質問者:
一般
yoz
登録番号2445
登録日:2011-05-25
宮崎に住んでいます。青島神社という神社が海に囲まれた島にあります。土もそれほどなさそうなのですが、ビロウなど亜熱帯の植物が群生しています。みんなのひろば
ビロウ樹の水分補給?
塩水に取り囲まれた環境で、どうやって水分を吸収しているのかとても不思議に思っています。
降ってくる雨だけで生きているのでしょうか?それとも海水を何らかの形で吸収するのでしょうか?→まったくの素人なのでへんな質問かもしれません。よろしくお願いします。
yoz 様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。宮崎の青島は昔一度だけ訪れたことがあります。ビロウの群生は有名ですね。お土産にビロウの樹で作った箸を買って帰った記憶があります。さて、塩水に曝された環境で、なぜビロウはまともに水を吸っていけるのだろうかと言う疑問は、様々な環境での植物の生き方の一つに気づかれたということです。お気づきのように、植物にとって水の供給はきわめて大切なことです。
まず、一般的なことから説明いたします。水は通常は根から吸い上げられ、植物の体内で様々なことに利用される他は、主として葉の表皮にある気孔から空気中へ排出されます(蒸散)。植物体内で水は光合成の材料となるほか、細胞内の各種の生化学反応で使われますが、一番多く使われるのは、細胞の中の液胞に貯められて一つ一つの細胞がしぼんでしまわないように、水の力で張りつめた状態を保つことにあります。専門用語で言えば、細胞の膨圧を維持するためです(質問コーナー回答登録番号0246を読んで下さい。)。草本性の植物では膨圧の維持は特にとても大事で、水不足になるとすぐにしおれてしまいますね。根からは水の吸収とともに様々なイオンが吸収されます。これらのイオンは植物体内に留まり、やはり、様々な目的に利用されます。しかし、植物にとって望ましくないイオンもあります。これらはいわば毒性があると言ってよいでしょう。ナトリウウムイオン(Naイオン)もその一つです(登録番号0704を読んで下さい。)。
勿論少量は問題ありませんが大量に吸収されると。身体の中の他のイオンとのバランスの異常など、生理的な不都合が生じます。また、根の周囲の土壌等で塩類の濃度が高すぎると、根からの吸水自体が抑えられることにもなります。根の細胞が吸水する主な仕方は細胞内外の浸透圧の差にあります。根の外の塩類の濃度が高いということは細胞の外の浸透圧が高いということ同じですので、細胞の浸透圧とのの差が小さければ、吸水は少なくなりますし、外の方が高ければ、逆に水は外へ出て行く(細胞は水を失なう。)ということになります。細胞の吸水については登録番号0246を見て下さい。
植物は塩類に対する適応性の面から、塩類に弱い非塩性植物と、塩類に強い塩性植物とに分けられます。ほとんどの農作植物は前者なので、塩害に強い栽培植物を作ることや、塩害を少なくする方法が農業上の一つの大きな課題になっています。この度の大津波によって農地が海水で覆われ、土壌に過剰の塩分が残されてしまった所が多くあり、どうして正常に戻すかが問題となっています。塩性植物は塩水にさらされても平気な植物で、非常に多くの種類があります。海浜に生えている植物は全部そうです。ヤシは大体どこでも海岸近くに生えていますが、ビロウもヤシ科の植物ですから、塩類に対する性質は同じだと思ってください。塩性植物の中には北海道にみられるアッケシソウのように一生を通して海水の中に浸かって育っているものもあります。塩性植物は、植物の種類によっていろいろな耐塩機構を備えていますが、生理的あるいは構造的に複雑なにからみあっていて、まだ明らかにされていないことも多いのです。
前置きが長くなりましたが、では、塩水に曝されているビロウではどうなっているのでしょうか。残念ながらビロウ自体についての耐塩性の機構に関する研究は見つかりませんでしたが、現在知られている塩性植物の耐塩性機構について述べておくことにします。根の細胞の細胞膜上で、ナトリウムイオンは吸収しないで、必要なカリウムイオンだけを選択的に吸収が出来るな仕組みがある場合があります。マングローブの仲間のグレイ・マングローブ(ヒルギダマシ)という植物では、根の細胞に根の周りのNaClの90%を除外できる一種の膜濾過システムがあります。しかし、このようなシステムはユニークなものであって一般的ではないようです。根や葉に塩(塩類)腺とよばれる特殊な小器官があってそこへ過剰な塩分を蓄積して、排除することができるのもあります。塩腺は動物で良く知られています。また、旧い葉、葉柄、茎などに蓄積させて、器官脱離させて除くという場合もみられます。体外の高い塩濃度に対抗するよう、細胞内に糖、ある種のアミノ酸や有機酸などの濃度を高めて、細胞の浸透圧を高く保つ場合もあります。給水量の低下を対応して、植物体からの水分の蒸発を抑えるよう葉の気孔の数を少なくしているものや、葉の細胞(葉肉細胞)の中を水が通って気孔へ流れるのに、流れに対する抵抗を高めている場合があります。葉からの蒸散は気孔からだけでなく、量は少ないですが、葉の表面から普通の水分蒸発のように水が失われます。それを防ぐために、葉の表面にはクチチクラ層が発達している場合が多いです。トベラと言う灌木植物がありますが、これは海浜にも内陸にも育ちます。海浜のものは葉が固く表面はつやがあります。これはクチクラ層が出来ているためです。実際にビロウがどのタイプの機構を持っているのかは分かりませんが、上記と同じ様な機構が働いているものと推定いたします。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。宮崎の青島は昔一度だけ訪れたことがあります。ビロウの群生は有名ですね。お土産にビロウの樹で作った箸を買って帰った記憶があります。さて、塩水に曝された環境で、なぜビロウはまともに水を吸っていけるのだろうかと言う疑問は、様々な環境での植物の生き方の一つに気づかれたということです。お気づきのように、植物にとって水の供給はきわめて大切なことです。
