質問者:
自営業
erika0341
登録番号2540
登録日:2011-10-28
樹木のこぶについてご教授願います。 樹木のこぶについて
ニセアカシアやカエデ類など樹木の幹、特に地際から2〜3m位までの所に直径が30㎝になるようなこぶで出来ます。こぶは1個だけの場合もありますが、多くは大小様々なこぶが重なるように樹幹を覆っていて、直径が1m前後になる老齢樹でよく見かけます。また、ニセアカシアにつくこぶはサクラのこぶ病に似ていて表面がごつごつしていますが、ケヤキやカエデ類につくこぶの樹皮はごつごつしている部分もありますが、正常な樹皮とかわらない部分が多いです。これらのこぶは何が原因で、どのような作用でこのように大きなこぶになるのでしょうか?
登録番号2514の「植物のガンについて」において、回答者は「植物のこぶ」をバラなどの根につく根頭がんしゅ病のこぶを想定して回答されているように思うのですが、ニセアカシアやケヤキなどの樹木のこぶもアグロバクテリウムのような細菌が原因であのような大きなこぶができるのでしょうか? それとも紫外線や老齢木になると樹木自体に生理的な植物ホルモンの異常が起こり、あのようなこぶが出来るのでしょうか? よろしくお願いします。
erika0341さま
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。ご回答が遅くなり申し訳ございませんでした。お忙しい事は十分存じ上げていたのですが、コブならこの方という名古屋大学の町田先生にお願い致しましたところ、以下のようなご回答をお寄せ下さいました。ご参考になると思います。
町田先生のご回答
(1) について:
お話を伺う限り、上記 のような「こぶ」は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスの感染により出来る、「根頭がんしゅ病」と考えてもよいでしょう。この質問をされた方が、違う病気かもしれないと、疑問に思われた理由は、通常多くの「根頭がんしゅ病」が、根と茎の境界部分(地面に接している部分)にできるのに、なぜ、高い位置にできるのか、と思われたからでしょうか。実は、半世紀以上前から、「二次こぶ」という現象が報告されています。今回ここで問題にされている高い位置の「こぶ」は、このような「二次こぶ」ではないかと思います。アグロバクテリウムは土壌細菌ですので、最初は植物の地面の近い部分にこの細菌が感染して「一次こぶ」ができます。それからしばらくして(数ヶ月から数年に渡ることもある)、「傷」による明瞭な感染部位がなくても、地上部の高い位置に「こぶ」が形成されることがあり、これを「二次こぶ」と呼びます(英語では、Secondary gall と呼びますが、最近ではほとんど死語になっています)。「二次こぶ」は多くの場合、老齢な木に見られます。このような現象は興味深いのですが、今でも理由はわかりません。私は、「一次こぶ」の中で増えたアグロバクテリウムが、維管束や、細胞間隙を伝わって植物の体内を動き、傷ついた細胞に出会うと感染し、細胞増殖を誘発し。「こぶ」ができるのではないかと、考えています。
(2) について:
「根頭がんしゅ病」の主な原因は、アグロバクテリウムが保有する複数の遺伝子が、植物の染色体の中に入り込み、それらが機能発現するようになった結果、細胞の増殖が誘発されることです。染色体に入り込んだ遺伝子の中には、植物細胞の増殖や分化状態に影響を与えるオーキシンやサイトカイニンという植物ホルモンの合成に影響を与える複数の遺伝子があります。これら個々の遺伝子の機能発現の程度やバランスは、感染する植物の種類によって異なっていると考えられています。植物により「こぶ」の形が異なるのは、これらの遺伝子の機能発現のバランスの違いによるかもしれません。実際に、サイトカイニン合成に関わる遺伝子の機能が上昇すると、「こぶ」の表面に異形葉・芽ができ、オーキシン合成に関わる遺伝子の機能が上昇すると、表面に異形な根をもつ「こぶ」ができます。両者のレベルが共に高いと、不定型な大きな「こぶ」ができます。しかし、このような説明で、「こぶ」の「ごつごつ」感や「樹皮のような柔らかさ」が説明できるかどうか、わかりません。もしかしたら、まだ知られていない遺伝子の働きにより、このような「こぶ」の形が支配されているのかもしれません。
