質問者:
一般
ぐ
登録番号2469
登録日:2011-06-28
先頃は、植物の大きさと細胞の大きさ、一番大きな細胞についてご回答ありがとうございました。みんなのひろば
ファイトレメディエーション
友人にまめ知識として披露してしまいました。
また今回も、ニュースを見ていて思ったことを質問させていただきます。
放射性物質の吸着にひまわりを使おうという報道から、ファイトレメディエーションという考え方を知りました。
このたびの大地震による津波で、田畑に塩害が出ているそうですが、
よくスーパーなどで見るアイスプラントなど、塩を取り込む植物で塩を取り除くことはできないのでしょうか。
また、そういった試みはあるのでしょうか。
ほかにも、塩を吸着することのできる植物ばあれば、教えていただけると幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
ぐ さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
環境(空気、水系、土壌)汚染物質を植物の力で除去しようとするファイトレメディエーションの試みは、1986年におきたチェルノブイル原子力発電所の爆発事故による放射性核種汚染除去の一方法として大きな注目を浴びてきましたが、その他にも鉱山発掘と精錬や合成化学などにおける産業廃棄物(排水を含む)によってもたらされる、各種の有害重金属、有機水銀化合物などを軽減、除去できる可能性があるものとして世界的な試験研究が展開されています。しかし、これらの汚染物質の濃度は、塩害地における塩濃度とは比較にならぬほど低濃度(でも有害度は高い)だから可能なのです。
ご質問は、津波によって田畑にもたらされた塩害を植物の力で軽減できないか、というものでファイトレメディエーションとは少しばかり違った視点で見なければならないものです。海水の塩濃度はおよそ食塩3.5%(およそ600mM)という高濃度です。土壌が海水に浸されると土壌粒子は海水塩濃度の一定の割合を吸着します(海水塩濃度と平衡になるように吸着します)。海水が退いた後でも土壌粒子の周囲には海水が残っていて、水分が蒸発すればさらに濃度が高くなります。一方、植物は塩類を吸収して成長しますが、正常に且つ活発に生育できるとされる培養液(例えばホーグランド培養液)では全塩濃度が30mM程度です。つまり、植物が吸収できる(生育できる)塩類の濃度はきわめて低いものです。塩耐性の強い植物で200mM(海水の1/3濃度)程度まで「死なずに」生き残るものもありますが、生育はとても悪いものです。海水と平衡にある土壌(あるいはその後淡水を与えたとしても)では、まず濃度的に植物は生育できませんので塩害を軽減させることはできません。ただし、海水中に生育する海藻やホソバノハマアカザやマングローブの仲間は食塩を吸収し、吸収した食塩を排出する仕組みをもっています。アイスプラントはこれらほど塩耐性が強くありませんが、吸収した塩を体表面の袋状細胞に貯めて、他の組織の塩濃度を低くする仕組みをもっています。このような塩耐性の強い植物を植えたとしても、土壌から塩を除くことにはつながりません。そこで、塩害対策としては塩害地でも生育できる作物(品)種[塩耐性(品)種]を探すことで解決しようとする研究が行われています。イネ、ムギ、トウモロコシやタバコなどの作物でも品種によって塩耐性の程度がかなり違うことが調査で分かっていますので、現在は、塩耐性の強い植物、品種の塩耐性の仕組みを解き明かし、その仕組みを何とか作物に組み入れることをねらっている研究段階です。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
環境(空気、水系、土壌)汚染物質を植物の力で除去しようとするファイトレメディエーションの試みは、1986年におきたチェルノブイル原子力発電所の爆発事故による放射性核種汚染除去の一方法として大きな注目を浴びてきましたが、その他にも鉱山発掘と精錬や合成化学などにおける産業廃棄物(排水を含む)によってもたらされる、各種の有害重金属、有機水銀化合物などを軽減、除去できる可能性があるものとして世界的な試験研究が展開されています。しかし、これらの汚染物質の濃度は、塩害地における塩濃度とは比較にならぬほど低濃度(でも有害度は高い)だから可能なのです。
ご質問は、津波によって田畑にもたらされた塩害を植物の力で軽減できないか、というものでファイトレメディエーションとは少しばかり違った視点で見なければならないものです。海水の塩濃度はおよそ食塩3.5%(およそ600mM)という高濃度です。土壌が海水に浸されると土壌粒子は海水塩濃度の一定の割合を吸着します(海水塩濃度と平衡になるように吸着します)。海水が退いた後でも土壌粒子の周囲には海水が残っていて、水分が蒸発すればさらに濃度が高くなります。一方、植物は塩類を吸収して成長しますが、正常に且つ活発に生育できるとされる培養液(例えばホーグランド培養液)では全塩濃度が30mM程度です。つまり、植物が吸収できる(生育できる)塩類の濃度はきわめて低いものです。塩耐性の強い植物で200mM(海水の1/3濃度)程度まで「死なずに」生き残るものもありますが、生育はとても悪いものです。海水と平衡にある土壌(あるいはその後淡水を与えたとしても)では、まず濃度的に植物は生育できませんので塩害を軽減させることはできません。ただし、海水中に生育する海藻やホソバノハマアカザやマングローブの仲間は食塩を吸収し、吸収した食塩を排出する仕組みをもっています。アイスプラントはこれらほど塩耐性が強くありませんが、吸収した塩を体表面の袋状細胞に貯めて、他の組織の塩濃度を低くする仕組みをもっています。このような塩耐性の強い植物を植えたとしても、土壌から塩を除くことにはつながりません。そこで、塩害対策としては塩害地でも生育できる作物(品)種[塩耐性(品)種]を探すことで解決しようとする研究が行われています。イネ、ムギ、トウモロコシやタバコなどの作物でも品種によって塩耐性の程度がかなり違うことが調査で分かっていますので、現在は、塩耐性の強い植物、品種の塩耐性の仕組みを解き明かし、その仕組みを何とか作物に組み入れることをねらっている研究段階です。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-07-13
今関 英雅
回答日:2011-07-13