まず、一般的なことから説明いたします。水は通常は根から吸い上げられ、植物の体内で様々なことに利用される他は、主として葉の表皮にある気孔から空気中へ排出されます(蒸散)。植物体内で水は光合成の材料となるほか、細胞内の各種の生化学反応で使われますが、一番多く使われるのは、細胞の中の液胞に貯められて一つ一つの細胞がしぼんでしまわないように、水の力で張りつめた状態を保つことにあります。専門用語で言えば、細胞の膨圧を維持するためです(質問コーナー回答登録番号0246を読んで下さい。)。草本性の植物では膨圧の維持は特にとても大事で、水不足になるとすぐにしおれてしまいますね。根からは水の吸収とともに様々なイオンが吸収されます。これらのイオンは植物体内に留まり、やはり、様々な目的に利用されます。しかし、植物にとって望ましくないイオンもあります。これらはいわば毒性があると言ってよいでしょう。ナトリウウムイオン(Naイオン)もその一つです(登録番号0704を読んで下さい。)。
勿論少量は問題ありませんが大量に吸収されると。身体の中の他のイオンとのバランスの異常など、生理的な不都合が生じます。また、根の周囲の土壌等で塩類の濃度が高すぎると、根からの吸水自体が抑えられることにもなります。根の細胞が吸水する主な仕方は細胞内外の浸透圧の差にあります。根の外の塩類の濃度が高いということは細胞の外の浸透圧が高いということ同じですので、細胞の浸透圧とのの差が小さければ、吸水は少なくなりますし、外の方が高ければ、逆に水は外へ出て行く(細胞は水を失なう。)ということになります。細胞の吸水については登録番号0246を見て下さい。
植物は塩類に対する適応性の面から、塩類に弱い非塩性植物と、塩類に強い塩性植物とに分けられます。ほとんどの農作植物は前者なので、塩害に強い栽培植物を作ることや、塩害を少なくする方法が農業上の一つの大きな課題になっています。この度の大津波によって農地が海水で覆われ、土壌に過剰の塩分が残されてしまった所が多くあり、どうして正常に戻すかが問題となっています。塩性植物は塩水にさらされても平気な植物で、非常に多くの種類があります。海浜に生えている植物は全部そうです。ヤシは大体どこでも海岸近くに生えていますが、ビロウもヤシ科の植物ですから、塩類に対する性質は同じだと思ってください。塩性植物の中には北海道にみられるアッケシソウのように一生を通して海水の中に浸かって育っているものもあります。塩性植物は、植物の種類によっていろいろな耐塩機構を備えていますが、生理的あるいは構造的に複雑なにからみあっていて、まだ明らかにされていないことも多いのです。
前置きが長くなりましたが、では、塩水に曝されているビロウではどうなっているのでしょうか。残念ながらビロウ自体についての耐塩性の機構に関する研究は見つかりませんでしたが、現在知られている塩性植物の耐塩性機構について述べておくことにします。根の細胞の細胞膜上で、ナトリウムイオンは吸収しないで、必要なカリウムイオンだけを選択的に吸収が出来るな仕組みがある場合があります。マングローブの仲間のグレイ・マングローブ(ヒルギダマシ)という植物では、根の細胞に根の周りのNaClの90%を除外できる一種の膜濾過システムがあります。しかし、このようなシステムはユニークなものであって一般的ではないようです。根や葉に塩(塩類)腺とよばれる特殊な小器官があってそこへ過剰な塩分を蓄積して、排除することができるのもあります。塩腺は動物で良く知られています。また、旧い葉、葉柄、茎などに蓄積させて、器官脱離させて除くという場合もみられます。体外の高い塩濃度に対抗するよう、細胞内に糖、ある種のアミノ酸や有機酸などの濃度を高めて、細胞の浸透圧を高く保つ場合もあります。給水量の低下を対応して、植物体からの水分の蒸発を抑えるよう葉の気孔の数を少なくしているものや、葉の細胞(葉肉細胞)の中を水が通って気孔へ流れるのに、流れに対する抵抗を高めている場合があります。葉からの蒸散は気孔からだけでなく、量は少ないですが、葉の表面から普通の水分蒸発のように水が失われます。それを防ぐために、葉の表面にはクチチクラ層が発達している場合が多いです。トベラと言う灌木植物がありますが、これは海浜にも内陸にも育ちます。海浜のものは葉が固く表面はつやがあります。これはクチクラ層が出来ているためです。実際にビロウがどのタイプの機構を持っているのかは分かりませんが、上記と同じ様な機構が働いているものと推定いたします。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見允行
回答日:2011-05-31
勝見允行
回答日:2011-05-31