質問者:
一般
飯田 洋
登録番号2456
登録日:2011-06-04
度々回答を戴き、皆が本当に喜んでいます。養蜂家として著名な田頭さんたちが育てる巣箱約40個からとれる小金井公園の蜂蜜は素晴らしいものせす。しかし、今年の蜂蜜の収穫は去年の半分以下で始まりました。田頭さんがおっしゃるのは「年によって蜜の多寡が異なるのではないか」ということです。全国的にも「今年は収量が少ない」との声があるようです。蜂蜜値上げの声も聞かれます。ドングリには不作の年があります。これは「何年に1回でもよいから子孫を残すための樹木の作戦だと言われています。果して、蜜にまでこの「子孫を残すためには、去年と同じようにはやらない」と云う、悠久の年月から体得した結果が花の蜜にも込められているのでしょうか。凄いことです。これに関する知見をお教え下さい。
みんなのひろば
はちみつの少ない年がある
飯田 洋様
お待たせいたしました。回答を玉川大学ミツバチ研究センターの小野正人教授にお願いしましたところ、養蜂学の中村純先生にもご相談下さり、以下の様な回答をいただきました。
[回答]
ハチミツの生産量は植物の花蜜分泌量だけで決まるものではなく、養蜂家の技術までを含んだ総合的なものとの理解が必要かと思います。また、ハチミツの原料となる花蜜の分泌量も植物の開花生理に関わる非常に複雑な要因が絡んでいると考える必要があると思います。回答者は、昆虫学を専門としており、植物の開花生理学については、門外漢であるのですが、養蜂学を専門とする中村純教授のご意見も伺いながら、お答え致します。
一般に、ある植物の花蜜の総分泌量は、着花数と個々の花から分泌される花蜜量、そして開花日数で大まかに定義できたとしても、着花数は樹木の場合には大きな年次変動があり、個々の花から分泌される花蜜量や開花日数は、開花期の天候により異なってくると考えられます。着花数については、周期性といわれるほど規則性があるかどうかは別として、果樹では表裏作があることが知られています。開花期については、今年のようにそれが遅れたときには短めになる種と逆に長めになる種があるようです。また、クルミのように性転換を決まったパターンではなく行うものもあるようです。これに、例えば気温が低いと花蜜の分泌が抑制されるというようなこともあるようで、開花生理というものは非常に複雑なようです。
個々の花から分泌される花蜜の量を正確に測定することは困難であるため、ミツバチが花蜜を集めて巣内に蓄えるハチミツの生産量より、その年の花蜜分泌量を逆読みすることが、養蜂家の間で慣例化しているように思われます。しかし、ミツバチによる採餌の成功率にも、天候がかなり大きく影響し、低温や雨天では採蜜量はかなり低下します。例えば、よく管理されたミカンのように、ミカンを栽培する栽培者側の意思によって、着花数がある程度安定している植物の場合、ミツバチは一定の採餌に成功するように思われますが、ここでは集蜜量に開花前から開花中の天候が大きく影響するようです。また、ミツバチは種々の花の中から糖濃度の高い花蜜を分泌する花を選択して訪花しますが、巣内の貯蜜が相対的に少ないと、糖濃度の低い花蜜を分泌する花でも採餌するというようにミツバチ側の巣内の状況も関係してきます。
ことハチミツの生産量に至っては、ミツバチを飼育している養蜂家の飼育技術や養蜂場のある場所の気象要因や、周囲の資源の変化に影響を受けるので、逆に、ミツバチの状態や周囲の環境変化に応じた、臨機応変な技術適用が求められ、それ次第で生産量が変動することも十分に考えられます。
花蜜資源の環境という側面では、都心の街路樹などでは、年度末に枝を切られ、花が咲いたのを見たこともないというようなものもあります。一方、今年のように花が遅れると複数の花期が重なり、ミツバチが利用できる資源量を超え、短期的な供給過剰状態になり、通年で偏った花蜜の分泌により、ミツバチが一年間で利用可能な総量が、結局、減少してしまうという状況になることもあります。
