質問者:
教員
レイコ
登録番号2512
登録日:2011-09-01
1994雄原細胞が花粉管細胞に取り込まれているとき、二重膜であるかどうかという質問に、そういうことをまったく意識していなかったので、感心しました。そこで、新たな疑問(細胞壁はどうなっているのか)が生じましたので、質問させていただきます。よろしくお願いします。みんなのひろば
被子植物の配偶子形成
1. 花粉形成時に取り込まれる雄原細胞には細胞壁があるという記述をみましたが、硬い細胞壁(花粉管細胞)が別の細胞を取り込むイメージがわきません。植物細胞の場合他の物質(細胞)をどのようにとりこむのでしょうか。
2. 胚のうの形成時に、多核の状態から細胞質分裂が起こる時、教科書などの図のような配置になるには、どのように核が移動?し、核の周りにどのように細胞板が現れてくるのか、教えてください。
3. 花粉管がのびるときには、花粉の表面が割れてそこから伸張が始まるようにみえますが、花粉管は、細胞膜のみが形成されつつ伸びていくのでしょうか。
レイコ さん:
お待たせしました。ご質問の回答は名古屋大学の東山哲也先生にお願いし、次のような回答をいただきました。被子植物の授精現象についての研究は技術的な問題から比較的最近まで行われておりませんでしたので、まだ完全に解明されていない部分が多くあるようです。
レイコ様
ご質問いただき、ありがとうございます。ご質問いただいたポイントは、よく考えてみますと不思議なことだらけです。
1について
一般に、植物細胞のエンドサイトーシスも、動物細胞と同様に、細胞膜の陥入(細胞壁ごとではなく)により起こります。花粉管細胞に取り込まれた状態の雄原細胞のまわり(二重膜の間)には、ご指摘の通りに細胞壁が見られることがあります。この細胞壁は、取り込まれたあとの雄原細胞に由来するものかも知れません。雄原細胞がどのように花粉管細胞に取り込まれるのかについては、それほど詳しい解析が進んでいないと思います。手元にあります、1995年のSodmergenらによるProtoplasmaの論文を見ますと、花粉管細胞内に取り込まれた直後と思われる雄原細胞は、ほぼ球形であり、構造がはっきり確認されるような硬い細胞壁で覆われている様子ではありません。同じ論文で、取り込まれる前の雄原細胞と花粉管細胞の接する部分にも、明視野顕微鏡での観察ではありますが、はっきりとした細胞壁構造は認められません。電子顕微鏡等で観察しないと詳しくはわかりませんが、細胞壁がほとんど存在しない(未熟?)な状態で、花粉管細胞に雄原細胞が取り込まれるのではないかと思います。なお、胚嚢内に放出された受精直前の精細胞には、電子顕微鏡で細胞壁が観察されることはありません。卵細胞および中央細胞(ともに受精のおこる部位では細胞壁を欠く)と、細胞膜の融合、すなわち受精が可能な状態になっているようです。
2について
一般的なポリゴナム型の胚嚢の形成について説明します。4核期において、珠孔側(卵細胞ができる側)に2つの核が存在します。この2つの核は、分裂前に少し位置取りをかえて、珠孔側の先端に1つ、それよりやや合点側(反足細胞ができる側)に1つ存在します。珠孔側の先端の核は分裂して2つの助細胞の核に、やや合点側の核は卵細胞の核と極核の1つになります。各細胞が形成されるべき場所に、あらかじめ核が配置されるようなイメージです。これらの分裂は同調的に進みますが、分裂が終了すると同時に各細胞の仕切り(細胞膜および細胞壁)が明確に観察され始めます。核の周りに仕切りができはじめると言っても間違いではないのですが、決して核から一定の距離に仕切りができるような様子ではありません。具体的な仕切りの入りかたについては、図示するのも容易ではなく、ましてや文章ではなかなか伝えにくいところです。トレニアという園芸植物のつぼみを解剖しますと、胚珠から突出した未熟な胚嚢を観察できます。ご自身で観察されるのが、仕切りの入り方を理解する早道かも知れません。トレニアは胚嚢が突出するユニークな植物です。ただし、交雑により作られた雑種は胚嚢を欠いたり、異常が見られたりしますので、ご注意ください。9月一杯ぐらいは、街なかの花壇やプランターで咲いています。
