質問者:
その他
泉
登録番号0244
登録日:2005-05-07
突然の奇妙な(?)質問お許しください。みんなのひろば
野草類に付着する菌について
乾燥した雑草(種類がよく分からないのですが)を水につけておくだけで水素が発生するという研究結果をどこかで見て、水素生産菌(光合成細菌?)によるものらしいのですが、雑草には水素を発生するような菌が付着しているものなのですか?もしくは雑草そのものが水素を発生するようなことがあるのでしょうか?
場違いな質問でしたら消去して頂いて結構ですが、もし何かご存知のことがあればお教え願いたく、よろしくお願い致します。
泉さん
お待たせしました。枯草を水につけただけで水素を発生することはあり得ることのようです。ある種の微生物が水素を発生するからです。燃料電池の究極の燃料として水素の製造が大きな話題になっていますので水素を発生する微生物を利用できたら素晴らしい技術になることが期待できますね。
この問題を専門に研究されている早稲田大学の桜井英博先生から以下のような説明を頂きました。少しばかり、難しい点があるかと思いますが、生物学の教科書で「無酸素呼吸」あるいは「解糖系」の項目は理解の参考になると思います。
参考までに、生物の「酸化反応」はほとんど「水素の引き抜き反応」ですので、ある物質が酸化されると引き抜かれた水素は電子と水素イオンに分離され特別な物質に渡されて、「還元力」と言う形になります。
水素を発生する細菌には、クロストリジウム(Clostridium)、大腸菌などがあります。このうちClostridium(グラム陽性細菌で枯草菌=納豆菌の仲間)は栄養不足や温度環境などが生育に具合が悪い状態になると芽胞(spore)を作って、いわば休眠状態になります。芽胞は大変丈夫で長生きします。クロストリジウムの芽胞が枯草に付着している可能性は十分考えられますので、そのような枯草を水に入れたとき芽胞が発芽し元気な細菌となって水素を発生する可能性はあります。
さて、どんな仕組みで水素が発生するでしょうか。細菌も呼吸をしますが、呼吸とは糖質(ブドウ糖など)を酸化して最後には二酸化炭素にすると同時に、放出されたエネルギーをATPというエネルギーの缶詰のような物質に変える働きです。この反応系は2段階に分かれていて、糖質は、解糖作用によりピルビン酸(CH3COCOOH)に酸化され、少量のATPと還元力(電子と水素イオン)が生成されます。この反応自体は酸素を必要としません。酸素があると(好気的条件)ピルビン酸は引き続いてクエン酸回路という連続した酸化反応で二酸化炭素に分解され、その過程で放出されるエネルギーは大量のATPに蓄えられ、還元力は酸素を水に変えます。
酸素のない条件下では、ピルビン酸は乳酸(乳酸菌など)またはエタノール(酵母など)に還元されることで酸化還元のバランスを保ちます。いわゆる乳酸発酵、アルコール発酵です。ところが一部の細菌では、ピルビン酸は嫌気的条件下で更に酸化されて酢酸と還元力を作ります。このときATPを生成しますが、ここで生じた還元力の本体、電子と水素イオンはヒドロゲナーゼという特殊な酵素で結合され水素となって酸化還元のバランスを保ちます。
枯草からの水素生産はこの反応に基づくと考えられますが、水素生産酵素系の反応は遅いので、産業的に水素生産に利用される可能性は低いと考えられます。したがって私の評価では、枯草からの水素発生は起こるかもしれませんが、反応の速さや資源量から考えて、化石燃料代替エネルギーにはなりにくいと思います。
なお、現在の地球のような好気的環境では酸素呼吸が有利なので、水素発生は他の生物によって酸素が消費されたのちの嫌気的環境下でおこると考えらます。
農林水産省はバイオマス・ニッポン計画を推進しています。
http://www.maff.go.jp/biomass/index.htm
バイオマスの資源量は限られているので、私はラン色細菌の光合成を利用した光生物学的水素生産を提案しています。
http://www.f.waseda.jp/sakurai/
