一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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樹木の樹形について

質問者:   公務員   fhan0112
登録番号2579   登録日:2012-01-06
お世話になります。
樹木の樹形について質問させていただきます。
現在、私は札幌に住んでいるのですが、学生時代は東京に数年間住んでおりました。その時に見たケヤキの樹形はスマートというか背の高い盃状の樹形をしているものが多かったように思います。
しかし、札幌のケヤキは、樹木の間隔が狭い場合は、上に伸びて比較的細長い樹形になるのですが、独立木や間隔が広い樹の場合は、樹幅と樹高の比が1:1というより、樹幅のほうが広いようです。札幌の大通公園に植わっているケヤキも樹高より樹幅のほうが広い扇状の形をしています。
この傾向は、ケヤキほど明らかではないのですが、イチョウにも言えます。古い公園に植わっている独立木のイチョウはずんぐりむっくりしているように思えます。
これらの現象はどのような理由により起こるのでしょか?
自分で考えられるのは

①緯度の違い
②雪の重み

の二つしか浮かばないのです。
しかし、この二つ考え方も

①については、
 太陽の光を効率よく受けようと思うなら、高緯度になればなるほど枝を横に 伸ばすより立てたほうがいいのではないか 

②雪の重みについても、
 主幹から枝が横に広がっている位置は、札幌の平均積雪深1mよりはるかに高い3m以上の高さである
と考えると、これら二つの考え方もそれらしい答えになっていません。

また、ケヤキとイチョウ以外に、場所(自分のなかでは札幌と東京が頭にありますので、場所の意味合いは緯度に近いです)よって樹形に違いが出る樹種は思い当りません。、
そこで、教えていただきたいのですが

①ケヤキとイチョウ以外に場所によって樹形に違いでる樹種があれば教えていただきたいのです。
②これらの樹種はどのような理由(作用)により樹形に違いが出てくるのでしょうか?
③その理由は、樹木に共通する理由(作用)によるものか?それとも、樹種によってそれぞれ違う理由(作用)よるものか

以上3点についてご教授いただければありがたいです。
よろしくお願いします。
fhan0112さま
 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。メールの行き違いから回答が大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。頂いたご質問の回答を北海道大学地球環境科学研究員の甲山隆司先生にお願いいたしましたところ以下のような回答をお寄せ下さいました。ご参考になさって下さい。



【甲山先生のご回答】

 樹形に関するご質問ありがとうございます。(住所でなく)分野が近いということで北海道大学の甲山から回答させていただきます。

 樹木の分枝形状は、環境によって変化します。とりわけ、近隣の他樹木との間で光をめぐる競争が生じているような状態では、樹冠(枝分かれして葉を展開している部分)を横に広げるより高い方向に持ち上げる傾向があり、その結果としてひょろ長い樹形になります。森林を形成する樹木で顕著です。これに対して、孤立状態では光捕捉のために縦横両方向に樹冠を発達させます。林床の暗い環境では、高くなっても光を捕捉できる可能性が低いために、傘を広げたような樹冠を持つ低木や高木稚樹も一般的です。また、乾燥する立地では湿性の立地よりも樹高が高くならず、横長の樹冠になる傾向があります。

 ケヤキやイチョウでご覧になった傾向は緯度の違いではなく、混み合い状況に拠っていると思います。高い建物に囲まれた通りの街路樹では、建物による遮蔽でやはりひょろ長い樹冠になる傾向があるでしょう。広い大通公園で広闊な樹冠を持つのは、建物による遮蔽効果が小さいせいでしょう。

 緯度傾度に沿っては、太陽光の入射角が低くなるため、大雑把に言えば、樹冠形が熱帯の横長から、亜寒帯の縦長に変化する傾向があります。ケヤキは北海道には自生せず本州から移植されたものですし、イチョウも、かつて中国から持ち込まれたものですので、遺伝的に緯度や積雪に適応しているとは考えにくく、置かれた環境に応じて個体毎に樹形を変化させているわけです。

甲山 隆司(北海道大学地球環境科学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2012-01-26