一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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腎臓型、亜鈴型はどこでこの違いが生じたのか

質問者:   大学生   kininaru
登録番号2474   登録日:2011-07-03
大学1年のkininaruです。授業で気孔の観察をしました。そのときに腎臓型と亜鈴型が存在し、主に腎臓型が基本的な形であること、イネ科限定で亜鈴型があることを学びました。そこで考えた質問で、「なぜ腎臓型と亜鈴型と形が特異に別れているのか?進化の系統からの違いなのか?だとしたら分岐点はどこなのか?」を聞きたいです。文献をあさってもなかなか核心をつく内容がありません。

回答よろしくお願いします。
kininaruさま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を気孔開閉の機構についてのご研究をなさっておられる九州大学の島崎研一郎先生にお願いいたしましたところ、「質問に直接お答えすることは難しいですが、関連の知見をお伝えします。」と以下のようなメールをお届け下さいました。ご参考になると思います。



まず、亜鈴型孔辺細胞の気孔はイネ科限定ではありません。単子葉植物限定とはいえるようです。単子葉植物の中では、すべてのイネ科植物とカヤツリグサ科などにも報告があります。

機能を考えると、腎臓型より亜鈴型がより効率的に気孔開・閉を行う事ができます。その理由のひとつは、亜鈴型孔辺細胞では長軸方向に細胞を取り巻くように存在するセルロース微繊維に有ります。気孔が開口するのは孔辺細胞の膨圧の増大に起因する事、一方、閉鎖は膨圧の減少により引き起こされる事は、ご存知だと思います。膨圧が増大すると亜鈴型孔辺細胞では伸びにくいセルロース微繊維と直角方向に細胞体積が増大し、向かい合う孔辺細胞同士が反発してスリット状の気孔が開きます。閉鎖の場合はこの逆の反応が起こります。それに対して、腎臓型ではセルロース微繊維が孔辺細胞の長軸と直角に配向しており、膨圧増大に伴い孔辺細胞は長軸方向に伸びるように応答します。しかし、気孔側の細胞壁は厚くてほとんど伸びず、気孔から遠い側の細胞壁は薄く、容易に伸びるので孔辺細胞の外側細胞壁が湾曲します。その結果、孔辺細胞は外側に引っ張られ気孔が開く事になります。閉鎖は、この逆です。これらのことから、亜鈴型は小さな膨圧変化で、素早く、気孔開閉を行うことができると考えられます。その意味で、亜鈴型孔辺細胞が進化していると考える事が出来ます。この亜鈴型孔辺細胞からなる気孔を有する植物は蒸散比(光合成によりCO2を一個固定する際に失う水分子の数)が低く、水利用効率も高くなると考えられます。その意味では、乾燥に対する適応型とも考えることが出来ます。  

腎臓型孔辺細胞と亜鈴型孔辺細胞の形成過程は大きく異なることが報告されています。しかし、この二種類の孔辺細胞の中間型が裸子植物やカヤツリグサ科で知られており、進化のどの時点で分岐したかについては今後の研究課題だと思います。

島崎 研一郎(九州大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-08-10