一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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落花生はなぜ土に潜るの?

質問者:   一般   野イチゴ
登録番号2464   登録日:2011-06-17
こんにちは。私は、新潟で、少しばかりの土地に少しばかりの花と野菜を育て、いくつかの植物の不思議を友に暮らしている60代女性です。今、一番不思議に思う事を質問しますので、どうぞ教えて下さいませ。
 ピーナツについてです。不思議に思う事、それはやはり、なぜ花後に子房柄を土の中に延ばし種をつけるかと言う事です。土の中にはいるメリットは何でしょう。1つは鳥害等から種を守ること、もう1つは乾燥から種を守る事かとも思いますが、土の中でも虫害等はあるはず。又、原産地の南米では地温もかなり高いのではないかと思います。もっとも南米のどの辺が原産地になるのかはわからないのですが。他にメリットはあるのでしょうか。
 又、子房柄が土中に入りやすいようにその次期になったら土を耕す様にとの事ですが、もともと原産地の土はやわらかいのですか?それと、世界中にはピーナツの他にも土中に入り種をつける植物はあるのでしょうか。
 お忙しいところ申し訳ありませんが、以上よろしくお願い申し上げます。
野いちご様

日本植物生理学会へのご質問有り難うございました。お手紙によれば、植物の不思議を友に暮らしておられるとのこと、素敵です。私たちはそういう方からのご質問を心からお待ちしています。
まだミカンが木の箱に入れられて売られていた頃、空き箱に土を入れ、ラッカセイを育てたことがあります。地植えにしたものと違って、土の位置が高いので、子房(莢や種子になるところ)が土に入って行くところを、顔を地べたに近づけなくても観察することが出来た事を思い出しました。あの時、ミカン箱ではなくて、もう少し小さい植木鉢に植えていたら、植木鉢の外まで伸びてしまった枝から下へ向かって伸びて来て、土の中へ入れなかった子房が観察出来たのかもしれませんが、私のミカン箱に植えたラッカセイでは、どれもみんな土の中へ潜ってしまい、土の中に潜れず、枯れてしまう子房は観察出来ませんでした。答えを書いてしまいましたが、子房が発達して莢や種子を形成するためには、子房に光が当たらないことと(フィトクロムというタンパク質を使って赤色光を感じています)、子房への水分の供給が十分なことが必要です。地上で発達する普通のマメの場合、水分は根から供給されますが、ラッカセイの場合、子房そのものが水分を吸収します。ご質問は「土の中に入るメリットは何か」でしたが、そもそも土の中に入らなければ、莢も種子も作る事が出来ないのです。
次に原産地についてのご質問ですが、栽培種のラッカセイに性質の近い野生種がボリビアの南部で見つかっていることから、ここが原産地と考えられています。原産地の土の様子は調べる事が出来ませんでしたが、この土地で人の手を借りずに長い間種族を維持し続けて来た事から、原産地では子房は土の中に入れるのだと思います。莢や種子を作るためには、暗黒と水が必要であることを述べましたが、それ以外に土に入るときの土の抵抗も必要です。植物は機械的な刺激によって、植物ホルモンの一種のエチレンを生成しますが、莢や種子を作るためには、土に入る時の土の抵抗によって生成されるエチレンも必要なのです。土は子房が入れないように固くてはダメですが、柔らか過ぎてもダメらしいです。
3つ目のご質問は「ラッカセイの他に果実が土の中に入る植物はあるのか」ですが、帰化植物でゴマノハグサ科のツタバウンランは地上で花を咲かせ実を結びますが、実の柄が暗い方へ伸びるため、実は土の中に押し込められてしまいます。「植物の生態図鑑」(学研)に写真が載っています。ラッカセイと同じマメ科のヤブマメは地上に普通のマメに良く似た花をつけ、普通のマメと同じような莢と種子を作りますが、それとは別に、花びらの発達しない、開花もしない閉鎖花と呼ばれる花を根元につけます。閉鎖花は土の中に潜って同花受精で果実を作ります。果実には種子が一個しか入っていません。牧野日本植物図鑑に図が載っています。タデ科のミゾソバも地上にソバの花に似た花を着けるほか、閉鎖花をつけ、閉鎖花は土の中に潜って果実を作ります。これも「植物の生態図鑑」(学研)に写真が載っています。ラッカセイの光の認識の仕組みについては、京都大学理学研究科の長谷あきら教授に教えてもらいました。
今後とも植物の不思議を見つけて、私どもに面白い質問をお寄せ下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-06-19