一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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マツが枯れる要因と病徴阻害要因

質問者:   その他   星の王子
登録番号2521   登録日:2011-09-25
アカマツ、クロマツなどがマツノザイセンチュウ病にかかって枯れるメカニズムはほぼ分かってるようですが、そんな話をしているときに、抵抗性があって枯れないマツは「なぜ枯れないのか」という素朴な疑問がありました。マツヤニが多く出る、センチュウが侵入後に特別な物質をだして病気の進展を阻害する、樹勢が影響しているなどの意見が出ましたが結論がでませんでした。現時点までに研究成果として分かっていることを教えてください。
星の王子 さん:

ご質問には森林植物学がご専門の東京大学 宝月岱造先生に伺いました。多少補足しますと、マツノザイセンチュウによる枯死は、結局は水通道が阻害されることによりますので、個別の樹木の水分環境が影響することも知られています。林地のマツ群落内のすべてのマツが同じ水分環境ではなく、水分供給のよい場所、悪い場所が混在していますので、水分供給の好い場所に生育する樹木は感染しても枯れにくい傾向もあります。


【宝月先生のお答え】
マツ材線虫病に抵抗性があるマツとしては、リギダマツ、テーダマツ、スロトーブマツなど北米に生育するマツが知られています。また最近では、被害林で生き残ったアカマツやクロマツから作った苗をもとに選抜育種が盛んに行われており、すでにアカマツやクロマツの「抵抗性苗」が出荷されています。実際の材線虫病では何十年か育ったマツが感染して枯れるので、これらの苗が大きくなっても抵抗性が維持されるかどうか分りませんが、期待されています。
さて、材線虫は、樹木の中に侵入すると、樹脂道を通って樹木の中をあちこちに移動し、樹脂道からその周辺の組織に侵入して細胞を破壊しながら増殖します。そして最終的に、幹の通水を阻害して樹を枯らすことになります。従って、抵抗性マツが枯れない理由は、これらの病気の進展過程のどこかがブロックされているためと考えられます。これまでに、材線虫病に感受性のアカマツやクロマツと抵抗性のマツとに材線虫を接種して、病気の進展過程の違いを調べる研究がいくつか行われています。その種の研究では、抵抗性マツの中では材線虫の移動や増殖が抑制されるという報告が多いようです。また、抵抗性マツに含まれる化学成分も調べられており、線虫の動きを止めてしまう物質をもともと持っている例、線虫が感染することによって、その種の物質がマツの中に生産される例が知られています。今のところ、この種の物質が線虫の動きや移動を妨げ、それによって増殖や組織の破壊をも妨げることが抵抗性の原因の一つと考える研究者が多いようです。しかし、そもそも移動が阻害されないという実験例もあるので、同じ抵抗性マツと言っても、抵抗性の原因は同じではないのかも知れません。なおその他にも、枝の出方など体制の違いで線虫の移動が阻止されるためではないか、と言った説も提案されています。

宝月 岱造(東京大学農学生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-10-05
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