一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ヤドリギが寄生する理由

質問者:   大学生   南野
登録番号2460   登録日:2011-06-11
ヤドリギは他の落葉広葉樹に寄生する一方で、自分でも光合成を行う半寄生植物ですが、自分でも光合成をおこなえるのに他の植物に寄生するのはなぜなのでしょうか?

ヤドリギが光合成で作る栄養だけでは足りないので、他の植物に寄生すると本で読んだのですが、ヤドリギには自分の使う栄養素を生産するのには葉緑体の数が不足しているということなのでしょうか?

それとも、葉緑体の発達が不十分だということなのでしょうか?

調べても答えが出てこないので教えていただけませんか?
よろしくお願いいたします。
南野様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。質問にお答えいたします。
植物は種類によって様々な生活形態を示します。いずれも、それぞれの種ごとに進化の過程で生育環境への適応戦略として、生存・繁殖に都合の良い生活形態を作り上げてきたものと考えられます。寄生植物もヤドリギのような半寄生植物もそのような生活形態の一つです。ご質問のヤドリギ(Viscum album L. var. rubro-aurantiacum Makino form. lutescens (Makino) Hara) はれっきとした被子植物で光合成能力を備えた葉を持っています。類似の植物に マツグミ、オオバヤドリギ、ホザキヤドリギ、ヒノキヤドリギ等があります。ふつうの植物は茎、葉からなる地上部と地下にある根系からなりたっています。これらの植物はどうやって栄養をまかなっているかというと、説明するまでもありませんが、根からは水分とそれに含まれる、核酸やアミノ酸の合成に必要な窒素、リン、硫黄や酵素反応等に必要なMg, K, Ca, Mn, Co, Fe, その他各種の無機養分が吸収されます。地上部では根から吸収した水と大気中の二酸化炭素を材料に太陽光のエネルギーで光合成を行いブドウ糖を合成します。つまり、地上部と地下部の機能は役割が違うのです。そこで、ヤドリギと普通の植物とどう違うかというと、ヤドリギは土壌の代わりに他の木の幹を利用しているのです。したがって、ヤドリギにも根系があります。しかし、普通の根とはちがって寄生根とよばれるもので、宿主から水と無機の栄養を得るための特殊な根です。ヤドリギの種子が樹皮の上で発芽すると、根は樹皮に吸着するために吸器(haustrium) という特殊な器官をつくります。これから不定根が樹皮下にのびて宿主の形成層の達して新しく形成される木部と結合します。吸器からは多分宿主の木部細胞の増殖を促す物質が分泌されて、木部との結合を増やしていきます。ヤドリギは二酸化炭素以外は宿主から必要な栄養を盗み取っていると言ってよいでしょう。光合成は十分に行っていると思います。ヤドリギのような半寄生植物は他に沢山あります。ツクバネソウやカナビキソウのような草本性植物もあります。分類的にはミソデンドロン科、オオバヤドリギ科及びビャクダン科の三つの科にわたっています。日本のヤドリギはかつてはヤドリギ科(Viscaceae)という別の科になっていましたが、いまはビャクダン科に入れられています。一番大きい科はビャクダン科で、73属900種以上あります。全部で1,400前後あるとされています。これらの寄生根の形態は様々です。光合成力が不十分なため、それを補うため宿主の篩管から宿主が合成する有機養分を失敬するものもあります。矮性宿り木として知られているビャクダン科のアメリカヤドリギはその例です。しかし、発芽して芽生えの時期は自家栄養能力がありますが、宿主の導管組織への結合ができると光合成能力は低下します。日本ではヤドリギというと特定の種(前術)を指しますが、英語の mistletoe という言葉は当初は英国で唯一のViscum album L. を指しましたが、いまは他の宿り木も含めてそうよんでいます。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2011-06-13