質問者:
高校生
なの
登録番号2536
登録日:2011-10-18
高校の課題研究でエンバクの重力屈性に目を向けています。みんなのひろば
アミロプラスト内のデンプン分解
①アミロプラストの「デンプンが」重力屈性に必要であるかを明らかにしたいと考えました。予想としては、やはり重さがあるものとしてデンプンが必要なだけであって、デンプンそのものが必要である(デンプンでなければならない)ということではないと考えています。
そこで、アミロプラスト内のデンプンを分解させ、重力屈性が起きるか起きないかを観察したいと考えました。植物の根の細胞膜にアミラーゼは通るのでしょうか?また、通るとしても、植物を生かした状態のままで実験は可能でしょうか?
②「根冠を排除すると重力屈性が見られなかった」という実験結果があるのですが、「根冠の排除の方法(切断)によるショックが原因で重力屈性が見られなかった」のではない、という証明はできないでしょうか?
なの様
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を、根がどのようにして重力の方向を感知しているのかについての研究をなさっておられる奈良先端科学技術大学院大学の森田美代先生にお願い致しましたところ、以下のような丁寧なご回答をお寄せ下さいました。しっかりと勉強して下さい。
森田先生のご回答
エンバクは、オートムギ、マカラスムギ等の別名をもち、学名をAvena sativaといいます。高校の生物の授業でも屈性の実験としてアベナの幼葉鞘を用いた実験が紹介されています。一方,アベナの根の屈性については、報告は多くありません。今回はデンプンとアミロプラスト、根の重力屈性の関係が報告されているシロイヌナズナを主な例として考えたいと思います。
①まず、根のアミロプラスト内のデンプンを分解する方法です。お考えになったように、根を生かしたまま細胞内にアミラーゼを作用させるのは難しいと思います。蛋白質であるアミラーゼが活性を保ったまま、生きた細胞の膜を通過し,更にアミロプラストの膜をも通過してデンプンを分解することは、あまり期待できないように思います。別の方法としては,植物ホルモンを作用させることで、デンプンの分解を起こさせることが考えられます。シロイヌナズナでは、アブシジン酸処理や浸透圧ストレス処理などでアミロプラストのデンプン量を減少させることができます。しかしながら、このような方法は、デンプン量の変化以外に、成長への影響など、何らかの影響を及ぼす恐れがあるので、重力屈性の結果の解釈は簡単ではないと思います。
アミロプラストのデンプン量と根の重力屈性の関係ですが,シロイヌナズナでは、デンプン合成の変異体の解析から,デンプン量が上昇すれば重力屈性は強まり、デンプン量が減少すれば重力屈性は低下することが報告されています。そして、アミロプラスト内にデンプン蓄積が認められない様な変異体でも、重力屈性が完全に失われることは無く、弱いながらも重力屈性を示すことが分かっています。従って,デンプンは十分な重力屈性を引き起こすにはとても重要ですが,重力屈性に必須であるという訳ではありません。それでは、デンプン以外の何が必須か、ということになります。1)重力はデンプンを含まなくともアミロプラスト(プラスチド)が重要であるという説、2)細胞質全体の重さが重要であるという説、3)両者ともが関与するという説があります。現段階では、1)と3)が優勢ですが,はっきりした答えはまだありません。また、シロイヌナズナで得られた実験結果がそのまま全ての植物に当てはまるとも限りませんので、いろいろな植物で実験してみることは大切だと思います。
②最後に根冠切除についてです。根の先端には、アミロプラストを持つ細胞を含む根冠があり、それに近接して根の成長に重要な根端分裂組織があります。植物種にもよりますが,根冠だけを除くのは非常に難しく、おっしゃるとおり切断によるショックによって重力屈性に影響が出る可能性は十分に考えられます。トウモロコシやエンドウなど芽生えの根が比較的大きな植物を用いた、根冠切除の実験の報告があります。シロイヌナズナの根は非常に小さいので、根冠切除には向きませんが,顕微鏡下で根冠内の特定の細胞にレーザーを照射して焼いてしまう、という実験が行われました。いずれの場合も、それぞれの操作によるショックの影響を確認するために、これらの操作を行う前後での根の成長速度を測定し、比較しています。成長速度にあまり影響を及ぼさないような操作ならば、根へのショックはあまり大きくないだろうと考えられています。ちなみに、根冠は切除しても(切除が上手なら)再生してきます。屈性や成長速度の実験を行うときは、切除してからどのくらいの時間で再生するのかを確認してからの方が良いでしょう.