(3) について:
上記したように、アグロバクテリウムは樹木の「こぶ」の原因になります。実際、「根頭がんしゅ病」は、クルミ、アーモンド、リンゴ、サクラ、バラなどの樹木で報告があります。
町田 泰則(名古屋大学)
みんなのひろばへのご質問有り難うございました。ご回答が遅くなり申し訳ございませんでした。お忙しい事は十分存じ上げていたのですが、コブならこの方という名古屋大学の町田先生にお願い致しましたところ、以下のようなご回答をお寄せ下さいました。ご参考になると思います。
町田先生のご回答
(1) について:
お話を伺う限り、上記 のような「こぶ」は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスの感染により出来る、「根頭がんしゅ病」と考えてもよいでしょう。この質問をされた方が、違う病気かもしれないと、疑問に思われた理由は、通常多くの「根頭がんしゅ病」が、根と茎の境界部分(地面に接している部分)にできるのに、なぜ、高い位置にできるのか、と思われたからでしょうか。実は、半世紀以上前から、「二次こぶ」という現象が報告されています。今回ここで問題にされている高い位置の「こぶ」は、このような「二次こぶ」ではないかと思います。アグロバクテリウムは土壌細菌ですので、最初は植物の地面の近い部分にこの細菌が感染して「一次こぶ」ができます。それからしばらくして(数ヶ月から数年に渡ることもある)、「傷」による明瞭な感染部位がなくても、地上部の高い位置に「こぶ」が形成されることがあり、これを「二次こぶ」と呼びます(英語では、Secondary gall と呼びますが、最近ではほとんど死語になっています)。「二次こぶ」は多くの場合、老齢な木に見られます。このような現象は興味深いのですが、今でも理由はわかりません。私は、「一次こぶ」の中で増えたアグロバクテリウムが、維管束や、細胞間隙を伝わって植物の体内を動き、傷ついた細胞に出会うと感染し、細胞増殖を誘発し。「こぶ」ができるのではないかと、考えています。
(2) について:
「根頭がんしゅ病」の主な原因は、アグロバクテリウムが保有する複数の遺伝子が、植物の染色体の中に入り込み、それらが機能発現するようになった結果、細胞の増殖が誘発されることです。染色体に入り込んだ遺伝子の中には、植物細胞の増殖や分化状態に影響を与えるオーキシンやサイトカイニンという植物ホルモンの合成に影響を与える複数の遺伝子があります。これら個々の遺伝子の機能発現の程度やバランスは、感染する植物の種類によって異なっていると考えられています。植物により「こぶ」の形が異なるのは、これらの遺伝子の機能発現のバランスの違いによるかもしれません。実際に、サイトカイニン合成に関わる遺伝子の機能が上昇すると、「こぶ」の表面に異形葉・芽ができ、オーキシン合成に関わる遺伝子の機能が上昇すると、表面に異形な根をもつ「こぶ」ができます。両者のレベルが共に高いと、不定型な大きな「こぶ」ができます。しかし、このような説明で、「こぶ」の「ごつごつ」感や「樹皮のような柔らかさ」が説明できるかどうか、わかりません。もしかしたら、まだ知られていない遺伝子の働きにより、このような「こぶ」の形が支配されているのかもしれません。
(3) について:
上記したように、アグロバクテリウムは樹木の「こぶ」の原因になります。実際、「根頭がんしゅ病」は、クルミ、アーモンド、リンゴ、サクラ、バラなどの樹木で報告があります。
町田 泰則(名古屋大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-12-09
柴岡 弘郎
回答日:2011-12-09