質問者:
教員
光周性
登録番号2453
登録日:2011-05-31
高校で生物Ⅰを担当しています。短日植物の限界暗期
「第6編 環境と植物の反応」の「光周性」の教材研究をしている中で、わからないことが出てきました。いろいろ調べているのですが答えが見つからず、探していたところ、ここにたどりつくことができました。
以下の件、ご教授願えないでしょうか?よろしくお願いいたします。
教科書や資料集をはじめ、いろいろな文献では、
短日植物であるアサガオの限界暗期は8〜9時間、オナモミの限界暗期は9時間
となっています。なのでアサガオもオナモミも9時間以上の暗期でしか花芽形成できないこととなります。
実際の自分たちの町の日長と関連させて授業したいと思い、あらためて暦を調べてみると、私の町は夏至の日の出は4:41 日の入りは19:11 夜の時間は9時間30分でした。
「一年間で一番夜の短い夏至の日の夜の時間が、短日植物であるアサガオやオナモミの限界暗期を超えている。」ことになります。
アサガオやオナモミは、一年中花芽形成できるということでしょうか?
《関連》
2008年の名古屋大学入試 問題1 問4
「愛知県内の野外でアサガオの種子を、4月1日からおよそ20日おきにまいたところ、どの時期にまいても8月上旬頃に花芽を形成し開花にいたった。この観察結果はどのような理由によって生じたか75字以内で述べよ。」
解答例 (いろいろなところから発表されていますが、おおむね以下の内容)
「短日植物であるアサガオは、花芽形成にある一定時間以上の連続した暗期を必要とするため、夏至を過ぎて自然日長が条件に合う頃まで花芽を形成できなかったから。」
名古屋の夏至の夜の時間もおよそ9時間30分なので、夏至を過ぎなくても一年中自然日長が条件にあってしまうように思います。
よろしくお願いいたします。
光周性 さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがとても難しいご質問です。そこで生物時計、光周性を専門とされている名古屋大学の近藤孝男先生に伺いましたら、そのお答えも難しく私自身も十分理解できませんでした。近藤先生に何度か質問を繰り返した結果、近藤先生から次のような説明をいただきました。近藤先生は「とてもよい質問だ」と言われております。さらなるご質問があればご遠慮なくコーナーへお寄せください。
なお概日時計がどんなものかについて専門書以外には
田沢 仁:マメから生まれた生物時計 エルヴィン・ビュニングの物語 学会出版センター
滝本 敦:花を咲かせるものは何か 中央公論(新書)
が参考になると思います。
【近藤先生の説明】
名古屋でアサガオが8月にならないと咲かない理由として以下の2点があります。
1 アサガオにとっての夜は日没と日の出の時間差より短いと思われること。
実際にアサガオが夜(暗)と認識するのは,日没よりかなり後から日の出よりかなり前まで、と思われます。(つまりかなり暗くならないと夜と認識しない)
でも,そもそもどのようにして日長を計るのでしょうか?
2 大切なことは、日長測定は砂時計式の方式ではなく,概日時計により内外の位相の比較により行われることです。この方式は古くから生理学的観察により、(最近の分子生物学的解析でも)指摘されていることです。
具体的に説明します。まず、昼夜サイクルは概日時計を同調しますが、その位相は日長で変化します(位相というのは時計の時刻のようなもので、ここでは、例えば、外部の夜明けが体内の概日時計を何時にセットするかという問題です)。明暗サイクルは、何回か繰り返すことで、時計を同調させるが,その位相は日長によりかわります。例えば長日条件だと夜明けが午前4時に、短日だと午前7時になる。
次に、こうして同調した時計を使った日長の判断は、特定の位相(誘導相)での外部の明暗できまると、考えられています。例えば,これが、概日時計の特定の位相(例えば午後5時)の外部の明暗で決定される場合は、午後5時に暗ければ短日、明るければ長日となる。前者は測定できますが、後者の実体はまだ不明です。さらに比較する仕組みも不明ですが、この方式(外的一致モデル)が多くの観察を説明可能です。繰り返しますが、昼夜サイクルは時計を同調することと、日長判定をすることと,2つの意味を持つことになります。
なお、この方式では夜または昼の長さで決まる訳ではないので、限界日長という概念は不要となります。代わりに重要なのはどの時刻が判断基準になるかという誘導相の問題ですが、これはまだ明確になっていません。アサガオでは8月までは体内時計が誘導相のときに外部が明るかったのが、日長が短くなり、誘導相が暗くなってきたと考えられます。このとき、日長の変化は概日時計の同調と誘導相での判定の両方に影響をあたえていることにもう一度注意して下さい。
近藤 孝男(名古屋大学大学院理学研究科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがとても難しいご質問です。そこで生物時計、光周性を専門とされている名古屋大学の近藤孝男先生に伺いましたら、そのお答えも難しく私自身も十分理解できませんでした。近藤先生に何度か質問を繰り返した結果、近藤先生から次のような説明をいただきました。近藤先生は「とてもよい質問だ」と言われております。さらなるご質問があればご遠慮なくコーナーへお寄せください。
なお概日時計がどんなものかについて専門書以外には
田沢 仁:マメから生まれた生物時計 エルヴィン・ビュニングの物語 学会出版センター
滝本 敦:花を咲かせるものは何か 中央公論(新書)
が参考になると思います。
【近藤先生の説明】
名古屋でアサガオが8月にならないと咲かない理由として以下の2点があります。
1 アサガオにとっての夜は日没と日の出の時間差より短いと思われること。
実際にアサガオが夜(暗)と認識するのは,日没よりかなり後から日の出よりかなり前まで、と思われます。(つまりかなり暗くならないと夜と認識しない)
でも,そもそもどのようにして日長を計るのでしょうか?
2 大切なことは、日長測定は砂時計式の方式ではなく,概日時計により内外の位相の比較により行われることです。この方式は古くから生理学的観察により、(最近の分子生物学的解析でも)指摘されていることです。
具体的に説明します。まず、昼夜サイクルは概日時計を同調しますが、その位相は日長で変化します(位相というのは時計の時刻のようなもので、ここでは、例えば、外部の夜明けが体内の概日時計を何時にセットするかという問題です)。明暗サイクルは、何回か繰り返すことで、時計を同調させるが,その位相は日長によりかわります。例えば長日条件だと夜明けが午前4時に、短日だと午前7時になる。
次に、こうして同調した時計を使った日長の判断は、特定の位相(誘導相)での外部の明暗できまると、考えられています。例えば,これが、概日時計の特定の位相(例えば午後5時)の外部の明暗で決定される場合は、午後5時に暗ければ短日、明るければ長日となる。前者は測定できますが、後者の実体はまだ不明です。さらに比較する仕組みも不明ですが、この方式(外的一致モデル)が多くの観察を説明可能です。繰り返しますが、昼夜サイクルは時計を同調することと、日長判定をすることと,2つの意味を持つことになります。
なお、この方式では夜または昼の長さで決まる訳ではないので、限界日長という概念は不要となります。代わりに重要なのはどの時刻が判断基準になるかという誘導相の問題ですが、これはまだ明確になっていません。アサガオでは8月までは体内時計が誘導相のときに外部が明るかったのが、日長が短くなり、誘導相が暗くなってきたと考えられます。このとき、日長の変化は概日時計の同調と誘導相での判定の両方に影響をあたえていることにもう一度注意して下さい。
近藤 孝男(名古屋大学大学院理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-06-07
今関 英雅
回答日:2011-06-07