再生可能エネルギーの創成は地球環境保全にとって重要な課題ですが、ある反応系が実用化できるかどうかは生化学的面だけでなく経済性の面からも評価しなければなりません。
櫻井英博 (早稲田大学教育・総合科学学術院教授、教育学部生物学教室)
お待たせしました。枯草を水につけただけで水素を発生することはあり得ることのようです。ある種の微生物が水素を発生するからです。燃料電池の究極の燃料として水素の製造が大きな話題になっていますので水素を発生する微生物を利用できたら素晴らしい技術になることが期待できますね。
この問題を専門に研究されている早稲田大学の桜井英博先生から以下のような説明を頂きました。少しばかり、難しい点があるかと思いますが、生物学の教科書で「無酸素呼吸」あるいは「解糖系」の項目は理解の参考になると思います。
参考までに、生物の「酸化反応」はほとんど「水素の引き抜き反応」ですので、ある物質が酸化されると引き抜かれた水素は電子と水素イオンに分離され特別な物質に渡されて、「還元力」と言う形になります。
水素を発生する細菌には、クロストリジウム(Clostridium)、大腸菌などがあります。このうちClostridium(グラム陽性細菌で枯草菌=納豆菌の仲間)は栄養不足や温度環境などが生育に具合が悪い状態になると芽胞(spore)を作って、いわば休眠状態になります。芽胞は大変丈夫で長生きします。クロストリジウムの芽胞が枯草に付着している可能性は十分考えられますので、そのような枯草を水に入れたとき芽胞が発芽し元気な細菌となって水素を発生する可能性はあります。
さて、どんな仕組みで水素が発生するでしょうか。細菌も呼吸をしますが、呼吸とは糖質(ブドウ糖など)を酸化して最後には二酸化炭素にすると同時に、放出されたエネルギーをATPというエネルギーの缶詰のような物質に変える働きです。この反応系は2段階に分かれていて、糖質は、解糖作用によりピルビン酸(CH3COCOOH)に酸化され、少量のATPと還元力(電子と水素イオン)が生成されます。この反応自体は酸素を必要としません。酸素があると(好気的条件)ピルビン酸は引き続いてクエン酸回路という連続した酸化反応で二酸化炭素に分解され、その過程で放出されるエネルギーは大量のATPに蓄えられ、還元力は酸素を水に変えます。
酸素のない条件下では、ピルビン酸は乳酸(乳酸菌など)またはエタノール(酵母など)に還元されることで酸化還元のバランスを保ちます。いわゆる乳酸発酵、アルコール発酵です。ところが一部の細菌では、ピルビン酸は嫌気的条件下で更に酸化されて酢酸と還元力を作ります。このときATPを生成しますが、ここで生じた還元力の本体、電子と水素イオンはヒドロゲナーゼという特殊な酵素で結合され水素となって酸化還元のバランスを保ちます。
枯草からの水素生産はこの反応に基づくと考えられますが、水素生産酵素系の反応は遅いので、産業的に水素生産に利用される可能性は低いと考えられます。したがって私の評価では、枯草からの水素発生は起こるかもしれませんが、反応の速さや資源量から考えて、化石燃料代替エネルギーにはなりにくいと思います。
なお、現在の地球のような好気的環境では酸素呼吸が有利なので、水素発生は他の生物によって酸素が消費されたのちの嫌気的環境下でおこると考えらます。
農林水産省はバイオマス・ニッポン計画を推進しています。
http://www.maff.go.jp/biomass/index.htm
バイオマスの資源量は限られているので、私はラン色細菌の光合成を利用した光生物学的水素生産を提案しています。
http://www.f.waseda.jp/sakurai/
再生可能エネルギーの創成は地球環境保全にとって重要な課題ですが、ある反応系が実用化できるかどうかは生化学的面だけでなく経済性の面からも評価しなければなりません。
櫻井英博 (早稲田大学教育・総合科学学術院教授、教育学部生物学教室)
サイエンスアドバイサー
今関 英雅
回答日:2009-07-03
今関 英雅
回答日:2009-07-03