植物Q&A

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細胞壁と液胞

質問者:   その他   和俊(かずとし)
登録番号0246   登録日:2005-05-08
本日、息子から一つの質問を受けました。

質問の内容は、「植物には、動物にはない細胞壁と液胞がなぜあるの?」とのことでした。
私自身は、細胞壁は植物の形を維持するため、液胞が浸透圧を調整するためとしかわかりません。

もう少し詳しい説明は、どう答えたらよいでしょうか?
和俊様

質問いただいた表記の件にについて回答いたします。高校1年生ということなので、できるだけ専門的な記述はさけました。

細胞壁の役割
 細胞壁は微生物やカビなどにもありますが、ここでは植物の細胞壁についてのみ説明します。以前は、細胞壁は細胞の死んだ部分で、細胞の形を決める単なる支持構造だとみなされていました。しかし今では、細胞壁はそのような役割だけでなく、細胞の他の部分と同じように生きて、ダイナミックに活動をしており、様々な機能を遂行し、植物の生存に必要な役割を担っていることが明らかにされています。以下にその代表的な役割を説明しましょう。

1 構造的・機械的役割  
 質問の中でもいわれているように、細胞壁の代表的な役割は、細胞の形、大きさを決める事です。細胞が大きくなることを細胞が成長するといいます。細胞成長とは細胞の容積が増加することですから、細胞を囲む細胞壁がどれだけ広がるかによってそのサイズが決まります。細胞壁の広がりが縦軸方向に顕著に起れば、細長い細胞ができます。これは茎が伸長する時の細胞にみられます。また、横軸方向に顕著に広がれば,ずんぐりむっくりの細胞ができます。 「液胞」の説明のところで述べますが、植物の細胞はいつも吸水しようとしていますので、もし細胞壁がないとどんどん吸水が続き、細胞は拡大を続けて、細胞膜は内部からの圧力に耐えきれなくなり破裂してしまいます。細胞壁の存在はそれを防ぎます。  
 植物は動物のように内部骨格や、昆虫のような外部骨格がありませんから、身体の形態的構造を維持するために、個々の細胞の細胞壁がまとまって機械的な支持構造をなしています。細胞壁は細胞成長が進むと、セルロースを主体とする一次細胞壁の外側にリグニンを主体とする二次細胞壁が合成されて、より強い堅固な構造になります。特に木本植物では、リグニン化が顕著な細胞で構成される木部組織ができて、植物体全体の固い支持構造となります。この場合、細胞は生きてはいません。
2 外部からの様々な要因から細胞を守る役割  
 植物は生育する場所から離れる事ができませんから、絶えず様々な外的要因にさらされており、生存や、生育に不利益なものに対抗しなければなりません。細胞壁があることによって、細胞は一寸した物理的なあるいは化学的なストレスや傷害から守られます。また、細胞壁はウィルス、細菌、カビなどの侵入を物理的に防ぎます。微生物が細胞をアタックするには、植物組織にできた傷口などから入るか、微生物が分泌する酵素で細胞壁を分解しなければなりません。しかし、微生物が細胞に侵入を開始すると、植物はファイトアレキシンというこれらの微生物を殺す毒素を合成し、病原菌の侵入拡大を防ごうとします。ファイトアレキシンの種類は植物よって異なります。微生物が感染する時、まず細胞壁に付着します。細胞壁がそのままでは微生物は細胞の内部に侵入できませんので、まず細胞壁を分解します。この時、細胞壁の分解物(細胞壁構成成分の断片)が信号物質(エリシターといいます)となって、健常な近辺の細胞に至り、そこで、ファイトアレキシンの合成が引き起こされます。また、同じく感染された植物細胞は微生物の細胞壁に働きかけて、これを分解し、その分解物がエリシターとなることもあります。このように、細胞壁は病原菌の感染の感知と侵入に対する防御において大変重要な役割を果たしています。
3 水分子等の通路としての役割  
 植物体は根の先から葉の先まで身体全体の細胞がつながっていて、それぞれの細胞は細胞壁に囲まれ、隣り合う細胞は細胞壁がお互いにくっついています。細胞壁には原形質連絡というトンネルがあって、隣り合う細胞とは細胞質どうしもつながっています。このような植物体全体の細胞壁のネットワークをアポプラストと呼び、原形質のネットワークをシンプラストといいます。従って、植物体中の水やそれに溶けている低分子物質に移動は必ず細胞壁を通過しなければなりません。つまり、細胞壁は細胞間の物質の輸送の通路として大切です。勿論長い距離、例えば根から茎の先端までの輸送には導管や篩管のような組織がありますが、そこに入るにもやはりまず細胞壁を通らなければなりません。  
 細胞壁はウィルス、微生物や大きい分子を通しません。低分子の物質でも、正(+)に荷電してものは、細胞壁構成分子が負(-)に荷電しているため、細胞壁中にトラップされ易く、通過は抑えられます。植物は根から水と一緒に各種の養分(主として無機物質)を吸収して身体全体へ輸送します。吸収された水やこれらの物質はアポプラストを通るか、あるいは一部は一旦細胞膜を通過して細胞内を経由して、根の通導組織の導管に入り上部へ輸送されます。  
 アポプラストは通常水で飽和しており、細胞内(シンプラスト)との間で絶えず水の出入りがおこなわれています。細胞壁、従ってアポプラストは植物体における水の供給・利用に重要な役割を担っています。

