱん
登録番号2435   登録日:2011-05-14
先日、カサノリについて、質問させて頂いた者です。詳しい説明を本当にありがとうございました。度々申し訳ありませんが、今回は、脱分化について、お願いいたします。

授業で習って、疑問に思ったのですが、タバコやニンジンなどの組織培養において、脱分化はどのようなメカニズムで起きているのですか。
ぴーたーぱんさん、

脱分化についてのご質問ありがとうございます。まず、生物の成長過程を考えてみましょう。動物でも、植物でも、受精卵は個体を作り出しますので、全能性(totipotency)があると言います。動物の場合、受精後しばらくして、胚盤胞の内部細胞塊もどんな細胞にもなることができます。これを取り出して培養したものがES細胞を言い、やはりどんな細胞になる能力もありますが、それだけで個体にはなりませんので、pluripotencyがあると言います。これらの細胞は未分化です。発生が進むと、組織幹細胞が作られ、未分化ではあっても運命が限られています。これらの細胞から分化した細胞が作られますが、動物の場合、いったん分化するとよほどのことをしない限り脱分化することはありません。よほどのことは、というのは、一次的にいくつかの遺伝子を強制発現させ、未分化な、いわゆるiPS細胞を作るというようなことです。植物の場合も、未分化な細胞から、組織幹細胞のような細胞、そして分化した細胞が作られますが、これらの細胞の状態は、細胞をとりまく環境を変えるとすぐに変ります。特に、植物の組織片に植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンを与えると、簡単に脱分化して細胞増殖が起こることが多いです。また、脱分化した植物の細胞は植物体を再生することができますので、全能性があると言います。このように、動物と植物の細胞の状態の頑固さは違っています。さて、それぞれの細胞の状態(未分化な細胞、運命は限られているが未分化な細胞、分化した細胞)は、いくつかの遺伝子の相互作用ネットワークにより安定化されていると考えられます。ここで、遺伝子の相互作用を説明しましょう。転写因子という種類のタンパク質があります。これは、いくつかの特定の遺伝子の発現(転写活性)を制御するものです。転写因子により、制御する遺伝子(ターゲット)が違っています。ここで制御される遺伝子には、やはり転写因子をコードするものもあれば、細胞の構造を作るタンパク質をコードする遺伝子、酵素をコードする遺伝子など、様々なものがあります。転写因子は別の遺伝子を制御しますので、転写因子をコードする遺伝子の制御ネットワークが出来上がります。また、これ以外に、DNAそのものをメチル化することによる制御もあります。これらにより、あるセットの遺伝子が発現すると、そのセットにより細胞のタイプが決められるのです。脱分化の際には、遺伝子制御ネットワークが変化して、脱分化状態になると考えられます。ただ、まだ良く解っていない分野であり、今後解明されなくてはいけない、重要な問題だと思います。
JSPP広報委員長、大阪大学大学院理学研究科
柿本 辰男
回答日:2011-05-23
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