一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

キョウチクトウの受粉

質問者:   その他   りんご
登録番号2468   登録日:2011-06-26
キョウチクトウの花を観察すると、
花弁の中に副花冠、その中に一緒になってよじれたおしべ、その中に隠れているめしべのようでした。
散る時もまだおしべがよじれたままでした。
(ここまでの観察が間違っているかもしれませんね。正しい構造はどうなのでしょう))
おしべがよじれて蓋をしてるみたいで、どうやってめしべは受粉をするのでしょう?
この木は毎年実の生る木です。
りんご様

みんなの広場へのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を、直接、間接を含めて5人の方にお願いしたのですが、回答が頂けず、6人目の神戸大学の小菅桂子先生にお願いして、ようやく以下のような回答を頂く事ができました。小菅先生は、ご自分で花を観察されたり、ドイツ語の文献を調べたりして下さいました。きっと、お役に立つと思います。


小菅先生のご回答

ご質問ありがとうございます。毎年、キョウチクトウに実がらるとは珍しいですね。
お便りにあるように,キョウチクトウの花は複雑な構造をしています.

5本の雄しべは,花粉のはいった葯の先端が細長く伸び,毛のある糸状の構造(付属体)をしています.“よじれたおしべと”いうのはこの付属体のことでしょう.葯はやじり型をしていて,お互いにくっついて半分開いた傘のようになっています.雄しべの柄(花糸)は太く短く,花の下側,細くなった筒の入り口についています.花を上から見ると,この花糸の間から花の奥がかすかに見えます.

雌しべは1本で,その形はろうそくのような,例えるなら“京都タワー”に似ています.京都タワーのリング上の展望室より上側の部分は,キョウチクトウの雌しべでは先端がとがった緑色のふくらみになっています.この部分は葯の傘がのっており,花の上から直接みることはできません.一般的な花では,この先端のとがった部分が花粉を受け取る柱頭になっています.しかし,キョウチクトウ科の植物では,これは花粉を受け取る働きを持っていません.その下側の白い筒状の部分,京都タワーで言えば4階展望室に相当する部分が花粉を受け取ります.さらに下側は長い柄(花柱)が花の筒の奥に伸びています.その根元にはたぶん蜜が分泌されると思われる緑色のお皿のようなもの(花盤)があります.

さて,どうやってめしべは受粉をするのでしょう?

海外の資料を見たところ,キョウチクトウの仲間は口吻の長い蜂,蝶や蛾によって受粉が行われるようです.花を訪れた昆虫は口吻をさしこみ,花糸の間から花盤まで伸ばして蜜を吸います.そのとき,花粉が口吻につきます.この虫が別の花を訪れ,そのときに口吻についた花粉が筒状の柱頭について受粉がおこります.

キョウチクトウの仲間は自分の花の花粉では果実(種子)を作ることができません.ほかの株の花から運ばれた花粉がつく,他家受粉によって初めて種子ができます.このような複雑な花の構造をしているためか,キョウチクトウの仲間は実ができにくいと多くの文献に示されています.

花の構造は咲いた花より,蕾の方がわかりやすいと思います.キョウチクトウの蕾を縦に切ってみれば構造がよくわかります.ただし,キョウチクトウを切ったときにでる白い汁には毒成分が含まれるので,観察した後はよく手を洗ってください.

小菅 桂子(神戸大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-07-29