3について
花粉管は花粉管細胞の一部が伸長して作られる構造です。その伸長する部分では激しく分泌小胞が細胞膜と融合し、細胞膜と細胞壁の成分が供給されます。つまり、細胞膜と細胞壁が、花粉管の先端部分でつくられ続けることで伸びると言えます。花粉は、花粉壁により覆われていますが、発芽孔という花粉壁の薄い場所が存在します。花粉管の構造は、この発芽孔から生じます。
東山 哲也(名古屋大学・理学研究科)
お待たせしました。ご質問の回答は名古屋大学の東山哲也先生にお願いし、次のような回答をいただきました。被子植物の授精現象についての研究は技術的な問題から比較的最近まで行われておりませんでしたので、まだ完全に解明されていない部分が多くあるようです。
レイコ様
ご質問いただき、ありがとうございます。ご質問いただいたポイントは、よく考えてみますと不思議なことだらけです。
1について
一般に、植物細胞のエンドサイトーシスも、動物細胞と同様に、細胞膜の陥入(細胞壁ごとではなく)により起こります。花粉管細胞に取り込まれた状態の雄原細胞のまわり(二重膜の間)には、ご指摘の通りに細胞壁が見られることがあります。この細胞壁は、取り込まれたあとの雄原細胞に由来するものかも知れません。雄原細胞がどのように花粉管細胞に取り込まれるのかについては、それほど詳しい解析が進んでいないと思います。手元にあります、1995年のSodmergenらによるProtoplasmaの論文を見ますと、花粉管細胞内に取り込まれた直後と思われる雄原細胞は、ほぼ球形であり、構造がはっきり確認されるような硬い細胞壁で覆われている様子ではありません。同じ論文で、取り込まれる前の雄原細胞と花粉管細胞の接する部分にも、明視野顕微鏡での観察ではありますが、はっきりとした細胞壁構造は認められません。電子顕微鏡等で観察しないと詳しくはわかりませんが、細胞壁がほとんど存在しない(未熟?)な状態で、花粉管細胞に雄原細胞が取り込まれるのではないかと思います。なお、胚嚢内に放出された受精直前の精細胞には、電子顕微鏡で細胞壁が観察されることはありません。卵細胞および中央細胞(ともに受精のおこる部位では細胞壁を欠く)と、細胞膜の融合、すなわち受精が可能な状態になっているようです。
2について
一般的なポリゴナム型の胚嚢の形成について説明します。4核期において、珠孔側(卵細胞ができる側)に2つの核が存在します。この2つの核は、分裂前に少し位置取りをかえて、珠孔側の先端に1つ、それよりやや合点側(反足細胞ができる側)に1つ存在します。珠孔側の先端の核は分裂して2つの助細胞の核に、やや合点側の核は卵細胞の核と極核の1つになります。各細胞が形成されるべき場所に、あらかじめ核が配置されるようなイメージです。これらの分裂は同調的に進みますが、分裂が終了すると同時に各細胞の仕切り(細胞膜および細胞壁)が明確に観察され始めます。核の周りに仕切りができはじめると言っても間違いではないのですが、決して核から一定の距離に仕切りができるような様子ではありません。具体的な仕切りの入りかたについては、図示するのも容易ではなく、ましてや文章ではなかなか伝えにくいところです。トレニアという園芸植物のつぼみを解剖しますと、胚珠から突出した未熟な胚嚢を観察できます。ご自身で観察されるのが、仕切りの入り方を理解する早道かも知れません。トレニアは胚嚢が突出するユニークな植物です。ただし、交雑により作られた雑種は胚嚢を欠いたり、異常が見られたりしますので、ご注意ください。9月一杯ぐらいは、街なかの花壇やプランターで咲いています。
3について
花粉管は花粉管細胞の一部が伸長して作られる構造です。その伸長する部分では激しく分泌小胞が細胞膜と融合し、細胞膜と細胞壁の成分が供給されます。つまり、細胞膜と細胞壁が、花粉管の先端部分でつくられ続けることで伸びると言えます。花粉は、花粉壁により覆われていますが、発芽孔という花粉壁の薄い場所が存在します。花粉管の構造は、この発芽孔から生じます。
東山 哲也(名古屋大学・理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-09-26
今関 英雅
回答日:2011-09-26