一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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表作と裏作の要因

質問者:   会社員   sakipapa
登録番号2557   登録日:2011-11-15
果樹にはみかんや柿などでよく実の付く年とそうでない年があると聞きます。
私は仕事でコーヒーにたずさわっているのですが、同じようにコーヒーの樹もブラジルなどでは表作と裏作で生産量が大きく変わっています。
こういった植物の表作と裏作のように収穫量に差が出る要因というのは、植物の性質としてどんなことがあげられるのでしょうか。
大きな収穫の後では樹が疲れて翌年には収量が落ちてしまうといった程度の認識しかないのですが、もう少し植物の性質や特徴に沿って具体的な理由があれば教えていただきたいです。よろしくお願いいたします。
sakipapa さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

「表作と裏作」という用語は、二毛作などにおける主たる作物栽培(表作)とその収穫後に作付ける栽培(裏作)の場合と、果樹における隔年結果性の「なり年」を表作、「不作年」を裏作と呼ぶ二様の使い方あります。ご質問は、後者の隔年結果についての問題です。日本ではコーヒーについての研究は少ないのですが、ミカン、リンゴ、カキ栽培などにおいては毎年安定収穫確保の観点から多くの研究がなされていますので、それらの結果をもとにお答えいたします。

果樹の隔年結果はよく考えると大変面白く不思議な現象です。受粉から果実成熟までの期間が長く、果実が成長中にすでに翌年の花芽形成がおきる果樹に強く見られる現象です。果樹ではどの枝に果実がつくか(花が咲くか)は種類によって少し違いますが、一般には、ある枝の果実が生長をはじめると翌年の花芽形成が抑制される傾向がありますので、ある年に沢山の果実がつけば、翌年の花芽形成数が減少して結果数が少なくなるのだとされています。その原因にはいくつかのことが指摘されています。1つは光合成産物が果実成長に使われるので、翌年の花芽形成への資源が減少するため(個体内の栄養配分の問題)で、これは摘果や剪定などの効果から考えられています。2つ目は植物ホルモンの関与で、果実の種子には多量のジベレリンやアブシシン酸が蓄積するのでそれらが枝に移行し花芽形成に影響することが推定されるとするものです。またオリーブなどでは果実成長の影響で枝にフェノール性物質が蓄積しそれが花芽形成を抑制するとの報告もあります。しかし、よく考えてみるとこれらの説明は個体レベルでは確かにそうですが、実際の隔年結果は果樹園全体(かなり広い地域、地方全体でも)でおこるので、どうして個々の果樹の「なり年」が同調するのか、の疑問がおこります。個々の果樹の隔年結果がランダムにおきれば、果樹園全体、地域、地方全体としては安定した収穫が得られるはずです。この同調性には環境の影響を考える必要がありそうです。ある年の花芽形成時期に異常高温、異常低温や異常乾燥、日照不足などなどがおきたためと考えれば説明はできますがなお疑問は残ります。隔年結果は、種、品種、によって程度が大きく違ったり、若い果樹ではおこりにくいが成熟した果樹でおこったり、ある種のナシのように「なり年」の次の2年間は不作年で3年目に「なり年」となったり、ナラ、カシなどのドングリ類では数年おきに「なり年」がくるとか、2つ3つの生理学的説明では説明できない現象もありますのでまだ解明されていない問題の1つです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2011-12-09
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