森田 美代(奈良先端科学技術大学院大学)
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を、根がどのようにして重力の方向を感知しているのかについての研究をなさっておられる奈良先端科学技術大学院大学の森田美代先生にお願い致しましたところ、以下のような丁寧なご回答をお寄せ下さいました。しっかりと勉強して下さい。
森田先生のご回答
エンバクは、オートムギ、マカラスムギ等の別名をもち、学名をAvena sativaといいます。高校の生物の授業でも屈性の実験としてアベナの幼葉鞘を用いた実験が紹介されています。一方,アベナの根の屈性については、報告は多くありません。今回はデンプンとアミロプラスト、根の重力屈性の関係が報告されているシロイヌナズナを主な例として考えたいと思います。
①まず、根のアミロプラスト内のデンプンを分解する方法です。お考えになったように、根を生かしたまま細胞内にアミラーゼを作用させるのは難しいと思います。蛋白質であるアミラーゼが活性を保ったまま、生きた細胞の膜を通過し,更にアミロプラストの膜をも通過してデンプンを分解することは、あまり期待できないように思います。別の方法としては,植物ホルモンを作用させることで、デンプンの分解を起こさせることが考えられます。シロイヌナズナでは、アブシジン酸処理や浸透圧ストレス処理などでアミロプラストのデンプン量を減少させることができます。しかしながら、このような方法は、デンプン量の変化以外に、成長への影響など、何らかの影響を及ぼす恐れがあるので、重力屈性の結果の解釈は簡単ではないと思います。
アミロプラストのデンプン量と根の重力屈性の関係ですが,シロイヌナズナでは、デンプン合成の変異体の解析から,デンプン量が上昇すれば重力屈性は強まり、デンプン量が減少すれば重力屈性は低下することが報告されています。そして、アミロプラスト内にデンプン蓄積が認められない様な変異体でも、重力屈性が完全に失われることは無く、弱いながらも重力屈性を示すことが分かっています。従って,デンプンは十分な重力屈性を引き起こすにはとても重要ですが,重力屈性に必須であるという訳ではありません。それでは、デンプン以外の何が必須か、ということになります。1)重力はデンプンを含まなくともアミロプラスト(プラスチド)が重要であるという説、2)細胞質全体の重さが重要であるという説、3)両者ともが関与するという説があります。現段階では、1)と3)が優勢ですが,はっきりした答えはまだありません。また、シロイヌナズナで得られた実験結果がそのまま全ての植物に当てはまるとも限りませんので、いろいろな植物で実験してみることは大切だと思います。
②最後に根冠切除についてです。根の先端には、アミロプラストを持つ細胞を含む根冠があり、それに近接して根の成長に重要な根端分裂組織があります。植物種にもよりますが,根冠だけを除くのは非常に難しく、おっしゃるとおり切断によるショックによって重力屈性に影響が出る可能性は十分に考えられます。トウモロコシやエンドウなど芽生えの根が比較的大きな植物を用いた、根冠切除の実験の報告があります。シロイヌナズナの根は非常に小さいので、根冠切除には向きませんが,顕微鏡下で根冠内の特定の細胞にレーザーを照射して焼いてしまう、という実験が行われました。いずれの場合も、それぞれの操作によるショックの影響を確認するために、これらの操作を行う前後での根の成長速度を測定し、比較しています。成長速度にあまり影響を及ぼさないような操作ならば、根へのショックはあまり大きくないだろうと考えられています。ちなみに、根冠は切除しても(切除が上手なら)再生してきます。屈性や成長速度の実験を行うときは、切除してからどのくらいの時間で再生するのかを確認してからの方が良いでしょう.
森田 美代(奈良先端科学技術大学院大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-10-31
柴岡 弘郎
回答日:2011-10-31