以上で細胞壁の役割をおおまかに説明しました。植物細胞を細胞壁消化酵素で処理してやると、細胞壁のない裸の細胞ができます。これをプロトプラストといいます。プロトプラストは生きていますが、培養液に入れておくとすぐに、細胞壁を合成し始めて元に戻ります。また、細胞壁がないと細胞は分裂できません。細胞壁は植物自身にとっては必須の細胞構成要素です。

ところで、細胞壁はヒトの生活にとってもきわめて重要なものです。この地球上で海と陸をあわせて、年間の植物の生産量は乾燥重量にして約1.500億トン といわれます。そのうち約60%は細胞壁です。従って,莫大な量の細胞壁が毎年地球上で作られています。一部は他の生物の食料にもなりますが、ヒトは様々なものにこれを利用しています。化石燃料も細胞壁に負っているわけです。 細胞壁はヒトの生活を支える大事な自然資源であるといえます。

液胞の役割  
ここでは一般的な植物細胞の液胞を対象にします。液胞は細胞が若い時期には多数の細かな小胞として細胞質内に存在しますが、細胞が大きくなる(成長する)にしたがって、これらは融合し、一つの大きな液胞になります。ふつう細胞容積の約90%を占め、細胞質は薄く延ばされて細胞壁に押しつけられています。液胞はトノプラストという膜で囲まれ,中は各種の物質が溶けている水で、細胞液と呼びます。液胞は質問にもありますように、細胞の浸透圧の調節に関係していますが、それ以外にもいくつかの重要な役割を担っていますので、これらを含めて簡単に説明しましょう。

1 浸透圧・吸水・膨圧調節の役割  
 細胞液には一般に各種の無機塩類や糖、有機酸,アミノ酸等の有機物が溶けています。液胞はこれらの物質を集積し、その濃度は細胞質におけるよりも高くなります。これはトノプラストにはこれらの物質を能動的に液胞内へ輸送する働きがあるからです。その結果液胞では高い浸透圧が保たれ(浸透圧は溶けている溶質の濃度に大体比例する)、それに伴い浸透吸水も増加します。トノプラストは半透性膜ですから、水は浸透圧の高い液胞内に流れ込みます。吸水が続くと、液胞はふくれあがり、細胞壁に対する水圧を高めることになります。浸透吸水の結果細胞内に生じるこのような圧力を膨圧と呼んでいます。草本性植物では植物体が萎れないために、膨圧が維持されなければなりません。水不足で植物が萎れるのは、液胞の水分が少なくなり、細胞壁を突っ張るに足る十分な膨圧が生じなくなるからです。この関係は、布袋(細胞壁)に風船(液胞)を入れて空気(水)を吹き込む場合に似ています。  
 若い細胞が成長して容積を増大する時、液胞はどんどん吸水します。植物細胞の成長(容積増加)はいわば水ぶくれみたいなものです。この時植物ホルモンのオーキシンの作用で、細胞壁には緩みが生じ、膨圧で押し広げられ易くなります。しかし、同時に細胞壁の合成も継続していますから、やがて細胞壁は固くなって柔軟性を失い、膨圧による拡大は終わります。そうすると細胞成長は止まります。このように、液胞は細胞の膨圧維持という重要な役割を担っています。
2 各種代謝物の蓄積,貯蔵場所としての役割  
 植物細胞は代謝活動の結果生じる直接生命活動の維持に必要のない様々な代謝産物(二次代謝産物)を外部に排出できないので、液胞の中に蓄積します。毒性のあるアルカロイド、例えばニコチンなどもそうです。この場合は、老廃物の廃棄庫のような役割です。しかし、アントシアニンのような色素も液胞に含まれます。また、サボテン等のCAM植物は光合成で特別な二酸化炭素固定の反応経路をもっていますが、その中間産物であるリンゴ酸は一時的に液胞に貯蔵されます。
3 リソソーム的役割  
 動物細胞には高分子やミトコンドリアなどの細胞小器官を分解消化するリソソームという細胞小器官がありますが、植物では液胞がこれに相当する役割を果たしています。植物細胞にあるミトコンドリア、プラスチド、リボソームなどは液胞に取り込まれて、そこで分解され、分解産物は再利用されることになります。
国際基督教大学
 勝見 允行
回答日:2009-07-03