一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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カリウムの濃度と背細胞成長

質問者:   一般   mebaru
登録番号2454   登録日:2011-06-02
生茶でセシウムが、該当する地域の土壌の値に比べ高い放射性物質が含まれていると報道されています。
他の部位の分析データは、出てませんが「新芽」であるため植物体内から能動的に移動され、新芽集中しているということであると想像しています。セシウムの事例は少ないと思うので、似た挙動をすると言われるカリウムについて、「細胞肥大している部位」は「既に成長しきった細胞」よりカリウムの濃度がかなり高いのでしょうか。そしてそのメカニズムはどのように理解したらよろしいのでしょうか。カリウムで浸透圧を上げて、水分を呼び込み膨らむことで細胞肥大するというのは間違いでしょうか。
Mebaru さん

ご質問を有り難うございます。
植物(作物)による放射性物質集積の実態の解明と、土壌に蓄積した放射性物質の植物を利用した除去技術の開発は、「植物生理学」に関係する学問に課せられている大きな課題であると思っております。ところで、ご質問には植物のカリウム代謝に詳しい神戸大学の三村先生が回答文をご用意下さいましたので、ご参考にして下さい。


(三村先生からの回答)
福島第一原子力発電所の被災による放射性物質の拡散は、広範囲の環境に影響を与えているようです。植物への影響もこれから様々な形で調べられていくことになると思います。これら放射性物質に関する研究は、もちろん多くはありませんが、ヒトへの長期間にわたる影響が想定されるCsとSrについては、放射性物質としてだけでなく、KやCaの類似元素としての影響が調べられています。それらによると、CsはKと同じアルカリ金属ですし、植物体内への取り込みはK輸送体を経ることが報告されていますが、体内での挙動は必ずしもKと同じという訳ではないようです。また、植物の種類によっても、KとCsの動態は異なることが知られていますので、今回のお茶の新芽へのCs集積(本当にそれが生じているかは、まだ確定しているとは思いませんが)があるとしても、その生理的背景を説明できるだけの研究は残念ながらないと思います。

Cs輸送に関する総説などには、乾燥重量当たりで根の方が茎よりも集積が大きいことや、コムギやオオムギで、実への集積は少ないことが記されていますが、これらも植物種や成長条件、肥料の与え方で大きく変わることが知られています。

植物とCs、Srの関係については、北海道大学の渡部博士が、ご自分のホームページに詳しい説明を書かれています( http://www.geocities.jp/watanabe1209/ )。また、(財)環境科学研究所の山上睦博士によるCs輸送の説明が( www.ies.or.jp/japanese/mini/mini100_pdf/2007-07.pdf )に載っています。これらを参考にしていただけると良いかと思います。

なお、Kが十分に与えられている状況で、果実などの肥大組織にKがやや多く含まれるという報告がありますが、それでも乾重量当たり1%程度の差しかありません。Kは植物細胞の浸透圧を決定する最も重要な無機元素ですから、植物細胞の成長過程においてKの取り込みが、細胞成長の維持に重要なことは間違いありませんが、K欠乏環境にでも置かれない限り、植物の部位によって極端にK濃度が異なる状況が出現することは考え難いと思います。

三村 徹郎(神戸大学大学院-理・生物)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2011-06-05
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