質問者:
教員
額鷹
登録番号2572
登録日:2011-12-17
いつもお世話になっています。専門家の説明ということで信頼して利用することができ、ありがたく思っています。みんなのひろば
葉に形成層はあると言うべきか?ないと言うべきか?
さて、葉に形成層があるのか?ないのか?を質問され、調べてみたのですが、明確になりません。岩波『生物学辞典』の形成層の項には葉の形成層に関する記述がなく、東京化学同人『生物学辞典』には「茎や根などの」肥大成長を担うことが説明された後に「葉には形成層はないか、あっても大型葉の葉柄を除き不活発である」とあります。とすると、一部の植物の葉にはあるということになります。
そこで質問したいのが、次の各点です。
(1)葉に形成層をもつ植物と葉に形成層をもたない植物のどちらの方が多いのか?
(2)同じ個体の中でも、大型の葉だと存在するが、小型の葉には存在しないというような現象があるのか?
(3)葉に形成層が存在する植物の場合、葉脈のすべての部分にあるのか? それとも、葉脈のさらに一部にだけあるのか?
(4)葉の形成層はどのような役割を果たしているのか?
(5)葉に形成層はあると言うべきなのか?ないと言うべきなのか?
一番、お聞きしたいのは、タイトルにもしましたが、(5)です。
高校生・浪人生を教えていると“細かい点にこだわりすぎる”学生がいます。例外の存在が当然の生物についての教育の場では、“過度の厳密さ”はかえって妥当な理解を阻害する面があり、悩ましいところなのです
たとえば、キンポウゲで維管束が消失しているからといって、「維管束植物は一般的に維管束をもつ」とか「維管束植物には維管束をもつものともたないものがある」と説明したりすれば、学生は混乱してしまいますから。
ほとんどの植物の葉が形成層をもたない、つまり、もつものがきわめて例外的ならば、葉に形成層はないと言うべきということになると思います(生物学では例外の存在は当然のこととして)。
大半の植物の葉は形成層をもたないが、無視できない割合の植物がもつならば「一般に」をつける必要が出てくると思いますしきますし、6:4といった割合ならば、「もつ種ともたない種がある」と言う方が良い気がします。
細かいことになりますが、よろしくお願いします。
額鷹さま
大変長い間お待たせ致しました。生物学辞典のあの項目を担当された方の海外出張は長引きそうですが、出張先から、日本女子大学の今市涼子先生にお願いしたらという助言を頂きました。その助言に従い今市先生にお願いいたしましたところ、以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。お役に立つものと思います。
【今市先生からのご回答】
(1)葉に形成層をもつ植物と葉に形成層をもたない植物のどちらの方が多いのか?
裸子植物ではソテツとマツについて、葉に形成層があり二次木部が作られることが広く知られています。また被子植物の場合、常緑で多年にわたって生きる葉の葉柄や中肋に形成層が形成され二次木部が形成されることはありますが、作られる二次木部の量は少ないといわれています。しかし常緑樹、落葉樹、多年生草本、一年生草本などでどのくらいの種で形成層の有無が確かめられているか、私は存じませんが、多数をみて形成層の有無のスクーリニングのような仕事はやられていないのではないかと考えます。
(2)同じ個体の中でも、大型の葉だと存在するが、小型の葉には存在しないというような現象があるのか?
多年に渡って生きる葉では、形成直後と数年後の葉では確かに違いがあるという事になりますでしょうか。しかし同じ植物個体内で大型と小型で違いがあるということはないかと考えます。
(3)葉に形成層が存在する植物の場合、葉脈のすべての部分にあるのか? それとも、葉脈のさらに一部にだけあるのか?
中肋にはある場合でも、側脈で高次になれば太さも細くなり形成層をもたないと考えられます。
(4)葉の形成層はどのような役割を果たしているのか?
機械的支持力の強化に役立っていると考えますが、ソテツやマツでは表皮に厚いクチクラ層をもち葉が硬くなっていますので、実際にどの程度役立っているのか明らかではないと思います。被子植物の常緑葉の場合、それほど表皮層が硬くなっているとは思えませんので、機械的支持力増加に貢献していると考えられます。
(5)葉に形成層はあると言うべきなのか?ないと言うべきなのか
葉は形成層をもたない、と言っていいと考えます。もたないのが一般的だが、例外的に裸子植物と被子植物で常緑多年生の葉の葉柄や太い葉脈に形成層をもつことがあると理解していただくのが正確かと考えます。
今市 涼子(日本女子大学)
大変長い間お待たせ致しました。生物学辞典のあの項目を担当された方の海外出張は長引きそうですが、出張先から、日本女子大学の今市涼子先生にお願いしたらという助言を頂きました。その助言に従い今市先生にお願いいたしましたところ、以下のような詳しいご回答をお寄せ下さいました。お役に立つものと思います。
【今市先生からのご回答】
(1)葉に形成層をもつ植物と葉に形成層をもたない植物のどちらの方が多いのか?
裸子植物ではソテツとマツについて、葉に形成層があり二次木部が作られることが広く知られています。また被子植物の場合、常緑で多年にわたって生きる葉の葉柄や中肋に形成層が形成され二次木部が形成されることはありますが、作られる二次木部の量は少ないといわれています。しかし常緑樹、落葉樹、多年生草本、一年生草本などでどのくらいの種で形成層の有無が確かめられているか、私は存じませんが、多数をみて形成層の有無のスクーリニングのような仕事はやられていないのではないかと考えます。
(2)同じ個体の中でも、大型の葉だと存在するが、小型の葉には存在しないというような現象があるのか?
多年に渡って生きる葉では、形成直後と数年後の葉では確かに違いがあるという事になりますでしょうか。しかし同じ植物個体内で大型と小型で違いがあるということはないかと考えます。
(3)葉に形成層が存在する植物の場合、葉脈のすべての部分にあるのか? それとも、葉脈のさらに一部にだけあるのか?
中肋にはある場合でも、側脈で高次になれば太さも細くなり形成層をもたないと考えられます。
(4)葉の形成層はどのような役割を果たしているのか?
機械的支持力の強化に役立っていると考えますが、ソテツやマツでは表皮に厚いクチクラ層をもち葉が硬くなっていますので、実際にどの程度役立っているのか明らかではないと思います。被子植物の常緑葉の場合、それほど表皮層が硬くなっているとは思えませんので、機械的支持力増加に貢献していると考えられます。
(5)葉に形成層はあると言うべきなのか?ないと言うべきなのか
葉は形成層をもたない、と言っていいと考えます。もたないのが一般的だが、例外的に裸子植物と被子植物で常緑多年生の葉の葉柄や太い葉脈に形成層をもつことがあると理解していただくのが正確かと考えます。
今市 涼子(日本女子大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2012-01-20
柴岡 弘郎
回答日:2012-01-20