一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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サラシナショウマの花

質問者:   一般   山花
登録番号2559   登録日:2011-11-24
サラシナショウマの花について観察していて疑問に思ったことを質問します。
雄花と両性花があり、花弁、がく片は早落性と図鑑などに書かれています。
ただ写真や図があまりなく、花弁と雌しべはどんな形をしているのか分かりません。ネット上で見た写真と図鑑(山渓ハンディ図鑑「山に咲く花」P.315 ⑩の写真)では明らかな違いがあります。
⑩の写真では、花弁は雄花の中央の先の曲がった3個となっていますが、同じ形の雌しべが雄しべが落ちた後も残り結実しているのを観察しています。
素人の私には⑩の写真が両性花で中央の先の曲がった3個は雌しべに見えるのですが…
花弁は雌しべと同じような形をしているのでしょうか?
出版元にメールしてみたのですが届かないし、他に質問する手だてが分からず
以前「みんなのひろば」に2回質問し、とても丁寧で詳しい回答を頂いたので
また、お願いさせて頂きました。
山花さま

 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。大変お待たせいたしましたが、神戸大学の小菅桂子先生からご回答を頂きましたので、お送りします。私も大変勉強になりました。サラシナショウマは毎年伊吹山で見ていますが、花の中をのぞいたことがありませんでした。来年は覗いて見ようと思っています。



【小菅先生からのご回答】
 写真は見ておりませんが、花は基本的に外からガク、花弁、雄しべ、雌しべの順に並んでいます。八重咲きなどで花弁が真ん中に出てくることもありますが、野生のサラシナショウマの仲間でそのような花を見たことがありません。たぶん、“中央の先の曲がった3個”は雌しべで、先の曲がった部分が花粉を受け取る柱頭とその柄(花柱)だと思います。花が咲いているとき、雌しべは白色のゴマ粒より少し細長い形をしており、先の部分(花柱)が少しのび、さらにその先端は細かな突起がたくさんある柱頭となっています。実が熟すにつれて雌しべ(果実)は緑色になり、根元の柄の部分が伸びてきます。雌しべは両生花にしか見られませんが、雄花の中央部をよくみると雌しべの痕跡、小さな突起が真ん中に見られます。
次に花弁ですが、これは花の咲いている時にはほとんど見ることができません。花が少し開いたときに雄しべのすぐ外側を見てください。お椀のような白いガクに比べて幅が狭く、先が2つにわかれ、根元がすこし細くなったものが数枚見られます。これが花弁です。
 サラシナショウマなどが分類されているキンポウゲ科では、花弁の形がグループによって非常に変化しています。この科では進化の過程で外側の雄しべが花弁になったと考えられています。この科の植物の多くは、ガクが緑色ではなく、白、黄、青、赤などカラフルで花を保護する働きと蜂や蝶などを引きつける働きも持っています。一方、花弁は蜜を分泌して虫を集める働きをもち、植物ごとにさまざまな形をしています。
 遺伝子の情報からサラシナショウマの仲間に最も近いと言われるセツブンソウでは、白いガク片の内側にオレンジ色をした雄しべと同じ大きさ花弁があります。この花弁は深いコップのような形をしていて蜜を蓄えています。これらに近縁なクリスマスローズの仲間にも同じような構造をした薄緑色の小さな花弁があります。また、デルフィニウムやトリカブトの仲間では、花弁の蜜を蓄える部分が“距”と呼ばれるもっと深いカップになり、この部分がガク片のひとつに包まれた状態になっています。一方、このグループと少し離れたセンニンソウやアネモネの仲間ではガクはありますが、花弁にあたるものは見られません。サラシナショウマの仲間は、進化の過程でたくさんの雄しべと香りで昆虫を呼び寄せるという戦略をとるように特殊化し、花弁やガクは虫を誘惑する働きを失ったため、“早落性”になったと思われます。
 花の構造がわからないときは開花前の蕾を観察するといろいろなことが見えてきます。サラシナショウマの両生花の蕾だと、白いサラダボールのようなガクが外側をがっちりと包み、雄しべは花糸が伸びていないので葯がらせん状に並んでいます。雌しべはその真ん中にはっきりと見えます。花弁は葯の並びの一番外側、小さな舌のような形をしたものが葯に寄り添っています。

小菅 桂子(神戸大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2011-12-21
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