一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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品種改良による代謝産物

質問者:   一般   一朶の雲
登録番号2526   登録日:2011-10-01
松永和紀著「植物で未来をつくる」に「植物の代謝産物は数がきわめて多い・・・・二次代謝物質は植物界全体で20万種類以上あるといわれている」(100頁)との記述があります。ビタミン類やアントシアニンなどの抗酸化物質などはこの二十万種類のほんの一部ですが、ジェームズ・P・コールマン著「天然モノは安全なのか?」(丸善)に「品種改良とは、野生の植物の毒素を減らす営みだったといってよい}(35頁)という記述があります。何故、品種改良をすると毒素がへるのでしょうか?
一朶の雲さま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。私はジェームス・コールマンの「天然モノは安全なのか?」を読んだ事がなかったので、ちょっと手間がかかりましたが、入手して読む事から始めました。「品種改良とは、野生の植物の毒素を減らす営みだったといってよい。」とのコールマンの考えの根拠が示されている事を期待して読んだのですが、期待はずれでした。結論から申しますと、私はこの言葉はコールマンの根拠のない思い込みだと思います。以下私がそう思った理由を述べます。まず品種改良について説明する必要があります。コールマンが「営みだった」と過去形を使っていることから、この場合、古典的な品種改良法だけを考えれば良いと思います。古典的な手法の一つに「純系分離」と云う手法があります。普通に生育している植物は色々な祖先からの遺伝子を持っていますので、自家受粉で作らせた種子を播いても、種子から生えて来る植物の中には親と性質の異なる植物が混ざっています。しかし、生えて来たそれぞれの植物から自家受粉で種子を作り、それを播いて生えて来た植物のそれぞれをまた自家受粉させ種子をとる、と云う事を繰り返していると、親植物と同じ性質を持った子植物ばかりが得られるようになります。こうして得られた系統を純系と呼びます。この過程でいろいろな純系が得られますが、その中から目的にかなった系統を選ぶのです。イネの場合ですが、この方法で、コシヒカリの両親が得られています。もう一つの方法は、自然に起きた突然変異によって生じた植物を拾う方法です。イネの場合ですが、肥料を遣り過ぎてみんな弱くなり倒れてしまったのに一株だけ倒れない株があり、それを拾い上げ、肥料を遣り過ぎても倒れないイネを育成しています。ある枝だけ他の枝と違う性質を持つようになる「枝変わり」を利用する方法もありあます。富有柿の祖先の御所柿は枝変わりを利用して得られた品種です。もう一つ交配と云う方法があります。収量の多い品種と病気に罹り難い品種を掛け合わせて病気に強くて収量の多い品種を作る目的などで使われます。新潟産のコシヒカリはこのようにして作られました。交配によって得られた例はサクランボの佐藤錦、サクラのソメイヨシノなど数えきれないほどあります。二十世紀梨は自然の交配によって出来た、従って両親の分からない種子から生えた実生(偶発実生)を拾い出したものです。ここからがコールマンの言葉がおかしいと思う理由です。毒のある植物から品種改良によって毒のない植物を作ろうとすれば、以上述べたどの方法をとるにせよ、毒のある植物を栽培し続けなければなりません。そう云うことをするでしょうか。品種改良にとって最も大切なのは目的にあった植物を選抜することです。肥料のやり過ぎに対して強いかどうかは肥料を沢山やって育てればすぐわかりますし、良いサクランボが出来たかどうは食べてみてみれば分かります。品種改良で毒性の低い植物を得ようとしたら、出来た植物を食べてみなければならない筈です。そういうことをしたとは考えらません。牧場にウシが食べないで残されている植物があります。ウシにはその植物に毒が含まれているかどうかが食べないでも分かるのです。野原から草をとって来てウサギに与えても食べない草があります。ウサギも毒の含まれている草が分かるのです。今は失ってしまっているが昔は人間もウシやウサギと同じようにある植物に毒が含まれているかどうかを見分ける能力を持っており、毒の含まれていない植物を選んで食べ、栽培したのだと思います。判断を誤って毒のある植物を食べて死んだこともあったと思いますが、その経験は伝えられ毒のない植物をえらぶことに使われたのだと思います。ウシやウサギ、その他の動物が品種改良をしないで、毒のない植物を食べています。コールマンの考えは根拠のない思い込みだと思います。

さて、ご質問は「何故,品種改良をすると毒素がへるのでしょうか?」でした。ここまで述べて来たように、古典的な品種改良では毒素を減らすのは困難だったと思いますが、今なら可能でしょう。毒素がどういう物質なのかが分かり、さらにその物質の量の測り方が分かれば、食べてみなくても毒素が減ったかどうかが分かるからです。また今なら、毒素を作るのに必要な酵素の遺伝子を壊すことのよって毒素を減らすことも出来るでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-10-24
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