以上のように、ハチミツの生産(花蜜の分泌量)は、非常に多要素で、しかもそれぞれが相互に作用し合っていて、その要因分析をしにくいのが実情です。しかも、植物、ミツバチ双方ともに生物として、必ずしも法則性のない、不確実性の中で遺伝子をつないでいけるような適応を遂げているものですから、花蜜の生産には合目的的性があると思うような合理性は、与えにくいのではないかと思われますが、いかがでしょうか。
小野 正人(玉川大学ミツバチ研究センター)
お待たせいたしました。回答を玉川大学ミツバチ研究センターの小野正人教授にお願いしましたところ、養蜂学の中村純先生にもご相談下さり、以下の様な回答をいただきました。
[回答]
ハチミツの生産量は植物の花蜜分泌量だけで決まるものではなく、養蜂家の技術までを含んだ総合的なものとの理解が必要かと思います。また、ハチミツの原料となる花蜜の分泌量も植物の開花生理に関わる非常に複雑な要因が絡んでいると考える必要があると思います。回答者は、昆虫学を専門としており、植物の開花生理学については、門外漢であるのですが、養蜂学を専門とする中村純教授のご意見も伺いながら、お答え致します。
一般に、ある植物の花蜜の総分泌量は、着花数と個々の花から分泌される花蜜量、そして開花日数で大まかに定義できたとしても、着花数は樹木の場合には大きな年次変動があり、個々の花から分泌される花蜜量や開花日数は、開花期の天候により異なってくると考えられます。着花数については、周期性といわれるほど規則性があるかどうかは別として、果樹では表裏作があることが知られています。開花期については、今年のようにそれが遅れたときには短めになる種と逆に長めになる種があるようです。また、クルミのように性転換を決まったパターンではなく行うものもあるようです。これに、例えば気温が低いと花蜜の分泌が抑制されるというようなこともあるようで、開花生理というものは非常に複雑なようです。
個々の花から分泌される花蜜の量を正確に測定することは困難であるため、ミツバチが花蜜を集めて巣内に蓄えるハチミツの生産量より、その年の花蜜分泌量を逆読みすることが、養蜂家の間で慣例化しているように思われます。しかし、ミツバチによる採餌の成功率にも、天候がかなり大きく影響し、低温や雨天では採蜜量はかなり低下します。例えば、よく管理されたミカンのように、ミカンを栽培する栽培者側の意思によって、着花数がある程度安定している植物の場合、ミツバチは一定の採餌に成功するように思われますが、ここでは集蜜量に開花前から開花中の天候が大きく影響するようです。また、ミツバチは種々の花の中から糖濃度の高い花蜜を分泌する花を選択して訪花しますが、巣内の貯蜜が相対的に少ないと、糖濃度の低い花蜜を分泌する花でも採餌するというようにミツバチ側の巣内の状況も関係してきます。
ことハチミツの生産量に至っては、ミツバチを飼育している養蜂家の飼育技術や養蜂場のある場所の気象要因や、周囲の資源の変化に影響を受けるので、逆に、ミツバチの状態や周囲の環境変化に応じた、臨機応変な技術適用が求められ、それ次第で生産量が変動することも十分に考えられます。
花蜜資源の環境という側面では、都心の街路樹などでは、年度末に枝を切られ、花が咲いたのを見たこともないというようなものもあります。一方、今年のように花が遅れると複数の花期が重なり、ミツバチが利用できる資源量を超え、短期的な供給過剰状態になり、通年で偏った花蜜の分泌により、ミツバチが一年間で利用可能な総量が、結局、減少してしまうという状況になることもあります。
以上のように、ハチミツの生産(花蜜の分泌量)は、非常に多要素で、しかもそれぞれが相互に作用し合っていて、その要因分析をしにくいのが実情です。しかも、植物、ミツバチ双方ともに生物として、必ずしも法則性のない、不確実性の中で遺伝子をつないでいけるような適応を遂げているものですから、花蜜の生産には合目的的性があると思うような合理性は、与えにくいのではないかと思われますが、いかがでしょうか。
小野 正人(玉川大学ミツバチ研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-06-27
勝見 允行
回答日:2011-06-27